第四百七話 北の地の決戦 三 vs 魔人『オルディ』 二
ドォォォォン!!!
大きな音を立てて建物が揺れる。
その場にいる使用人達は狼狽えながら何が起こっているのか把握しようとし、騎士達は剣を構えて襲撃に備えた。
そんな中パーティー会場のエレク王子とシリル公爵、そしてシロド伯爵はというと。
「……これは殿下の差し金ですかな? 」
「まさか。もしやるならばもっと丁寧にやりますよ。しかし襲撃者がいるようで。そちらに覚えは? 」
「私達ではない! 」
「シナプス……」
「殿下! お耳に挟みたいことが」
話している途中にベレス・ドーマが近寄り耳打ちする。
轟音がし建物がまたもや揺れる。
異常なまでに落ち着いた様子。
武家の者であるシリル公爵とシロド伯爵はともかくエレクは戦に疎い。
見事な胆力だ、と二人が心の中で讃える中ベレスが一歩下がりエレクが顔を向けた。
「外にて暴れている者がいるようです」
「この様子を見ればわかる」
「でしょうね。当初襲ってきた賊は護衛につけていたAランク冒険者パーティー種族の輪が討伐したようです。しかし今現在襲撃している者はまた違うようで。ここよりも少し離れた場所から魔弾を打っているみたいですね」
種族の輪と聞いて少し顔を歪めるシリル公爵。
最初から自分達が疑われていたことに対する不信感だろう。
しかし今はそれを勝る状況だ。
「魔弾? 魔弾にこのような威力があったか? 」
「過分にして聞いたことがありません」
「ボクは外に出て確認してみようと思うだが、どうする? 」
王子の、王子らしからぬ行動にシリル公爵とシロド伯爵は口をへの字にして結局ついて行くことにした。
「あれは」
「ジャイアント系モンスターほどではないが」
「大きいですね」
部下を引っ張りながら三人は外に出て大きな体の人型モンスターを見た。
「あそこだけ深い闇に包まれているようだ」
「閣下! 」
「殿下! 」
二人共部下に押さえつけられ「ドン! 」と音を鳴らして地面に叩きつけられたと同時に屋敷からまたもや轟音が鳴り響いた。
顔を上げて何が起こったか確認する。
「……なるほどね」
「あそこで交戦している者が躱した魔弾が流れ弾になって当たっていたわけか」
「殿下! 」
「その声は、セレスティナ? 」
彼女を筆頭に種族の輪が集まりだす。
全員少々血を浴びているがけがは見えない。
流石は、と思うと同時に一人いない事にエレクは気が付く。
「もしかしてあそこで戦っているのは」
「ええ。恐らくアンデリックかと」
それを聞きエレクは暗視を発動させる。
遅れて他の二人も発動させた。
「ん? あの顔は」
「……あの馬鹿が! 」
「シレン辺境伯」
三人が見た顔は彼らが最も知っている顔であった。
しかし見える光景は異常。
アンデリックに何回腕や首を切断されても時間が戻るように再生していた。
「……殿下。剣を取る事をお許しください」
「あの戦闘に割り込むつもり? 」
「北の不始末は、北がつける。シロド! 」
「分かっていますとも」
そう言いシロド伯は腰にしている小袋から一本の大剣をシリル公爵に渡した。
「……えらい準備が良いね」
「外に出る前に護身に武器を取ってきたのですよ。何があるか分かりませんし」
「はぁ……。死なれたら困るんだけどな」
「ふふ。死なぬよ。何せこの剣は我が家の宝剣して聖剣。我が武をとくとご覧あれ」
★
「厄介な」
「ぐがぁぁぁぁ! 」
切り刻まれた元シレンが悲鳴を上げながらまたもや体が元に戻る。
それを見つつカオス・ドラゴンの事を思い出す。
引っ付いた者を再生に使っているのならばいつかは倒れるはずだ。
「くそぉ! 魔硬散弾! 」
悲鳴を上げながら無数の魔弾が俺に向かう。
一つ一つ打ち落とすが――
ドン!!!
遠くから着弾の音がする。
軽く後ろを振り向き被害を確認。
危機感知。
風の精霊魔法で宙を移動して切りかかるシレンを避ける。
反撃に切り上げ腕を落とす。
血飛沫は上がらないが変質した肉片が飛び交う中またもや再生。
「……本当に厄介な」
「はぁはぁはぁ……。この程度! 」
「苦戦しているようだね」
俺達の下から声がする。
あの帽子の声だ。
まずい。今の状況で奴に出てこられたら!
危機感知。
下からの見えない拳圧が襲い掛かり回避するがその勢いで地面に落ちる。
瞬間。
目の前にあのデザイアと呼ばれた女が現れ拳が迫る。
レイを切りつけ応戦。
「結構不意を狙ったんだけど」
「剛拳」
「斬撃! 」
俺とデザイアの武技がかち合う。
「連撃」
「連撃! 」
金属音を鳴らしながら超速で剣と拳をぶつけあう。
先読みを発動させながら追いかける。
しかし攻勢に出られない。
こいつ。魔法使いの格好して拳闘士か?!
速く、重い拳が迫り、打ち落とす。
「乱れ魔拳」
「瞬撃桜花斬」
更に手数を増やしながらも相手の攻撃を打ち落とす。
魔人以上じゃないのか?!
拳に時折フェイントや蹴りを混ぜながら金属音を出していた。
「俺を忘れてもらったら困る! 落天轟雷! 」
死の感知。
マズッ!!! 逃げ場が!
上空から剣が正面から拳が迫り――
キィン!
音が鳴ると同時にデザイアの一撃で俺は吹き飛んだ。
「風よ」
地面に叩きつけられる前にふわっと体が起き上がる。
これは精霊魔法!
「待たせたな! 」
「来たよ」
「どうも厄介な相手なようで」
「妾の力が必要か? 」
「獲物は置いておいてくれた方が嬉しいのです」
「小僧。苦戦しているようだな」
声の方を見ると厳つい顔に蒼く光る大剣を背負った男性がいた。
その後ろにはメンバーが。
「皆! それにシリル公! 」
「フン! 俺はあの愚か者を始末しに来ただけよ」
そう言いつつ上空に剣を向けて大声で叫ぶ。
「オルディ・シレン。貴様を――処刑する」
「日和のシリルがぁぁぁ!!! 」
不快な咆哮が場を支配する。
底冷えするかのような不快な声。
冷たく欲望に満ちたその声は北の地の嘆きの声にも似ていた。
ここまで如何だったでしょうか?
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