第四十三話 Eランク昇格への道 三 パン屋さんのお手伝い 一
俺達は早朝宿屋『銀狼』を出た。
依頼書には昼ごはんは出るようなのでフェルーナさんに昼はいらない事を伝えている。
真っ暗だ。
早朝、というよりも深夜と言った時間の方が正しい。
トッキーが「この時代の人達も窮屈な生活してるねぇ」とか言っていたが、生活の為だ。仕方ないだろう。
「ここから北の山に向かって行くんだっけ」
「ああ町外れ、というよりも町の外だな。これは」
ケイロンがこちらに向き聞いてくるので顔を向け答えた。
下から黒い瞳で覗いてくる姿は正直少し怖い。
黒い瞳と周りの色が同化しているのだ。しかもまだ明かりをつけている建物から射す光のせいか若干怪しく光るので恐怖に拍車をかけている。
だがそれを言うわけにもいかず、顔を前に向けながら進む。
町の外に通じる北の城門まで行くとそこには当番の若い門番がいた。
と、言っても俺よりも遙かに年上だが。
「おはようございます」
「いや、こんばんはじゃないか? 」
「お前達、こんな時間にどうした! 」
深夜当番させられているためだろうか、少し苛立ちが見え隠れしている。
だが俺達も引き下がるわけにはいかない。
早くパン屋に行かなければいけないのだ。
「冒険者ギルドの依頼でこれからパン屋へ行くところです」
「通してもらえないでしょうか」
「……身分証を出せ」
そう言われ、身分証を取り出す。
俺とケイロンはそれぞれ冒険者ギルドのギルドカードを提示し、確認を促す。
「確認した。こっちの門から出ろ」
指さした方は目の前に見える大きな門ではなく、そこから少し離れたところにある大人一人が通れるくらいの大きさの小さな門だ。
言われるがままにそこを通り、俺達はパン屋へと行くのであった。
★
「あら、来てくれたのね。いらっしゃい」
「「よろしくお願いします! 」」
目的のパン屋に着くと体格のいい女性が作業をしていた。
俺達が閉まっているパン屋の中にどうやって来たことを伝えようかと考えていると、外にいた彼女が水辺から近寄ってきて声をかけてきてくれた。
ここは北の山の麓にあるパン屋。
だが一件ではない。数軒並んでいる。
近くには山から流れている川があり、月光が反射している。
「私はパン屋『フラン』の店主フラベールよ。よろしくね」
「僕はFランク冒険者ケイロンと言います。よろしくお願いします」
「俺も同じくFランク冒険者でアンデリックです。よろしくお願いします」
それぞれ挨拶をしてパン屋の裏にある工房へ行き、早速仕事の話になった。
「これが前日に仕込んでた生地よ。私は午後の分の生地を作るから、これをそこにある竈に入れてふっくらなるまで焼いてちょうだい」
「どのくらいまで焼いたらいいのですか? 」
「ん~そうね。今の倍くらいの大きさになったら教えてね」
「「了解しました」」
指示を受け、俺達は早速作業に取り掛かった。
フラベールさんは生地を作るために他の工房へ行き俺達は竈を前にしていた。
まずは目の前にあるこのパン生地だ。
「よし、取り掛かろう」
「入れるよ」
俺とケイロンで生地を竈へ入れる。
見た感じこれは白パン用の生地だ。
「なぁケイロン、これって」
「うん多分デリクが考えている通りだと思うよ」
つまり俺達が毎日食べている白パンはこの店か、周辺の店から買っているのだろう。
だが、どうして色が違うんだ?
竈にどんどん入れながらもケイロンに聞く。
「多分使っているムギの違いじゃないかな? 」
「材料の違いってことか」
「そう言うこと。でも黒パンの方が長持ちするから、黒パンの方が食べられているんだと思うよ」
確かに長持ちしたな。一か月ほどは。
少し懐かしく思いながらも入れていき、終わる。
あとは待つだけだ。
「ねぇデリク」
「なんだ? 」
「あれから調子はどう? 」
「調子、か。特に変化はないな。あのトッキーとか言う精霊が見える以外は」
「そっか」
「ま、魔力とか精霊以外は倒れる前と同じってところかな」
そう言うと少しケイロンは下を向き考え込んでしまった。
どうしたんだ? 心配してくれるのは嬉しいが、何を考えているんだろう?
「今度、さ。ここよりも少し離れたところで猪肉の納品があったの、覚えてる? 」
「あ~依頼にあったな」
「行ってみない? 」
「いいぞ。だが大丈夫か? 多分手強いぞ? 」
ヘレンさんの所で見た猪の体を見て思い出す。
この町周辺の動物は村にいた動物よりもかなり大きい。
解体したことはあるが、実際に倒したことはない。
猪の突進は硬化の魔法を使えばそんなにダメージは喰らわないだろう。
だが、やはり痛いのは勘弁だ。
「大丈夫。僕も硬化は使えるから」
「構わないがあの巨体、大丈夫か? 」
「多分、大丈夫かな。それに何かあったらデリクが助けてくれそうだし」
「なんだ、人頼みか? まぁいいか。補い合うのがパーティーだ。了解。ならこの依頼が終わったら依頼を出しに行くか」
「うん」
ケイロンがどこか意を決したかのような表所を浮かべ、俺の方から竈へ瞳を移す。
しゃがみ込み竈を見る瞳には熱がこもっている。
それから話しながらもパン生地が二倍くらいに膨れ上がったので俺がフラベールさんを呼びに行き、出来上がったパンをもって店の方へ向かうのであった。
「さ、ここら辺に並べていくわよ」
フラベールさんの掛け声の元俺達は店にパンを置いて行く。
パンの種類は豊富だ。丸いパンに長いパン。
フラベールさんが別口で用意してたのだろう長いパンは見覚えがある。
硬くて食べるのが大変だったやつだ。
そして俺は四角いパンなど白パンを置いて行く。
店の中に香ばしいいい香りが充満してきた。
「後はこっちね。こっちは材料を持ってきてくれたお客さん用よ」
名前が書かれた札と共に並べられているのは黒パンが入った袋だ。
どうやらフランは材料の持ち込みもやってるようだ。
値段を見るとやはりと言うべきか白パンとは値段が大違いだ。
しかも他の黒パンよりも安い。持ち込みの分引かれているのだろう。
それぞれ並べ終わったところで朝日が昇った。
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