第四十六話 Eランク昇格への道 五 ゴブリン討伐依頼 一
カタコトカタコトと音を立てながら俺達は被害村へ向かっていた。
目的地はアセト村、目的はゴブリンの討伐である。
ゴブリンの討伐や探索依頼は、いつもなら常時張り出されていたようだ。
しかし前回のモンスター暴走でバジルの町周辺のゴブリンは根こそぎ倒されてしまった。よってこうして村まで出向いているわけだ。
馬車に揺られながら進む。
この馬車はアセト村へ定期で通ってるものだ。
まぁ最もアセト村は中継地点になっているだけなんだが。
「ねぇデリク、アセト村ってどんな村か分かる? 」
「ケイロンの方が詳しいんじゃないか? 」
「残念。名前は知ってるけどそれ以外は」
「そっか。なら一応説明な。アセト村は……特に特徴がない村だ」
「……なんか、こうもうちょっとないの? 」
むむむ、ケイロンは不満のようだ。
少し呆れた顔で覗いてくる。
ちらりと黒髪が反射する。まだ低い太陽の光を浴びたようだ。
早朝ということもあってか人は乗っていない。
相乗り馬車だが今は二人っきりだ。
「強いていうなら俺の村と同じでムギを作ってるってところか」
「そうなんだ」
「だけどそこまで規模が大きいわけじゃないし、町から比べれば色あせているかもしれないな」
「……なんか知った風だね? 」
「そりゃぁ、行ったことあるからな」
ガタン。
馬車が何か乗り上げたようだ。
だがそのまま進む。
「雰囲気まで知ってると思えば行ったことあるんだ。納得」
「あの村は、いやあの村もだけど山が近くにあるんだ。俺達は時々あの村へ行ってはムギを持って行って黒パンにしてもらってた。だからそこそこの付き合いがあるんだよ」
へぇというケイロンの声と共に俺達はアセト村へ向かった。
★
「あらぁ～アンデリックちゃんじゃない」
「兄さんだ」
「お久しぶりね～」
俺とケイロンが馬車を降り、アセト村へ着くとそこには見知った人達がいた。
勿論アセト村の人達だ。
おばさんから子供まで、知り合いだ。
そんな中恰幅の良いおばさんがケイロンを見て、何かに気付いたような顔をする。
「ちょっとアンデリックちゃん。もしかして結婚の挨拶?! 」
「え、兄さん結婚するの?! 」
「狙ってたのに～」
「ち、違います! 違いますよ! それにケイロンは男ですから! 彼は男ですから! 」
それを聞きいつの間にか集まったおばさん集団が信じられないという表情をする。
一人安堵した表情を浮かべているが……どうしたらいいんだ?
「成人したから結婚の挨拶周りじゃないの? 」
「そうよ、そうに決まってるわ」
「なら村をあげて祝わないとね」
「……今さっき違うって言ったじゃない」
誰か止めて! おばさんたちを止めて!
ケイロン!
相方に助けを求める為に隣を見ると「ぼ、僕とデリクがけ、け、け、結婚! まだ早いよ! もっと順序を。いやそれよりも父上にどう話したら……」何かブツブツと独り言を言ってる。
ダメだ。
今のケイロンは戦力にならない。
「なら話は早いわ」
「そうね、宴の準備をしないと」」
「嫌よ、そんな……嫌よぉぉ! 」
くっ! おばさん達も妄想が止まらない。
このままだと本当に結婚したことになってしまう。
どうしたら……。
「何をしている! 」
その声に全員が振り向いた。
その先には背が低い猫背の老人がいた。
「村長! 」
「おお、アンデリックか」
俺が救世主に声をかけ、手を振る。
救世主もそれに応じながら杖をつきながらこちらへ向かってきた。
「アンデリック久しぶりじゃのう。前はパンを焼きに来た時以来か」
「ええ、お久しぶりです、村長。実はお話がありまして……」
「話し? ん? あぁ成程……」
俺とケイロンを見て、何度も頷く。
どうやら気づいてくれたようだ。
流石村長、無駄に歳をとってない。
武器を持っていることで依頼を受けに来たということが分かったようだ。
「結婚の話かの」
おい村長、お前もか。
★
結局あれから誤解を解くのにかなり時間がかかった。
宴の話が出て、村長が乗り気になったのが原因だ。
しかし俺達が冒険者ギルドから派遣された事に加えてギルドカードを出したらやっとのことでわかってもらえた。
一応。
「すまんすまん。悪気があったわけじゃないんじゃ」
「大丈夫ですよ」
「途中から悪乗りだったじゃないか」
俺がジト目で見るが、村長は目を合わせず違う方向を見る。そしてケイロンが少し咳払いをして話を進めた。
「さて、依頼の話をしましょう」
「おお、そうじゃった」
「いつからゴブリンが出たんですか? 」
「あれはの……」
村長がゴブリンが数日前に確認されたところから話を始めた。
ゴブリンが発見された時、村長は村の人を集め意見を出し合い考えた。
冒険者ギルドに依頼を出すべきかどうかである。
この村の男衆は「俺達でやってやる! 」と息込んだが他の者達は「依頼を出すべきでは? 」という意見が多かった。
「依頼を出すにはお金がかかるしのう」
「しかし怪我を、いや村を襲われたら元も子もないのでは? 」
「そうなんじゃが……」
「男衆の面目、ですね」
「そう言うことじゃ。しかし考えている間に事件が起こった」
いつの間にか討伐に行った男衆の一人がけがをして帰ってきたのだ。
「それで急いで依頼を出した、ということじゃ」
「そう言うことでしたか」
「男衆はもう黙ってるんですか? 」
「何回か山へ討伐に向かったようじゃがいずれも怪我をして帰っての。流石に痛い目を見たようじゃ。今は黙り込んでるのぉ」
「数とかは分かりますか? 」
「十体は分かっとるんじゃが、それ以上はわかん」
「そうですか……」
悲痛そうな顔で皺くれた顔を歪める。
「一先ず山を見に行ってみます。危なそうだったら一旦帰ってきますので」
「すまんが、よろしく頼む」
こうして俺達はゴブリン退治をしに山へ登るのであった。
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