第三百八十七話 トレインの町 ダンジョン 七
「硬かった」
俺は真っ二つになったオリハルコン・ゴーレムを見てそう言った。
「オリハルコン・ゴーレム!!! 」
「なんと! 」
「いつの間に! 」
「いや、気付かんかったんかい! 」
「あまりに興奮して」
「採掘に集中しすぎて」
「妾もじゃ」
酷い! 皆俺達の奮闘を見ていないとは!
俺が涙ぐんでいると肩に手の感触が。
振り返るとそこにはケイロンがいた。
「ドンマイ! 」
くそぉぉぉぉぉ!!!
「さ、一先ず上がりましょう」
「大分採れました」
「見よ! この大穴を! これが我が力! 」
溢れる涙を拭いながら俺は戦利品を持ってダンジョンを出た。
「さて、どうしましょう? 」
「どうするとは? 」
「金剛鉄鉱石です」
そのまま冒険者ギルドに行こうとした俺をセレスが止めて少し道を外れてそう言った。
軽く静寂を使った気配があったがどうやら周囲の人にあまり聞かれたくない相談のようだ。
「魔導鉱石でさえあの喜びようだったのです。金剛鉄鉱石を出せば……」
「騒ぎに拍車がかかる、と」
それに軽く頷くセレス。
何か気になったのか俺達の方へとエルベルが少し前に出た。
「騒ぎになるのが悪いのか? 」
「今回はあまりよろしくないかと。十七階層で足が止まっているのです。無理して下に行こうとすると死亡者を出す可能性も」
「自己責任じゃないか? 」
「まぁそうなのですが……。それに加えてこれを買い取れるお金があるかどうかとう問題もあります」
少し困り気味な顔でセレスがエルベルから俺に瞳を戻した。
確かにそうだな。
下層へ向かうのは、エルベルの言う通り自業自得だろう。
しかしながら売却金額が途方もない物になりそうだ。
「……金剛鉄鉱石の産出ってここだけだっけ? 」
「いえ。北の地にオリハルコン製の武器があるので恐らく北でも取れるとは思うのですが、過去一番確認されているのはこの町でしょう」
「周辺各国は? 」
「ドラゴニカ王国で聞きますね。しかし――」
そう言いながらセレスは俺の小袋を見た。
「この量ほどではない、と」
「おっしゃる通りです」
セレスの言葉を受けて少し考える。
これは混乱ものだな。
もし二十三階層で大量に採れることがわかったら一気に冒険者達が押し寄せてくるだろ。それこそ外国からも。
するとこの町の治安も荒れてせっかく倒した迷賊三頭の代わりが出てくる。
「……少しだけ鉱石を渡すか、ギルマスに相談するか」
「少しだけ渡す方がが良いかと」
「僕はギルマスに相談に一票かな」
ひょいっとケイロンが話に入り覗いて来た。
む、意見が割れたな。
どっちにすべきか……。
「一応の報告義務は果たしておいた方が良いと思うよ? 」
「そうは言いますが……情報統制が出来なかったら大変なことに」
「どの道強い迷賊は殆どいなくなったんだから時間の問題だよ。二十三階層に辿り着くのは」
セレスはケイロンの言葉で少し自分の意見が動いているようだ。
手を顎に当て考える素振りをしている。
そして決まったのかこっちを見て口を開いた。
「ケイロンの言う通りですね。Aランク冒険者ならば二十三階層まで辿り着くでしょう。それを踏まえると情報は出しておいた方が良さそうですね。早計でした」
「なら行こう! ギルドへ! 」
「あ、ちょい待てエルベル! 走るなエルベル! 」
最後はエルベルに持っていかれた気がするがその足で俺達は冒険者ギルドへ向かった。
「……すまん。もう一回言ってくれ」
「二十三階層に金剛鉄鉱石の採掘地点を発見して、オリハルコン・ゴーレムと交戦しました! 」
俺達の言葉を聞いて頭を抱えるギルドマスター。
恐らく俺達と同じ考えに至ったのだろう。
しばらく沈黙が流れたが少し諦めたのか疲れた顔をあげた。
「……欲望に染まった奴が無理をするのは目に見えるが。なるほど。だから詳細が引き継がれてなかったのか」
「引き継がれてない? 」
そう言うと座っていたソファーから降りてテクテクと机まで行って資料を取り出している。
何を取り出してるんだ? と考えていると幾つかの紙束を持ってソファーに座った。
「これだ」
「これは? 」
「ギルドマスターになる時に渡される資料の一つだがそこに前任者の代で産出した鉱石とか……まぁ色々書かれている」
小さな手でパラパラ捲り「見つけた」と言い三枚俺達の方へ見せる。
「これは三代前くらいまでの金剛鉄鉱石の産出量だ」
「……どの代でも出てますね」
「聞くところによると金剛鉄鉱石を持って満身創痍で帰ってくる奴が稀にいるそうだ。それぞれ幅が広いのはギルドマスターをしていた時期が長い奴ほど産出量は多くなっているだけ。まぁ殆どが長命種だがな。だが……」
「圧倒的に持ち込んだ金剛鉄鉱石が多いですね」
ギルマスは疲れたのか「ふぅ」と言いながら少し大きめのソファーに体を沈めて天井を仰いだ。
「つまりだ。わざと次世代に金剛鉄鉱石産出箇所を教えずに町の治安を護っていたわけだな」
「二十三階層、というのは容易に想像ができると思うのですが? 」
「そうだな。最高到達地点に稀に発見される金剛鉄鉱石。それを照らし合わせると少し考えりゃわかる。だがよ。全員が全員その答えに行きつくわけじゃねぇ。それに、冒険者の殆どは金剛鉄鉱石の存在自体を嘘だと思う奴らも多い。情報統制としては及第点じゃねぇか? 」
完全でなくても良い、ということか。
嘘のような話だからこそ、嘘だと信じる冒険者がいれば答えに辿り着き無茶をする人も現れると。
で、稀にその無茶が功して金剛鉄鉱石が出てくるというわけか。
「お前さん達もわかると思うがこれを一気に放出したら価格は暴落。この町の治安は一気に悪化。本来そこまで俺達冒険者ギルドが考える必要はないんだが……まぁ愛着もあるしな」
上を向いたままそう言いガバっと体を起こして俺達の方を真剣な眼差しで見つめてくる。
「わりぃが全部買い取れねぇ。少しだけ出してくれりゃぁ、まぐれってもんで済ませれる」
「了解しました」
「あとは……わかってるとは思うが誰にも喋るなよ? 」
ギルマスに念押しされながら、これを使うにあたって幾つか守秘義務を背負うことになった。
まぁこの町の安寧を考えるなら安いものだろう。
話終えた俺達は一階へ行きほんの僅かな金剛鉄鉱石を提出。
ギルドが熱狂を通り越して狂乱状態になる中、お金の受け取りだけして気付かれないように外に出て、少し暗くなり始めている道を行った。
ここまで如何だったでしょうか?
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