第四話 バジルの町へ
朝目が覚めると、火番をしていたケイロンがいた。
消えた火の前で日光を直に浴び、腕を上に上げのびをしている。
「起きたんだね、おはよう」
黒いロングパンツに白いシャツ、そして青いブレザーを着こなしている彼が振り返り、半身でこちらに爽やか笑顔で朝の挨拶をした。
「……おはよう」
草の青臭い匂いで、眠い頭が半ば強制的に起動すると少し違和感に気が付く。
そうだ、俺は村から出てきたんだ。
いつもの喧騒とした朝でない事を少し寂しく思いながらも、立ち上がり挨拶をした。
「さぁ、並ぼうよ」
ケイロンがそういうと列の方を指さす。その方向に顔を向けるとそこにはすでに長蛇になろうとしている列があった。
やばっ!
はやくいかないと!
長い時間待たされるのも嫌なため、すぐにシートをしまい込みケイロンを連れて列に並んだ。
★
目の前に広がる人の列がどんどんと前に進む。
人の中には所謂人族以外に獣人族、エルフ族、魔族等様々な種族がいた。
俺の村は殆ど人族からなっていたが、この町は色々な種族がいるらしい。
「どうしたの? 緊張してる? 」
「そ、そんなことはない! 」
「ふ~ん……」
何か疑わし気な目線がしたが、俺は気にせず前を向く。
これでも隣村へ行ったこともあるんだ。
他の種族と交流したこともある。
大丈夫!
内心ドキドキしながらも前を向く。
そこには大男がいた。
俺よりも頭二つくらいは大きい。
その背中には多くの荷物が入っているのかパンパンに膨れ上がっている。
この人も旅人のようだ。
しかし普通の人ではない。
半袖の腕はごつごつとした腕があり、頭には狼の耳がある。
銀色のふさふさ尻尾が俺の体をくすぐった。
うぉっ!!!
俺の体に尻尾が当たったのに気が付いたのか、振り向いて「わりぃ、兄ちゃん」と言い、詫びてきた。
「い、いえいえ、大丈夫です! 」
「すまねぇな、割と気を付けてはいるんだがこうしてぶつかっちまう事もあるんだ」
人の頭の部分に狼の耳をくっつけたような男性が申し訳なさそうに言った。
多分獣人族と呼ばれる中でも狼獣人だろう。
正直、そのもふもふとした尻尾を触りたいといいたいが、我慢し謝罪を受け取る。
「兄ちゃん達はバジルは初めてかい? 」
俺の緊張した顔を見てか、尋ねてきた。
そんなに顔に出やすいか?
「は、はいっ! 」
「僕は二度目、です」
ケイロンがそう言うと、俺は横にいる彼を見る。
こ、この裏切り者!!!
きつく睨めつけながらも、狼獣人の方へ向き直す。
「そうかそうか。そっちの兄ちゃんが来たことがあるんなら、泊まる場所は決めてるのか? 」
「いえ、まだ……です」
「でもどうしよう。確かに決めてないよね、宿」
ケイロンが少し戸惑った顔でこちらを見る。
俺達は出会ったばかりだ。
だがこの人には俺達は一緒に旅をしてきたと思ったらしい。
無論、泊まる場所なんて話し合っていない。
と、いうか一緒に泊まるかも不明だ。
「なら俺がやっている宿へ来たらどうだ? 」
そう戸惑っている俺達に提案してきた。
成程、この尻尾はお客さんを呼び寄せているのか。
じゃなくて! どうしようか?
正直、泊まる場所の事は後回しにしていたからどこがいいのか分からない。
最悪、冒険者ギルドで誰かに聞こうかと考えていたんだけど。
「ケイロン、どうする? 」
「ん~まだ決めるには早い、かな」
「ハハハ、色々他の宿を見てからでいいぜ。俺は宿屋『銀狼』のガルムだ」
話しているとガルムさんの番が来たみたいだ。
「じゃぁな」と言い、手を振りながら門番の所へ行った。
「商売上手な人だね、ガルムさん」
「そうか? よくわからんけど」
ケイロンは褒めるが、正直上手下手のさじ加減がよく分からない。
難しい顔をしていたのが分かったのか、少し笑いながらこちらを見上げるケイロン。
何か言い返してやろうかと思ったが、前の門番に「次の人」と呼ばれた。
後ろにまだたくさん人がいることもあって慌てて門番のところまで行く。
遠くからは分からなかったが、二人壮年の門番がいて長槍で武装していた。
「身分証はあるかい? 」
「は、はい! これを! 」
俺達の歳が低い事もあってか柔らかい声で身分証の提出を求めてくる。
早速背負袋に入れていたクレア教の青いカードを取り出し、それを出す。
ケイロンはもう一人の門番に身分証を出しているようだ。
「……うん。入ってよし! 」
門番は確認し終えると俺にカードを返し、町に入ることを許可してくれた。
こうして俺とケイロンは町の中へと俺達は入っていった。
★
「ここがバジルか……」
俺達が中に入ると、俺はその雰囲気に圧倒されてしまった。
村では木でできた家が多かったけど、バジルは煉瓦状の赤い建物が多い。
そして何より賑やかだ。
行きかう人が笑顔で話し合い、俺よりも小さな子供を追っかける母親の姿も見える。
村も他の村に比べれば賑やかだったと思うけどそれ以上だ。
すぐ隣なのにこんなにも違うのか、と吃驚しながらも前進する。
「アハハ、そんなに珍しいの? 」
「村とは全然違う」
からかうように俺の方を見るケイロン。
だが俺はぼーっとしすぎてからかわれているのに気付かなかった。
それが不服だったのか、石畳の道を駆け足で前に行き「早く冒険者ギルドに行くよ! 」と顔を膨らませながら急かした。
★
道行く人に場所を聞きながら冒険者ギルドへ辿り着いた。
道中他の建物も確認でき一石二鳥だ。
この町は比較的整備されているようだ。
宿や食堂がある区画、住民が住む区画、貴族達が住む区画、そしてスラムがある区画等々ギルドへ行く道の中、色々な人が教えてくれた。
最もそう言ったことはケイロンが引き受けてくれたのだが、誰が見ても美少年な彼がギルドへの道を尋ねると色々素直に教えてくれた。主に女性陣が。
少し放っておかれた俺も見様見真似で道を聞いてみたが簡素な答えが返ってくるだけだった。
この差に釈然としないこともないが、ケイロンのおかげで色々と分かった。
★
冒険者ギルド。
そこに着くと一つの大きな建物があった。
周りと同じく煉瓦状の建物だが、剣と盾を看板を吊るした二階建ての建物で周りの建物よりもいくらか大きく、分かりやすい。
それに加え剣や盾、杖を持った人達が中に入っていったからなおさらだ。
「よし! 行こう! 」
そう意気込み、俺とケイロンは冒険者ギルドへと足を踏み入れた。
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