第四百二十一話 いなくなったアンデリック
「見えなくなったね」
「そうですね」
ケイロンとセレスが背中を合わせて座っている。
しかし他の面々は迫りくるスライム達を討伐していた。
中にはデザイアの雛形ともいえるスライム――『シュゴス』もいるのだがこちらは精神攻撃をしてこない。
よって援護なしにリンやスミナを筆頭とした種族の輪が、休憩組を護る形で対処している。
「おい、何かこいつら動きが鈍っているぞ? 」
「うむ。さっきよりかなり弱いのぉ」
それを聞きケイロンとセレスは思い当たる。
「デリクがやったのかな? 」
「モンスターの弱体化を考えるのならば魔王が弱っているのか、やったのか、のどちらかでしょう」
「いつも僕達を置いて行くんだから」
「これは帰ってきたら説教が必要ですね」
ふふ、と二人とも笑い殲滅せんとばかりに立ち上がる。
「さぁ皆さん! あとひと踏ん張りの様です! 行きましょう! 」
残党狩りが始まった。
しかしアンデリックは帰ってこなかった。
★
モンスターの活性化が急激に治まった。
この事実が各国を走る。
首脳達——特にカルボ王国は喜び叫びそして神託による魔王消失宣言がなされた。
王都セグ伯爵家邸。
浮かない顔をする女性陣がいた。
「くそっ! あの野郎!!! 」
スミナが机を拳で叩きつけ怒りを露にする。
顔は赤く、目も腫れている。
「……援護する前にいっちゃった」
「そんなの分かってらぁ!!! 」
ケイロンの言葉に怒鳴り散らすスミナ。
スミナらしくもない激情にかられた言動だ。
しかしスミナが苛立つのも無理はない。
何せアンデリックが突然消失したのだから。
分裂体を掃討し終えた頃、美しき死神が合流した。
二つのチームも揃ったということで周辺を探すもアンデリックがいない。魔王『デザイア・ベルゼビュート』もいない。
おかしいと感じたセレスがエルベルと共に広範囲に一人と一体を探知するも発見できなかった。
脳裏に浮かんだのは相打ち。
しかしその体さえない。
体が無くなるほどに消滅した可能性があった。
そこで意外な可能性がエリシャから放たれた。
昇神。
エリシャの父達『七英雄』が魔王討伐時に通った道のようだ。
可能性としてエリシャは言ったがそれをセレスが真に受けた。
理由は日々薄くなっていたアンデリックの気配である。
何か特異なことが起こっているのがわかったが確認するすべがなかった。
しかし今回の現象と魔王の消滅を考えると辻褄が合う。
納得してしまったがために絶望した。
もう会えないのかと。
悲壮にくれる中、扉からノックの音が。
誰も出る気がせず無言となり沈黙が流れる。
しかし扉の向こうから怒鳴り声のようなものが彼女達に聞こえてきた。
「……なんでしょう? 」
「どうせまたくだらないお見合いとかじゃない? 」
「今度は家ごと永久凍土の檻にしてやりましょうか」
バン!!!
物騒な話をしていると、いきなり扉が開き赤い神官服を着た男がやってきた。
「おう、しんきくせぇ雰囲気かましてるな! 英雄の妻達! 」
「お客様! 例え聖光騎士団長である貴方でもこの狼藉は許されません! 」
「おっかねぇ事言うなよ……。俺は良い話を持ってきてやったのによ」
そう言うレガリアに無言でセレスが魔導書を構える。
「ちょ、ちょい、マジで洒落にならねぇ! 本当にいい話だって! 国の許可も得てる! 」
睨みつけながら僅かに本を下げるセレス。
「くだらない話だと容赦しませんわよ? 」
「……お前達のリーダー。アンデリック・セグの事を知りたくないか? 」
火の聖光騎士団団長レドリア・ガエンに引き連れられて彼女達は聖国へ渡った。
★
「お待ちしておりました。私聖国教皇『オラクル二十七世』と申します」
聖国にある大聖堂から繋がる会議室。
火の聖光騎士団団長レドリア・ガエンに連れられて種族の輪の面々はここへ来た。
途中、レドリアは殺気というには生ぬるすぎる威圧を受け、冷や汗を流しながらやっとの思いで辿り着く。
「一先ずおかけになってください。ここは非公式の場。外交的儀礼は不要ですので」
純白の法衣を纏ったエルフの女神官こと『教皇』オラクル二十七世はそう言う。
言われるがままに彼女達は座り、レドリアが扉の傍に立った。
「……本日お招きしたのはアンデリック・セグ伯爵の事です」
「何か知っているのでしょうか? 」
オラクルの言葉にリンが聞く。
そこ中には少し熱気が籠っており若干期待が入っていた。
「ある程度は。神々から魔王消失の神託の後貴方達に伝えるよう言伝を預かっているので」
言伝、と単語に少々不安げな顔をし軽く全員が顔を合わせる。
しかし聞くべきと思い全員が頷きつつオラクルを直視した。
「まずセグ伯爵は生きております」
「「「!!! 」」」
「しかしこの世界ではありません」
どういうこと? とケイロンが聞く。
「まず神々が魔王ごとセグ伯爵を違う世界に飛ばしました」
「「「はぁ?! 」」」
「まさに神業と言ったところなのですが、伯爵はそこで魔王と激戦を繰り広げたようで。狭い世界の様ですが半分以上が焦土と化したようです」
絶句である。
世界の半分が焦土と化すほどの戦闘。
軽く身震いする。
「皆さんが考えている通りだと思います。この作戦は伯爵も了承済みだったようでこの大陸に被害が出ないようにするためだったとのこと。結果として伯爵が勝ったのですが問題は帰還方法」
「神様達が戻してくれるんじゃないのか?! 」
「責任もって帰せやゴラァ! 」
「……無茶を言ってはいけません。新世界の創造に世界間移動。この世界への影響を少なく働いたためかなり神々も消耗しているようで。正直私もこれほどまでにノイズのかかった神託は聞いたことがありません」
そう言われ、前のめりになっていたエルベルとスミナは歯軋りをしながら引き下がる。
神々とて全力を尽くした。
そう言われると責めるに責めれない。
「しかし帰還方法が無いわけではありません」
「……嘘じゃないよね? 」
「教皇オラクル二十七世の名において嘘は告げないと宣言しましょう。新たな神の誕生。そして帰還。これほどまでに喜ばしいものはありません。しかし帰還方法は単純で、難しい」
「どういうことでしょうか? 」
「方法はセグ卿が神通力を用いて独力で帰る方法」
「……初代様が使っていたあれですね」
「初代様、というのがどなたかは分かりませんが神通力です。しかしこれを使うにもこちら側の場所を特定できないといけないようで。出来れば、彼と縁の深い物があればいいのですが」
そう言われ顔を合わせる。
「何かあったかな? 」
「……」
「ぬいぐるみ」
「むむむ……」
「リンも思いつきません」
メンバーが口々に意見をいう中スミナが一人考え込んでいた。
そして見上げる。
「なぁこの腕輪はどうだ? 」
「「「それだ (ですわ)!!! 」」」
「ありましたか? 」
「ええ」
「ならばこれから交神し準備をします。貴方達もよろしいでしょうか? 」
「「「はい!!! 」」」
再び彼女達は元気を取り戻す。
愛する人を取り戻すために。
ここまで如何だったでしょうか?
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