第三百七十一話 帰国の旅路と犯罪者と気ままな神獣達
「もう帰るのか? 」
「ええ。流石に長く居過ぎましたので」
そう言うとカイゼル五世は少し寂しそうな顔をした。
先日の国選武闘会とそのエキシビションマッチを終えた俺達は翌日朝食をとった後、獣王にそう言った。
リンのまさかの種族限界突破に驚かされたエキシビションマッチではあったが逆に弱点も見えた。
ロイ様の時はそのようなことは無かったが活動限界が極端に短かったのだ。
そうしたリンの事もあって引き分けということで終わりを告げたのだが、ガラス公爵に聞くところによると最初のやり取りだけでカルボ王国の面子は最低限守られたとの事。
外交組の仕事も終わったみたいで俺達は帰国することにした。
「何だ。後一年くらい、いやずっとこの国に住んでもいいんだぞ? 」
「えぇ……」
「貴方。それをやらないためにアンデリックちゃんに子獣位を与えたのでしょう? 外交上の問題に発展させるようなことを言ってどうするのですか」
移り住めというカイゼル五世にロナ様が嘆息気味に窘めた。
俺の子獣位にそんな理由があったとは。
何も知らずに受け取ったがやはりというべきか政治的なことが絡んでいたんだな。
「さて、アンデリックちゃん」
「はい! 」
「リンの支度金も含めて毎年の年金は獣王国の国営銀行に入りますがお金は計画的に使うのですよ? 」
「イエス! マム! 」
「帰る時は再度連絡を寄越すように。それと……」
呼びかけられた俺は席を立ち後ろで腕を組みながら話を聞く。
これはお義母様の恐ろしさをこの前知ったからだ。
先日貴賓席で余計なことを喋っていたカイゼル五世。
後にお義父様にアイアンクロ―をかましながら怒っていたのを偶然見かけてしまった。
それを見て逆らえる人がいるだろうか。いやいない。
粗方注意事項を聞き終えた俺達は荷物を纏め連絡をして過剰な送別を受けながら帰るのであった。
★
時は少し遡り獣王国の王都。
そこでは肥えた狸獣人達が逃げまとっていた。
「おい。早く馬車へ」
「領地に戻るか? 」
「馬鹿もう封鎖されているに決まってる! 」
「ならどこに逃げる! 」
「タウロ伯獣位領はどうだ? 」
「わし達の作戦がバレていたのだぞ! 平民に紛れるべきだ! 」
馬車があるところまで走りながら彼らは各々案を出す。
しかし良案は出てこない。
なぜこのようなことになったのかというと国選武闘会も終わり会場から王都にある自分の屋敷へ帰ったところ国軍に制圧されていたからだ。
容疑はテロ未遂。
捕まりそうになった彼らだが狸獣人が有する種族特性で逃げ切りそこから逃げおおせた。
が――。
「くそっ! なんでこんな「ドン! 」」
走っているとそこで彼らは全員何かにぶつかり転げた。
ぶつかった衝撃と転げた痛みと焦りで怒りがこみ上げ、怒鳴る。
「貴様! よくもぶつか……」
顔をあげた所にいたのは――騎士であった。
王城地下牢獄。
十人の狸獣人がそこに繋がれていた。
両手には金属製の鎖が付けられ持ち上げられており、足には鉄の重石がはめられている。
この部屋自体、中で魔法が使えないように妨害系の刻印がされておりもしここから逃げれたとしても様々な罠を潜り抜けないと脱出が出来ない。
よってここへ来て帰れる者は看守の先導で来た者か相当な実力者か、の二択である。
セレスが作った罠とどちらが巧妙かと言われれば無論軍配はこの王城のものになるのだが、殺傷能力で言えばセレスの罠に軍配が上がる。
「おい。生きてるか? 」
「死ねないのがこれほどに苦しいとは」
「こうなるのなら先んじて脱出用の依頼も出しておくべきだったか」
「それは無理というもの」
酷い顔をした狸獣人達はその言葉に驚き顔をあげる。
そこにいたのは一人の男獅子獣人。
服装は騎士のようだが、普通の騎士ではないの確かだ。
何せ看守の先導もなしにここまで一人で来ているのだから。
「お前達が雇っていた犯罪組織、それに組織の本拠地に各支部は俺達が潰した」
「な!!! 」
ありえない、狸獣人達はそう思った。
小さな組織なら可能ならば相手は国内最大級の犯罪組織の集合体。
それを潰すとなると一世代以上はかかるのは必然。
しかし逆に納得がいった。
自分達がこうして捕まっているのはあの組織達が全滅したからだ、と。
「さて、聞きたいことは山ほどある」
「ちょ、ちょっとまて! 何だその手に持っている短剣は! 」
「聞くだけならいらないだろ! 」
「話す! 話すからやめてくれ !」
「お前達がドワーフ族にしたことも知っている。精々詫びながら地獄へ行きな」
狸達の悲鳴が轟く中、情報収集は実行された。
★
夜の王城。
カイゼル五世とガラス公爵は会談をしていた。
議題は『リン王女誘拐事件』。
そうはあるもののガラス公爵側としては『武器情報流出問題に関して』も情報が欲しいところではある。
「やはり繋がっていましたか。こちらの貴族については? 」
「それらしき人物は口にしていたようだ。だが、尻尾の一人だろう。だが面白い事を聞けた」
「面白い事? 」
「貴族は分からなかったがこっちの組織と繋がっていたのは『アウトサイダー』という組織らしい」
それを聞き目を見開くと同時に頭を痛める。
犯罪組織『アウトサイダー』。
この組織の名前は業界のみならず国内の貴族の中でも有名で厄介この上ないからだ。
だが同時にガラス公爵は「アウトサイダーならば」ブラッフィ伯獣位の依頼を受けても納得がいった。
差し詰めとらえた貴族で人体実験でもやろうと考えていたのだろう、と。
はぁと溜息をつきながら二人は肩を落とした。
「ま、国選武闘会を利用して国内最大の犯罪組織集団は潰せた。これは僥倖だ」
「それは何よりで。後はこちらをどうにかすれば」
「そう言うことだな。流石にそちらの組織を潰すのにこっちの戦力は割けれん。内政干渉が過ぎるからな。本来なら新人教育も兼ねて送ってやりたいところではあるが」
「お気持ちだけでも結構ですよ。ありがとうございます」
二人の会談はまだまだ進んだ。
ガラス公爵はカイゼル伯獣位家の親族であり次期国王との顔合わせも済ませて自室へと戻った。
★
別所。
ここは王都にあるイナリ伯獣位家の屋敷。
狐獣人であるイナリ伯獣位家なのだが今彼らは全員が一人の女性に平伏していた。
その女性——ツキヨは戦闘の時と変わらず涼し気。
違う点と言えば長い髪を後ろで結って仮面を取っている所であろうか。
このイナリ伯獣位家当主含め全員が平伏するという異常状態を意にも返さずツキヨは凛とした声を発する。
「面白いもの、懐かしいものを見ることが出来ました。今回は無理を言ったようで申し訳ないですね」
「テン……ツキヨ様。そのようなことはありませぬ」
「王を、決める闘いだったのでしょう? 」
「元より我々が闘いリン殿下にかなうとはつゆとも思っておりませぬ。むしろその剣舞を見せていただけただけでも見に余る光栄でございますゆえ……」
当主が非常に恐縮しながらそう言った。
それを聞きつつもツキヨは上を見上げる。
何かを見つけたようだ。
「……急に押しかけ、また急で申し訳ないのですが私はそろそろ行かなくてはならないようですね」
「ははぁ!!! 」
では、という言葉と共に彼女は蒼い光の球となって屋敷をすり抜けた。
一匹の白く神聖さを醸し出す一尾の狐が天を駆けている。
下から見ればさぞ神々しく見えるのだろうが残念ながらその狐——天狐を視れる者はいない。
ただ一人、いや一体を除いて。
『お久しぶりですね』
『急に思念伝達を行わないでください。こちらにも事情があるのです。貴方はいつも突然なのですから』
一匹の天狐に話掛けるのは一匹の天馬であった。
ここは王城の屋根の上。
こっちにこい、と天馬が呼び寄せたのだ。
『何で貴方は貴賓席にいたのですか? 』
『面白い人を見つけたので』
『……嘘を言わないでください。まぁ面白そうなのは認めますが』
『一緒に来ますか? 』
『止めておきます。貴方について行っていい思い出がないので。それに今住んでいる所は非常に心地いいので』
『あの、貴族の所ですか? 』
『いいえ。海が近くにある大和皇国という所です』
『今度遊びに行っても? 』
『絶対に来ないでください』
昔馴染み、つまり第一世代神獣である天馬と天狐は他愛もない事を話し近況報告をしていると天馬が急に尋ねた。
『大和皇国にいるのなら何故この国にいたのですか? 』
『なにやら不穏な雰囲気を感じたので、皇国に影響がないか調べに来たのです』
『なるほど。それで九尾の狐獣人の姿を取り、偽名まで使って遊んでいたと』
『あ、遊びではありません。調査です! 』
『はいはい。で、結果は? 』
『不穏さはもっと違う所の様ですね。この国ではないようです』
『しかし……貴方がいるということはあの、獅子獣人の女の子に種族限界突破を教えたのは貴方ですか? 』
『いいえ。違います』
『なら誰が』
『大体想像がつきますが、まぁいいでしょう。私はこれから少し遊びに行ってくるとい崇高な使命があるので今日はこの辺で』
『強制的に呼び寄せて、勝手気ままに立ち去る。あの少年の苦労が目に見えるようです』
そう言いながらも二体は別れた。
天狐——ツキヨはその足で大和皇国へ向かう。
なお途中彼女が通った魔境は消滅したらしい。
ここまで如何だったでしょうか?
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