第四十二話 Eランク昇格への道 二 商業ギルド
商業ギルドの中へ足を踏み入れた。
多い人、受付と受付嬢、依頼が書かれていると思しきボード等、冒険者ギルドと似ている部分が多かったが、それ以上に違う部分を感じた。
「壁が真っ白だね」
「空気も澄んでいるな」
歩きながら感想を言う。
喧騒とした冒険者ギルドとは雰囲気が全く違った。
冒険者もちらほら見えるが殆どが商人と事務員のようだ。
何かしらのやり取りをしている。
その様子を見ながらも例の如く受付へと並ぶ。
「次の方、どうぞ」
「は、はい」
どうやら俺達の番のようだ。
気が付くと目の前にあった列はなくなっている。
どれだけ仕事が早いんだよ。
「二人分銀行口座を作りたいのですが」
「承知いたしました。少々お待ちください」
ケイロンが真っ先に用件を告げる。
この状況に狼狽えないだと?!
流石出来るオトコは違うぜ。
「では、こちらに必要事項をご記入ください」
そう言われ、目の前に出された紙に名前等色々と書く。
職業は冒険者っと。
出来上がったのでそれを提出し、受付嬢が受け取る。
するとそれをマジマジとみて確認し、それが終わったかと思うと手元にある二枚のカードに何やら彫り込んでいた。
「確認いたしました。ではこちらを」
事前に用意していた二枚のカードをこちらに渡す。
カードは銀色に輝いており、高級そうだ。
「お金を預ける際、もしくは引き出す際はこちらを提出してください。ご入金しているお金を引き出すことが出来ます。以上になりますが何かご質問はありませんか? 」
「今から入金することは出来ますか? 」
「可能です。幾らご入金されますか? 」
金額を聞かれたが、実際に見る方が早いだろう。
俺は背負袋から、ケイロンはアイテムバックからお金を出しそれを見せた。
「ここに入っているお金を預けたいのですが」
「了解しました。ではカードを一度お借りいたします」
銀色に輝く銀行カードを出し、渡す。
すると受付嬢の後ろにある棚から彼女は書類を出し、記入した。
俺達の目の前にあった袋を丁寧に受け取り一旦席を離れ、他の受付嬢の後ろを通り違う部屋へ。
戻ってくると再度カードをこちらに渡してきた。
「これで入金が出来ました。他に何か質問等は御座いませんか? 」
「特にないです」
「大丈夫です」
「今日はありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
「「ありがとうございました! 」」
そう言い受付嬢はペコリとお辞儀をした。
俺達もお辞儀をしてすぐに列から離れるのであった。
★
商業ギルドには幾つか施設があるようだ。
ギルド内から出ようとしたが、途中ケイロンが何か発見し俺を止めた。
「あれ」
指さす方を見るとそこには何人か冒険者のような人達がいた。
何かどこかで見たことが……。
あ、この前の依頼の時だ。
「ん? 珍しい、依頼の時の坊主達じゃねぇか」
「ディルバートさん! 」
俺が名前で呼ぶと渋い顔の熟練冒険者がこちらに気が付き声をかけてきた。
彼はゴブリン退治の時にお世話になった人だ。
若干『守り人』に対する思いが強すぎて語り出すのが傷だが、あの一件で『いい人』というイメージが付いた。
彼はこっちに来ようとすると同時に仲間達と話を区切り、近寄ってきた。
「久しぶりだな。あんまギルドで見なかったから町を移動したのかと思ったぞ? 」
「お久しぶりです。あの嫌な受付嬢がいなくなったのでまだまだこの町で依頼を受けますよ」
「そうか。あれは昔から酷かったからな。仕方ない。それにしてもあの時はお互いに災難だったな」
「ええ、全くです」
彼の言葉に全力で同意する。
ケイロンは苦笑いだ。
「ディルバートさんは依頼か何かですか? 」
「おうよ。丁度終わったとこだがな」
身の入りが良かったのだろう、機嫌がいい。
それにしてもきちんと仕事をしていたんだな。
単なる狂信者じゃなかったんだ。
「坊主達はどうして商業ギルドにいるんだ? 確か商人の依頼を受けれるようなランクじゃなかったと思うが」
「実はこの前のお金何ですが……」
「あ~察した。大金だもんな」
「ええ、それで銀行に預けようと」
「いい判断だ。俺ももらったがあれをいっつも持ち歩く勇気は俺にもねぇ」
そう言うと少し考える素振りをして俺達を手招いた。
何かと思いながらも彼の誘導に従いギルドにおいてある椅子に座る。
「この町に来てどのくらいになる? 」
「約一週間くらい、です」
俺はケイロンと顔を合わせて「なんだろ」と思いながら答えた。
「そうか。なら一応言っておくべきか」
「どうしたんですか?」
「ああ。まず、この町はな、他の町と比べて治安がいい」
「いい事では? 」
「そうだ。良い事だ。この町の治安がいいのは商人達が多いことに加えて元冒険者がこの町で暮らしているのもある」
それがどうしたのだろうか。
ガルムさんやフェルーナさんが元冒険者だから元冒険者がこの町に住み着いていても不思議ではない。
何故この町を選ぶのかはわからないが、町の治安に貢献しているのなら悪い事ではないと思うのだが。
俺の疑問を感じたのだろう、ディルバートさんは言葉を継ぎ足した。
「まぁ良くも悪くもこの町は商人の町だ。この町で商人達に嫌われるよう――スリのようなことをすれば商人達の依頼を受けれねぇ。町人相手にそれをやっても返り討ちに会う。だから誰もこの町でスリをしねぇ。最悪市場で物を買おうとしても買えなくなるからな」
真剣な眼差しでこちらを見て、言う。
「この町で感覚が麻痺するかもしれねぇが、だが他の町は別だ。普通にスリをしてくる。だから気を付けな」
小さな声で忠告し、俺達は頷いた。
わざわざ教えてくれるなんて、面倒見のいい人なんだ。
言葉に従い、他の町では気を付けよう。
言い終わり用事が済んだのかディルバートさんは「じゃぁな」と言い商業ギルドを出ていってしまった。
「じゃぁ俺達も行こうか」
こうして俺達は宿へ戻り明日へ備えるのであった。
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