第四百六話 北の地の決戦 三 vs 魔人『オルディ』 一
北の地というのは決して恵まれた地ではない。
精霊に嫌われているというわけではなくまた作物が完全に育たない場所ではない。
かといって畜産が得意と言う訳でもなく軍事に明るいだけ。
しかしここ数百年、このカルボ王国で戦争は無い。
軍閥というものはある物の口だけのお気楽集団の群れとなっていた。
そんな中途半端な土地にシレン辺境伯こと『オルディ・シレン』は生まれた。
今でこそ脂肪を蓄えているような体をしているが領地を受け継ぐ前までは武人として優れていた。
時には王城へ行き剣舞を見せ、時には自分で狩りに行き食料調達。
自分の未来は明るいと信じていた。
が、彼は領地を引き継ぐとともに現状を知る。
北ではなく他の地では裕福な土地が多いではないか、と。
食料に溢れ、技術に溢れ、そして――才能に溢れる者ばかりだと。
『嫉妬』
いうなれば最初に彼に抱かせたのはこれだろう。
自分よりも優れた者が無数にいることに嫉妬した。
『疑念』
次はこれだろうか。
王家ならわかる。何せこの国のトップだ。裕福でなければならない。
しかし北以外が王家よりも裕福であった。
何故だ。
何故自分達だけこのような仕打ちを受けなければならない。
何故だ何故だ何故だ!!!
そう思うのも仕方ない。
その思いは徐々に増して行き犯罪組織との接触により『怒り』は『行動』を伴うようになった。
やるべきことはただ一つ。戦争だ。
まずは地盤固め。
裏社会と繋がりを強くしつつ表では派閥のまとめ役を買って出た。
様々な陰謀も張り巡らした。
幸いに獣王国『ビスト』から王女誘拐の誘いがあったのは良かった。
ビストのブラッフィ伯獣位は緊張状態を保ちたかったようだが彼からすれば戦争に発展して欲しかった。
『武功』という名の権力欲。
これが彼が欲したものだ。
運がいい事に彼はビストとの国境を任されている領地持ち。
いざという時の為の軍権も有している。
ならば、ということで融通を聞かせたが失敗した。
英雄の手によって。
憤怒を覚えると同時に次なる作戦を考える。
シリル公爵の派閥内権力を削る方法だ。
ブルード伯爵が一番狙いやすかった。
彼に偽情報を流して行動させて蹴落とした。
これ自体は成功したが、その後が悪かった。
蹴落とした代わりに痛いしっぺ返しを食らった。
北の地の犯罪組織が潰されたのだ。
追い打ちを掛けるように彼が独占していた金剛鉄鉱石の供給も途絶えた。
そして意を決し――。
「いいですかな? 初めて力を使うことになりますのでご注意を」
「注意、注意」
「分かっている」
ふん、と返事をして前を向く。
木々か彼らを隠すが月光が不気味な集団を映し出していた。
今は彼の予定通り襲撃部隊が倒されている所である。
そして軽く振り返り大きな魔女と一つの帽子に目をやった。
「報酬は? 」
「いいのです、いいのです。相棒の友となってもらえれば」
「友、な。確認したがそこに金銭や義務は発生しないのだな? 」
「ええ。クレア―テに祈らなければそれだけで」
「お友達、お友達♪ 」
「全く変わった奴らだ。邪神教団というのはこういう奴らばっかりなのか? 」
教団の話題になってむっと顔を顰めるデザイア。
今は外で友達作りに励んでいるだけで彼女にとって教団とはもう居場所でも何でもなくなった。
少しデザイアが不機嫌なのを感じ取ったのかルータは慌てて体を捻らせる。
「相棒、何むくれているのだい? お友達が出来たじゃないか」
「……うん」
「なら行こう。お友達の為に、ね? 」
ルータがそう言うと軽く彼を深く被りデザイアは前を向いた。
「行こう。貴方の武を示すために」
「無論だ。こんな甘ったれた国。俺が取り込んでやる!!! 」
彼らは走る。
その先に天敵がいるとも知らずに。
★
目の前で液体が飛び散った。
「これで最後だな。後はあれか」
そう呟いて構え直す。
来るべき未来。
俺が視たのは魔人の再来だった。
魔人がどのように発生するのかはわからない。
以前は体を削ったら弱体化した。
しかし今回も同じとは限らない。
用心するに越したことは無いのだ。
さ、さ……と音がする。
恐らく足音だ。
複数?
一人じゃないのは確かだな。
先制攻撃をすべきか? 未来視をもう一回? いやいやあれをもう一回はきついな。
と、剣を構えていると剣を持つ一人の男性と帽子を被った女性が現れた。
魔人じゃない?!
迷い込んだのか?
いや襲撃者か!
「……誰だ? 」
「初対面で誰だ、とは失礼な英雄だ」
英雄? 俺の事を知っているのか?
「まぁいい。確かに初対面だ。俺が誰かわからなくても当然と言えば当然か」
剣を持っていない手で軽く顎をさするふくよかな男性。
俺をギロっと睨んで大声で名乗り上げた。
「俺は――」
「彼は友達のシレンだよ。オルディ・シレン」
「そう、そう」
三人目の声?!
どこから!
「……」
「おや。ここだよ、ここ。彼女の上さ」
上?
男の隣に背の高い女性がいるが。
魔法使いの帽子?
頭の中で「帽子以外にないが」と思いながら軽く見上げると、帽子が何やら動いている。
まさか帽子が喋っている?!
……。今更か。
「あまり驚いてないようだね? 」
「生憎と人型を取る武器を知っているからな。喋ったくらいでは驚かない」
「そうか、そうか。知性ある武器を知っているのか。なら納得だ」
「? ルータ、違う」
「何が違うのだね、相棒」
「ルータ。人型とらない」
「これは一本取られた。確かに僕は人型をとらない。確かに違う」
ははは、と場にそぐわない軽快な笑い声が聞こえてくる。
横の男は瞳だけを移して少しみた。
「……もういいか? デザイア嬢」
シレン、と呼ばれた人が少し低めの声で隣に聞いた。
シレン。オルディ・シレン……。
シレン?!
「シレン辺境伯か?! 」
「……今更気付くとは……。貴様まで俺を馬鹿にするのか! 」
馬鹿にした覚えはないが、そうかこの人が。
だが聞いていた話と人物像が合わないんだが。
「デザイア嬢。少し時間を」
「……わかった」
危機感知。
レイを正面に振りかざす。
キィン!!!
一瞬消え、俺の剣と彼女の蹴りが交差した。
「おやおや、流石だね。相棒の初撃を防ぐとは」
「中々」
言葉を放ちながら追撃が来る。
一回、二回と剣と蹴り、拳が交差する。
俺も彼女も武技や魔法を使ってないとはいえこのスピード。
尋常じゃない。
「魔女。下がれ! 」
野太い声が響く。
それと同時に剣を上空に突き立て――
「うぉっ! 」
俺は後ろから飛んでくるものを回避し、
「グニョ」という音を立てて彼に引っ付いた。
★
「なにこれ?! 死体が! 」
「飛んでいく?! これじゃまるで」
「カオス・ドラゴンの時の回復みたいだ」
その言葉に否定したいという気持ちでセレスティナはケイロンの方を向いた。
「し、しかし人ですよ?! モンスターでは有りません! 有り得てはいけません! 」
「ティナ。落ち着いて。状況分析! 」
そう言われ、呼吸を整える。
その間も周りに飛び散る死体が一か所に飛んでいく。
「……。ふぅ。落ち着きました。大丈夫です」
「うん。でもあそこ見て」
「あの方角は! 」
彼女達が見た先はここよりも北東側。
つまりアンデリックがいる場所だった。
ここまで如何だったでしょうか?
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