第三百八十二話 トレインの町 ダンジョン 二
「いなくなったな」
「そうだね」
「迷賊じゃなかったんだな」
「迷賊なら回収している時に攻撃してきそうだからね」
「そうですね。しかし迷賊とやらには注意が必要になってきます。警戒しながら先に進みましょう」
セレスの言葉を受けながら俺達はついに十階層に着いた。
「どのくらい時間経った? 」
「三時間ってところくらいだな! 」
エルベルが緑ジャケットの胸ポケットに手を突っ込み丸いマジックアイテムを取り出しカパッとふたを開けてそう言った。
彼女が持っている銀色のそれは魔導時計というらしい。
前に見せてもらった、いや自慢された時によくよく見たのだが、中身は白い下地に一本の針、そして四本の十字線が書かれていた。説明によると一周で半日のようだ。
このヘンテコ魔道具は祖父でもあり変人の巣窟『タウ子爵家』当主でもあるガナードが改良し、エルベルにプレゼントしたもののようで試作品との事。
元は大和皇国が近くの島へ船を出す時に使用していた技術を元にしていたらしい。
時間がわかるのは良いのだが不安しか感じられないのは俺だけだろうか?
エルベルの言葉を聞いて前にいたセレスが後ろを向き一言。
「道順も覚えました。次はもっと速く行けるでしょう」
そう言った。
振り向いた彼女に後ろから襲い掛かるアイアン・ゴーレムをリンが蹴散らしているが、それも織り済みで後ろを振り向いたのだろう。
おそろしや。
新たな素材を大袋に入れて俺達は先に進むことにした。
★
カーン! カーン! カーン! と大人鳴り響く。
ここはダンジョン十一階層。
主に鉄が産出される鉱山がある所だ。
時折アイアン・ゴーレムやロック・ゴーレムが出ては他の冒険者に倒されているのが見える。
やはりというべきか通常は監視役が必要なのか。
俺達が着くとすでに数グループの冒険者達が採掘を始めていた。
アイアン・ゴーレムを全部倒して回収していた分だけ遅れた感じだな。
「ここからは俺達の出番だな」
「やるよぉ! 」
「ワタクシもやります! 」
「まてまて! 」
「どうしたのです?! 」
「監視役が必要だろ? 」
「そうそう。それにティナ達がやるとこの山ごと破壊しかねないよ? 」
と、ケイロンが身も蓋もない事を言いながら背の低い盛り上がった鉱山のような物を見上げた。
「そ、そんなことはしませんわ! 」
「そうです。リン達はそのようなことしません! 」
「……今まで体の何倍もあるアイアン・ゴーレムを拳で粉砕していた人が言っても説得力がないぞ」
「「「ぐぅ! 」」」
三人は膝から崩れ落ちた。
実際彼女達が強烈な一撃を一斉に浴びせさせたらこの山とも丘ともとれる小さな鉱山から鉱石は幾つも採れるだろう。
バラバラになった状態で。
しかしながらそれをしてしまうと冒険者ギルドから怒られるのは必須だ。
よって今日は彼女達に監視を頼もうか。
一先ず俺とケイロンとエルベルは鉄のつるはしを持ってそれに近付き振りかざした。
「はーっはっはっはっ!!! ほれほれほれ!!! 」
俺の横でエルベルがハイテンションでつるはしを振りかざして小山を削っている。
てか痛い!
こっちにまで石が飛び散ってる!
最初に何か感じるものがあったのだろう。
ケイロンは「僕あっちの方で掘ってるね」と言って離れてしまった。
くそっ! 教えてくれたらよかったのに!
ゴ! ゴ! ゴ!
俺も掘るが……違う! エルベルが小山を掘る音と全然違う!
なに「ゴ! 」って!
なにか精霊魔法でも使ってるんじゃないか?
そう思い彼女の方を向くとそこには一仕事終えたエルベルが汗を額を腕で拭っていた。
「ふぅ……。終わった、終わった」
それを見て俺は唖然とした。
俺の真隣の小山が――粉砕されて、無くなっていた。
どこに行ったか周りを見渡すとあちらこちらに飛んでいる。
四方に散った土やら鉱石はセレス達がより分け大袋の中へ入れていた。
「なぁエルベルよ」
「何だ? オレの採掘量に惚れたか? 」
「……はい、全員終了!!! 」
「え、おい! ちょっと! 」
エルベルが何か言っているが気にしない。
やり過ぎだ。流石にこれ以上採ったら怒られそうだ。
いくらまた採掘可能になるとはいえ時間はかかる。
もう鉄は良いかな?
俺の呼びかけに全員集まる。
そしてあったはずの場所に小山がない事にケイロンが引いていたが「エルベルだもんね」と言って考えることを放棄した。
そして荷物を纏めてまずは冒険者ギルドへ向かった。
★
「……反省はしている。だが後悔はない!!! 」
「「「後悔もしろ!!! 」」」
冒険者ギルドに行きある程度鉄鉱石やアイアン・ゴーレムの残骸を提出した。
それを見てギルドのお姉さんの顔が引き攣っていたが仕方ない。
これもエルベルが採り過ぎたせいだ。
そしてその足で工房亭へ。
少し汚れを落として中に入り受付にいたヘゲルさんに工房に案内してもらった。
そこには何やら紙とにらめっこしているスミナが。
これは話掛けない方が良いな、と思い彼女がこっちに気が付くまで待ち、そして持ってきた鉄鉱石や鉄そのものであるアイアン・ゴーレムの残骸を渡した。
「……鉄は十分だろ」
スミナが山積みになった鉄達を呆れた顔でそう言った。
事の経緯を話すと同情の目線が返ってきた。
だが終わったことは仕方ない。
何かしようかと思うが……。
しかし俺達はすることがない。どうするべきか……。
「他の鉱石を見つけに行くか? 」
「最短距離を見つけつつ下へ潜るのは如何でしょうか? 」
「それも良いが……。無茶はしないからな? 」
「分かっていますとも」
「本当か? 希少金属に目がくらんでもっと下に行こうとしないか? 」
「……」
「いや、否定してくれ! 」
顔を少し背けて否定しない。
可能な限り被害を抑えつつ行かないと。
スミナがケイロンの細剣も寿命が来てるって言ってたじゃないか。
ダンジョンの途中で壊れたら目も当てられない。
「ま、ワタシは鉄を打つまでだ。希少金属を採りに行くのも良し。ダンジョン攻略を目指すもよし。アイアン・ゴーレムはそのまま使えるだろが、他の土が混じってんのは少し時間がかかる。こっちでやってる間に時間を潰していてくれ」
「因みに俺は武器は……」
「そう言うと思って考えてるぜ。今はレイがいるから大丈夫だろうが不意打ちのようなこともある。まぁ任せな」
「期待しとくよ」
ああ、とだけ返して彼女は再び机に向かう。
俺達も邪魔はしたらいかないと思いその場を離れ明日に向けて備えた。
ここまで如何だったでしょうか?
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