第四十七話 Eランク昇格への道 五 ゴブリン討伐依頼 二
山の木々からこぼれてくる太陽の光を浴びながら俺達は山道を慎重に進んでいた。
装備はいつも通り、に加えて俺は長剣だ。
「こっちにもあるよ、足跡」
座った状態から青いブレザーを翻し、こちらを黒い瞳が覗く。
「ここら辺まで来てるのか。足跡の数も多いし、新しい」
そう言いながら新しく踏み倒されたであろう草を見る。
多い。村長も言ってたけど十は確定。それ以上いるな。
囲まれたら大変だな。
「囲まれないよう注意しながら行かないとな」
「上位種がいたらどうする」
少し進み、こちらに意見を求めてくる。
今日はやけに慎重だな。いや慎重なのはいいんだが。
「一体だけなら討伐。一体に加えて他のゴブリンもいたら一時撤退と他の冒険者の派遣要請、だな」
俺なりの意見を言い、また少し進む。
Fランク冒険者としてはセオリー通りの対処法だ。
上位種がいるだけで全滅の危険性が跳ね上がる。
それに俺達は二人だ。
上位種がいる中、五体以上のゴブリンに囲まれたら目も当てられない。
「了解っと」
「来たな」
腰の長剣を出し、構える。
ケイロンも細剣を構え迎撃態勢に。
進んでいる途中から雰囲気が変わった。
前から来たのは三体程のゴブリンだ。
「デリク。少し僕にやらせてもらえないかな? 」
「……構わないが、まずそうなら割り込むぞ? 」
「いいよ、それで」
そう言うとケイロンは魔法を唱え始めた。
「付与: 鋭利な風刃」
「移動速度上昇」
途端にケイロンの細剣から風が巻き起こる。
緑色に輝く風は一瞬で収束していき、細剣の周りをぐるぐると周る。
「ッシ!!! 」
細剣を構えたと思ったら、一瞬でゴブリンと距離を詰め首を撥ね飛ばす。
勢いあまってか倒したゴブリンの背後まで行ってしまっているが、そこから体を反転させ背後から一閃。
最後にもう一体の首を撥ね、一体目の首が上から落ちた。
一瞬にして三体。ゴブリン達は持っている棍棒を持ち上げることなく絶命した。
「ふぅ、できた」
「……すげぇな」
「デリクがいなくちゃこうもいかなかったと思うけど」
「俺は何もしてないんだが」
フフと笑いながら、細剣を一度振り、鞘にしまう。
「じゃ、悪いんだけど」
「分かってるって、後は任せろ。その代わり周りを警戒していてくれ」
「了解」
ゴブリン討伐証明となる耳の部分を解体用ナイフで切り取り魔石がないか確認し発火で燃やすのであった。
★
ふぅ、大丈夫だった。
アンデリックが一人黙々とゴブリンの処理をしている間ケイロンは安堵していた。
デリクがデビルグリズリーと戦った時に感じたけど、震えなくなってる。
これで僕も戦える。
前と同じように、いやそれ以上に動けることを喜び、握りこぶしを作る。
もう、目の前でデリクが倒れるのは嫌なんだ。
そう思いアンデリックを見る。
僕達はパーティーだ。出来るだけ彼の力にならなくちゃね。
意気込みはいいがその積極的な行動により家人が騒いでいるのを彼女は知らない。
「よし、終わったぞ」
「うん、行こう! 」
彼女は気分を新たに前に進む。
★
俺達は山を前進していた。
時々小型動物の死骸が見当たる。
ゴブリン達が食べた後だろう。
「中々に酷いね」
「人じゃない分マシだな」
死骸は白骨化しており、時間が経っていることが分かる。
一旦は止まり観察したが、情報となるようなものは出てこなかった。
「大型の動物がやられていないってことはそこまで大きな集団じゃないってことか? 」
「分からない。だから油断は禁物だよ」
「確かに」
さっきは前からゴブリンが来たのでその方向を進んでいる。
骨を見つけては移動方向を話し合っているが中々出くわさない。
三体で全部ということは無いだろう。
少なくとも十はいるんだから。
「中々に出くわさないね」
「っと思えばなんか開けてるぞ」
「この場所覚えある? 」
「いや、無いな。というよりもあまりこの山には入ってなかったから」
「そっか。なら仕方ないね。気を付けながら進もう」
この村に来たことがあるから山にも入ったことがあると思い聞いてきたのだろう。しかし、流石に山には入らなかった。精々山の手前までだ。
二人、出来るだけ足音を消し前に進む。
そーっと、そーっと進む。
開けた場所の手前まで来ると、木の陰に隠れながらゆっくりと前を見た。
隙間から目に映ったのはゴブリンの群れだった。
しかし多くない。
十二、三ほどだ。
ウサギだろうか、食事に夢中でこちらの気配に気づいた雰囲気はない。
「どうする、倒す? 引く? 」
「……上位種もいなさそうだし……倒すか」
「了解」
気配を消しながらも小声で会話をする。
倒す方向に話が決まると準備を。
そう言えば付与魔法を使ってたな。
魔力残量はどうだろうか?
「魔力は大丈夫か? 」
「今回は魔法は使わない」
「え? 」
「さっきのは安全策をとっただけ。もしかしたら帰りに他のゴブリンがいるかもしれないからその時ように取っておく」
「……わかった。だが危なくなりそうだったら躊躇なく使えよ? 」
「勿論」
「じゃぁ合図を。三、二、一……行くぞ」
そっと合図をし、ゴブリン達に奇襲をかけた。
★
結果は勝利だ。
驚くほど簡単に勝てた。
と、言うよりもケイロンが魔法を使わなくてもあれだけの機動力を出せたのが吃驚だ。
前の三体の時が安全策と言っていたのも頷ける。かなり戦闘慣れしているように見えたのはきっと気のせいじゃないだろう。
問題は……俺だよな。
「う~ん。どうしたものか」
「デリク、どうしたの? 」
ケイロンが周りの警戒をしながら聞いてくる。
「いや、戦闘中にデビルグリズリーの時みたいな……なんていうか相手の行動がブレて見えるような感覚に襲われてな」
「あれってそうだったの」
「なんだ、ケイロンの目にもおかしく映ったのか? 」
「おかしくというか、未来が視えているような感じ? かな」
未来。
なるほど。確かにあの時は未来だった気がする。
ブレて見えるというよりかは行動の先読みをしているような感じだ。
それだけなら問題ないんだが……
「っと、発火」
証明部位と魔石をとり、燃やす。
異臭が漂う中、くらっとした。
「デリク大丈夫?! 」
「あ、あぁ……大丈夫だ」
「今ふらついてたけど」
「何か、あれが視えたら魔力をごっそり持ってかれるみたいだ。多分デビルグリズリーの時の魔力欠乏ってこれが原因じゃないか」
「そっか。なら今日は一旦切り上げよう」
ゴブリン達が燃え尽きた後、俺達は下山した。
特にモンスターに出くわすこともなく村へと戻る。
今日のゴブリン討伐が終わったことを村長に伝え、俺達は休むのであった。
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