第三十三話 スタート
「……ク」
ん~、起こさないでくれ。
今、体がしんどいんだ。
「デ……ク……て」
もう少し待ってくれてもいいだろ……。
依頼の後なんだから。
ん? というか依頼?
依頼はどうなったんだっけ?
「デリク。 起きてよ、デリク。起きないと本当にいたずらしちゃうぞ……」
「うぁぁぁぁぁ! やめろぉぉぉぉ!!! 」
俺は不穏な声に起こされ、跳び起きた。
隣には布を持ったケイロンが、その向こうにはフェナとガルムさん、フェルーナさんが見える。
周りを見渡すと俺が泊まっている銀狼の部屋だった。
どうやらベットで寝ていたらしい。ふかふかの感触と若干薄い布を被っている。
「俺は一体……」
「無事だったんだね、デリク!!! 」
布を持った手を大袈裟に広げ喜んでいるが今の状況を教えてくれ。
ケイロンのテンションに少し後退り、顔を強張らせる。
その時肌に着くような布の感触が……感触が?
違和感を感じ、毛布をめくる。そして自分の体を確認した。
……ふぅ。フェナには見せれない状態だぜ。
全裸だった。
それにしてもこの状態の俺に何をしようとしてたんだ。物凄い気になる。
「ケ、ケイロン……。何をしようとしてたんだ? いたずらって」
「そ、それは……。いいじゃない! 」
と、顔を背け誤魔化そうとしている。
すると奥から声が聞こえてきた。
「実はな。ケイロンが兄ちゃんの体を……「わわわわわ!!! 」」
ガルムさんが黒い瞳をこちらに向け愉快そうに言うとケイロンが止めに入った。
ケイロンはガルムさんの説明を止めに入ったが、止まらない。
「おいおい、そんなに恥ずかしがることないじゃな、ゴフッ!!! 」
ケイロンが何をしようとしていたのか伝えようとすると、隣にいたフェルーナさんのアッパーが炸裂した。
「主人がごめんあそばせ。オホホホホ……」
その言葉と共に気絶したガルムさんはフェルーナさんに引き摺られ扉の向こうに行ってしまった。
バタン!
フェナはその様子に顔を青くし、震えている。
不憫な……。
しかし……何をしようとしてたんだ? 本当に。
「なあ、フェナ。何をしようとしたたんだ? 」
「そ、それは……」
何か言おうとすると、扉の向こうから物凄い威圧感が漂ってくる。
それを感じたのか銀色の尻尾を丸め耳をきゅっ! と閉じてしまった。
……そ、そんなにヤバい事なのか。
「ま、まぁいいか。実際されなかったんだし」
「そ、そうよ! あまり深く詮索しないのが、い、いいわよ」
フェナが震えながらも、言う。
彼女は彼女で下に置いてあった木の桶の水を換えるためか桶をもって部屋を出てしまった。
俺とケイロンが残されてしまったわけだが……。
まずは状況を確認しないと。
「な、なぁケイロン。あの後どうなったんだ? 」
「デリクがデビルグリズリーを討伐し依頼は無事終了だよ」
そう告げると、真ん中にある椅子の方に行き、座った。
ケイロンが腰を掛けギィっと音をさせるが、俺は少し安堵した。
倒せていたのか。
勝利を確信した後くらいから記憶がないから気になっていた。
しかしながらケイロンの顔色は優れない。どこか不安げな顔だ。
「デリク、体は大丈夫? 」
「ん? 大丈夫……のようだな」
体をくまなく動かし見て確認する。
腕よし、足よし……
「きぃぃぃやぁぁぁぁ」
「うわっ! ちょっ!!! 」
ベットの隣方向から本飛んできた。
ケイロンが飛ばしたもののようだ。
それをキャッチしケイロンの方を向き抗議する。
「な、何をしている、ケイロン! 怪我が無くても怪我をしてしまうじゃないか! 」
「か、か、か! いや、せめて服を着てからにしてよ!!! 」
「別にいいじゃないか! と、言うよりも服を着たら足の状態が分からないだろうが! 」
だけど、だけど、とか言いながら顔を赤くしぼそぼそと言う。
いや、別にいいじゃないか。男同士なんだし。
「も、もう! 僕は外に出て待ってるからその間に確認しておいてよね!!! 」
そう言いサクサクと扉の向こう側へ行ってしまった。
その様子を見ながらも、足や他の部位を調べようとすると一冊の本が俺の布団に。
「今さっきの本か。こんな本、持ってたか? え~っと、何々? 題名は……」
【増補版!!! 冴えない男の起こし方: 病人編】
「……」
無言でそれをめくる。
パラ……。
「ロッチ、ぼ、僕は……」
パタン。
「無駄に絵心がいい!!! 」
虚無である。
何も、何も見ていない。
体をくまなく……くまなく確認した後、ケイロンを呼んだ。
本を机の上において。
★
俺は本の事には触れず、椅子に座っているケイロンの方を向き何が起こったのか聞いていた。
「まぁ何というか……今は混乱状態だね」
「依頼は達成したのにか? 」
「うん。まぁ依頼もそうだけど……他の事もあって……」
物凄い言いにくいようだ。
微妙な顔をして作り笑いをしていた。
確かにただのゴブリン討伐のはずがデビルグリズリーが出てくるんだ。騒ぎにならない方がおかしい。
「デビルグリズリー、だもんな」
「それに加えあのゴブリンの数。異常だよ」
「今はどうなっているんだ? 」
「商業ギルドと冒険者ギルド、そして行政で話し合っている所らしいよ」
「なんか小難しい話になったな」
「まぁ今回はモンスターだけの話じゃないから、ね」
そう言いながらケイロンは窓の方を見た。それにつられ俺も窓の方を向き、外を眺める。
あれからどのくらい経ったのだろうか。今は昼頃というくらいは分かるんだが。
「なぁ、因みに……俺何日寝てた? 」
「三日だよ、三日。 もう起きないかと思ったよ……」
「そ、そんなに寝てたんだ。そりゃ悪かった」
「あの後運ぶのも大変だったんだから……」
なんとも申し訳ない。
二人で話しているとコンコンコンとノックの音がした。
「お兄さん達! お昼ご飯ができたわよ! さぁ食べなさい! ゲフッ!!! 」
……学ぼうぜ、フェナよ。
お昼という言葉に反応してか「ぐぅ~」という音がお腹からした。
「ハハハ、三日も寝てたらそうなるよね」
「腹減った……食べに、行くか!!! 」
服を着た状態で立ち上がり、昼食を取りに一階へ行った。
笑いながらも俺達はこの奇妙な縁に繋がれたまま、過ごすのであった。
★
「何で……何でこうなったのよ……なんで……」
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