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種族の輪 《サークル》 ~精霊術師は今日も巻き込まれる~  作者: 蒼田
第一章 安全マージンをとる冒険者
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エカテー・ロックライド 六

「ふふふ、まさかミッシェルが味方に付いてくれるなんて」


 独り(ごと)を言いながら彼女は東の城門の方へ向かっていた。

 そこから少しずれ、裏道(うらみち)へと向かう。

 昼なのだが陰険(いんけん)な雰囲気のせいか、薄暗い。


「これで私が回収すれば……」

「そこまでです」


 え? と()り向くとそこにはさっき自分を見送った人物——ミッシェルがいた。

 薄暗さの為かいつもは(かがや)いている銀髪が少し(くら)い。


「な、なんで……」

「貴方は行動が分かりやすすぎます」

「本当に、な」


 え? 更に()り向き前を見るとそこには白い仮面の男性がいた。

 ど、どういうこと?

 さっきまでここには誰もいなかったのに……。


「ま、これで一つ問題の元凶(げんきょう)(つぶ)せるのなら(もう)けものだな」

「……被害にあった冒険者達の前で言わないでくださいよ? 」

「わかってるって。そもそもお前さんを敵に回した時点(じてん)でこの馬鹿(ばか)運命(うんめい)は――決まってる」


 逃げなきゃ!!!

 そう思った瞬間エカテーの周囲に青い魔法陣が展開(てんかい)し、寒さが襲った。


氷結牢獄(アイシクル・ジェィル)


 いつの間にか取り出した短杖(ロッド)をミッシェルはエカテーに向け、魔法を放つ。

 氷の牢獄(ろうごく)(かこ)まれたエカテーはその寒さに震えながらもミッシェルを(にら)みつけた。


「あ、貴方! たかがサブマスのくせに!!! 」

「あら、(ひど)い言い(よう)です」

(まった)くだ。こいつの事を(まった)くわかってねぇ」

「いえ、そこは(かば)ってくれてもいいのですが」


 何の事?!

 この人達は何を言ってるの!


 エカテーが混乱する中、氷の牢獄(ろうごく)(そば)を通り仮面の男がエカテーの隣へ行く。

 ふと見た瞬間、その男が(つぶや)いた。


「なぁ、俺いったか? 」

「……この牢獄(ろうごく)を作るのはいいのですが、彼女を運ぶのがどうしても大変でして」

「そう言うことか」


 二人が話しているのを見ていると男が手を向け、エカテーの意識は遠ざかった。


「後は、残りを()めるだけだな」

「はい。王都の方からも援軍(えんぐん)が来ております」

「さぞ吃驚(びっくり)するだろうな、あの大軍をみると」

「市民の方々が怖がらなければいいのですが……」

「……それも()まえて、こいつらに責任を取ってもらうとしよう」


 そうですね、とだけ返事をミッシェルは魔法を解除する。

 

「運ぶのもお願いします」

「へいへい」


 そして反転し、仮面の男――ジョルジが彼女を(かつ)ぎ冒険者ギルドへ向かったのであった。


 ★


「「この(たび)は申し訳ありませんでした」」


 ここはバジルの町の中央広場。

 市場(いちば)から少し離れた場所にあるこの場所には正装(せいそう)を着た男性と女性が頭を下げていた。

 そしてその後ろには(なわ)でくくられた冒険者ギルドの職員達が集められている。

 更に行政官と思える者達に憲兵達もその隣に見える。

 そのせいか物々(ものもの)しい雰囲気を(かも)し出していた。


「こ、こいつらが横領(おうりょう)?! 」

「俺達の依頼料を、だと! 」

「はい、本来(ほんらい)冒険者支払(しはら)われる金銭(きんせん)横領(おうりょう)しておりました。今後(こんご)このようなことがないよう(つと)めてまいりますのでよろしくお願いします」


 そして再度頭を下げる。


 謝る二人を見ながら彼らは諸悪(しょあく)根源(こんげん)を見下ろす。

 これほどの大規模横領(おうりょう)事件だ。

 怒りよりも驚きの方が(まさ)っているようだ。

 二人が予想していたような罵詈雑言(ばりぞうごん)()んでこない。


「まず彼女達は全員冒険者ギルドを追放になります」

「ちょっとまってよ! なんで追放されなきゃいけないの!!! 」

「黙っていなさい! 」


 ピシ! と一喝(いっかつ)し話を進めようとするが彼女達は必死(ひっし)だ。

 もしここで追放なんてされたら……


「少し誤魔化(ごまか)しただけじゃない! (みんな)やってるのよ、なんで私達だけ追放されなきゃいけないの! 」

「他の町も今頃(いまごろ)混乱状態でしょう」


 今回の(けん)がこの町のみでない事を教えられ、抗議(こうぎ)した事務員は青ざめる。

 事によっては他の町のギルドと共にやりくりしていた。

 先の話を聞く(かぎ)り他の町のギルドも調査(ちょうさ)が入っていることが分かる。

 起死回生(きしかいせい)一手(いって)を考える。

 このままだとダメだ! 奴隷に落ちてしまう! と、その()にいる元ギルド職員は思い、考える。


「わ、私達がいなくなったらギルドはどうするのよ! 回らないわ! 」

「ご心配なく。市民の皆様(みなさま)により快適(かいてき)にご利用いただけるよう王都から審査(しんさ)に合格した者達が配属(はいぞく)となります。よって貴方達がいなくても十全(じゅうぜん)機能(きのう)いたします」


 最後の(たの)みの(つな)が切れたと知り、項垂(うなだ)れた。

 彼女達の周囲に(ただよ)うのは『絶望感』。

 どうにもならない現状を()き付けられ、泣き(くず)れる者もいる。


「これより受け渡しを行います」


 男と女が行政官の方を向き、合図(あいず)(うなず)きをする。

 それに応じ彼らも(うなず)いた。

 隣にいた憲兵達が元職員達に近付く。

 これにより完全に追放され犯罪者となった。


「や、やめなさい! 」

「私を誰だと思ってるの! 」

「今すぐこの(なわ)をほどきなさい! 」


 彼女達はギルド内で罪を(おか)したのみならず架空(かくう)商会を作ったりなど行政としても看過(かんか)できない犯罪を(おか)している。

 よって行政側から憲兵達が派遣(はけん)され彼女達を逮捕(たいほ)した。


 各々が憲兵達に抵抗する。

 しかし相手はプロである。やがて抵抗も無意味となり全員もれなく牢屋(ろうや)へ放り込まれた。


 ★


「何で……何でこうなったのよ……なんで……」


 エカテーは薄暗い牢屋(ろうや)の中ですすり泣いていた。

 他の者達もぼろきれのような状態になり、泣いている。

 元よりいいところのお嬢様達なのだ。

 このような場所へ来たことすらないだろう。


「本当なら……」


 ミッシェルの介入(かいにゅう)が無ければ『エカテーが召喚(しょうかん)した』ゴブリンやデビルグリズリーを回収し大金を得ていた。

 そしてバジルの町の冒険者ギルド内での地位を確固(かっこ)たるものにしていただろう。

 だが現実は甘くない。

 こうして牢屋(ろうや)に入れられているのだから。


「あの女さえいなければ……」


 そう(にご)った瞳を浮かべ、呪詛(じゅそ)を吐く。

 ミッシェルがいる()(おこな)ったのが悪かった。

 さらにいうならば出張(しゅっちょう)()っていたギルマスが戻ってきて、行政と連携(れんけい)されたのも悪かった。


 (すべ)て、あいつらが悪い……。


「あれあれ、まぁまぁ、これは(ひど)い状況だね」

「そう、言わない」


 この場所に相応(ふさわ)しくない軽快(けいかい)話声(はなしごえ)が聞こえてきた。

 音もせずこちらに()ってくるその声には聞き(おぼ)えがあった。

 そうだ。奴らだ。


「あ、貴方達! まさか私を口封(くちふう)じに?! 」


 目の前に黒く大きな影が(うつ)る。

 エカテーが(ふる)えながら言うと、影が彼女の方に向いた。


「お、見つけた、見つけた。探したよ」

「もう、王都へ、運ばれたのかと、思った」

「いやいや、冷や冷やものだがね。まぁしかし……口封(くちふう)じ、それもいいんだけどそれはそれで非効率的なんだ」

「だめだめ、効率」

「そう、だめだめ」


 何を言いたいの……。

 その異質さもさることながら不穏(ふおん)な雰囲気に圧倒(あっとう)される。

 加えて何を言いたいのか分からない。


「だからね。提案(ていあん)があるんだけどね」

「そう、提案(ていあん)

「君にとって悪い事じゃぁない」

「むしろ良いこと、良いこと」

「な、なによ! 」


 この異様なタッグにたじろぐ。

 提案って何?!

 その不穏(ふおん)な言葉に恐怖を(おぼ)え、脂汗(あぶらあせ)が出た。

 圧倒的優位な者からの提案。

 悪い想像しかできない。


 恐怖で影から目を(そむ)けると、ふと別の牢屋(ろうや)が視界に入った。

 一緒に入っていた同僚(どうりょう)は何かしらの魔法で(よこ)たわり寝ているようだ。

 それもあり、このタッグの異様さが更に際立(きわだ)つ。


「簡単な話さ」

「そう、簡単な話」

「僕達と」

「私達と」

「「一緒にこないかい? 」」


 え?


 拍子(ひょうし)抜けした。

 どんな無茶(むちゃ)要求(ようきゅう)をされるのかと思ったらここから出してくれるようだ。

 しかしどういうこと?


「前も言ったけど、僕達はこの町を(つぶ)したいんじゃなくて仲間が欲しいのさ」

「そう仲間」

「君ほどの逸材(いつざい)を手放すのはもったいない」

「もったいない」

「と、いうことで」

「そこで」

「「召喚士(サモナー)として僕達の仲間になってよ」」


「いいわ! その提案(ていあん)! 引き受けるわ!!! 」


 こうしてエカテーは脱獄(だつごく)した。

 彼女が()った後、それぞれの牢屋(ろうや)には血だまりが出来ていた。

 しかし不思議なことに遺体(いたい)は無かった。

 どこに行ったのか分からないまま看守(かんしゅ)はただただ呆然(ぼうぜん)とするだけだった。

次話より二章へ突入します。


お読みいただきありがとうございます。

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