第三十八話 銀狼の秘密 五 夜の騒動
「よかったの? デリク」
「いやぁ、あそこは頷くしかないだろう」
あの気迫で迫られたらどうしようもない。
なにが起こったかと言うと答えは難しくない。
作った剣の評価を頼まれただけだ。
最もやり直しありの勝負なので何回もドルゴへ何回も足を運ばないといけなくなるが。
「剣の手入れが無料になったからいいんじゃないか? 」
「確かにそうだけど、評価なんて出来るの? 」
「そこはドルゴさんの指示に従ったらいいと思うよ」
評価の際に一応の基準を教えてくれた。
切れ味、手になじむかどうか、重心等々……俺が分からない部分はケイロンに頼むとしよう。
「余程自身があるんだろうね、ドルゴさん」
「だろうな。じゃないとやり直しありなんて言わないもの」
暗くなりそうな道を俺とケイロンが歩きながら話す。
ドルゴさんの真意は分からないが、自分を超えて欲しいのかもしれない。
いや、あの冒険者になることに対する反対様を見ると単純に娘を心配しているのかもしれない。
分からないが何にしろ巻き込まれた事には違いない。
「結局商業ギルドに行けなかったね……」
ケイロンの言葉を聞き、落ちようとしている陽を見上げた。
適正武器を調べるのにかなり時間がかかったのもあるが、道に迷ったり、騒動に巻き込まれたりが殆どだ。
「明日こそいかないとな」
そう言い俺とケイロンの二人は陽が完全に落ちる前に銀狼への帰路についた。
★
「お、買ってきたか」
「長剣ですね」
「お帰り! お兄さん達!!! 」
「「ただいま! 」」
銀狼に戻った俺達は温かい出迎えを受けた。
帰る頃には陽も傾き、暗くなろうとしていたのだが迷わず帰れて一安心だ。
夜あの道を行くと銀狼まで帰れる自信がない。
「ではお夕食を用意いたしますので部屋で少々お待ちくださいね」
フェルーナさんの言葉に従って、俺達はそれぞれ向かい道具を置いた。
自室で待っていると夕食を呼ぶ声がし、向かう。
そして食事を終えた。
夕食後。
「そう言えばガルムさん」
「なんだ? 」
丸い机の向こうにある受付台に座っているガルムさんに話掛けた。
呼ばれたガルムさんは銀色のケモ耳をピクピクと動かせて眠そうにしていた頭を持ち上げ、俺達の方を見る。
「『ドルゴ』までの道、物凄くわかりずらかったですよ」
「そうか? 一直線だっただろ? 」
「そうですが、本当にこの道で合っているのかわからなくなりましたよ」
「ほう、でも辿り着いたんだろ? 」
「ええ、途中でドルゴさんの娘さんに会いましたので」
その言葉に興味が湧いたのか体ごと立て直し、話を聞こうとする。
さぞ嬉しいんだろう。
少しにやにやしている。
「へぇドルゴさん、娘が出来たんだ」
「スミナっていうらしいですよ」
「そうか……初耳だ」
「あと、「連絡をよこさない悪がきをとっちめにいく」とか息巻いてました」
「げぇ、お前達……まさかこの宿の事話してないだろう、な? 」
「……ガルムさん、諦めてください」
「言ったのか! 言ってしまったのか! 」
耳の銀色の毛を逆撫でしながら悲痛そうに声を上げる。
そんなに怖いなら連絡したらよかったじゃないですか。
「こぇんだよ……本当に。気に入らねぇ時はハンマーを振りかざしながら向かってくるしよ……」
両腕で体を抑え、震えを止めようとしている。
なんとも恐ろしいところを紹介してくれましたね。
ドルゴさんに出来るだけ逆らわないようにしよう。
あのハンマーにぶたれたくはないしな。
こうしてたわいのない話をしながら俺達は今日も明日の為に休みをとる。
日常というものはこうやって過ぎていくものだと思っていた。
そう、その時まで。
★
ドン!
ん? なんだ? こんな時間に。
音に起こされ布をのけ起き上がる。
今は夜深く月明りが射しており、部屋中が見える。
寝起きの回らない頭を使いながらも、どこから音がしているのかを首を動かしながら確認する。
ドン! ドン! ドン!
どうやら廊下の方から音がしているようだ。
眠いのに起こしやがって、と思いながらもその不自然な音に違和感を抱いた。
「ノックの音、じゃないな」
誰か来たのか?
それともフェナが寝ぼけて上まで来たということも……
「いぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁ!!! 」
「え? ケイロン?! 」
相方の声を聞き急いで俺は扉を開けた。
開けた先にはケイロンが体を震わせ俺の方へ――
ドン!!!
突撃した。
痛みと共に甘い香りと柔らかい感触を覚えた。
ん? 柔らかい?
いや、今はそれどころじゃない。
「ケ、ケイロン、落ち着け! 」
「物が! 物が勝手に!!! 」
「え? 何? 物??? 」
突撃を受け抱き着く格好となっている。
彼の震えが体越しに伝わってくる。
すごい震えようだ。
どうにかしてパニックを起こしているケイロンを宥めないと。
それに物ってなんだ、物って。
そう思い、ふと目線をケイロンから上げた。
そこには……道具を隣に浮かせている、小さな透けた人がいた。
『きゃはははははは、この人面白い! 』
その透けた小人は金色の瞳をこちらに向け無垢な子供のように甲高い声で笑っている。
「このぉぉぉガキガァァァァ!!! 」
そう怒鳴りつけ――ぶん殴った。
ピギャ! という声を出し吹き飛ぶ。
俺の安眠を妨害したのに加えて相方を脅かした罰だ。
しかと受け取るがいい。
「こいつ、何だ? 」
「え? 何かいるの? デリク、何かいるの?! 」
「え? 見えないのか? 何か小さな透けたなにかがいる。というか殴った」
「ひぃぃぃ! 透けた人?! ゴースト? 」
『それ』が気を失った影響か浮いている物が一斉「ドン!!! 」という音を立てながら落ちた。
殴れたということは触れるということだ。
すっかり怯えたケイロンを傍目に、『それ』に近付き、腕を掴む。
なんだこいつ?
俺の声が聞こえたのだろう、下から足音が聞こえてくる。
「大丈夫ですか! 」
「フェルーナさん、大丈夫です」
「だ、だ、だ、大丈夫です」
震えるケイロンや周りに散乱している物を見てフェルーナさんが様子を察したようだ。
「ご説明いたします」
是非お願いします。
フェルーナさんの案内の元俺達は一階へ向かった。
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