第三百六十八話 国選武闘会の裏で 三
「予定の時間だ。皆、良いか? 」
「「「ハッ!!! 」」」
獣王国ビスト王都のとある場所。
周りに人がいない中、都民が来ているような服を着た集団が、腰に剣を携えて集まっていた。
都民が剣を携えること自体が不自然なのだが彼らに抜かりはない。
無論隠蔽系統の魔法はかけてありそこには何もないように映っている。
彼らは獣王国国王直属隠密襲撃部隊『オウガ』。
国王が保有する最大戦力であり『個』として一騎当千の者達が集まる集団である。
隠密、とあるが『フクロウ』『モグラ』とは異なり力に重点が置かれた部隊で一人一人が国軍各総司令官の副官程の力を持つ。
そのような彼らが忠誠を誓っているのはただ一人。
獣王『リチャード・カイゼル』のみであった。
『フクロウ』、『モグラ』含めて彼らの出生は高貴から離れたものである。
中には元犯罪者のようなものもいる。
リチャードが幼少の頃から外に出ては王城を困らせていたころ燻っている彼らを見つけ、叩きのめし、時には一から育て上げ『最強の部隊』にし立て上げた。
リチャード自身はそんな気はなかったのだろうが、結果として彼は永劫の忠誠を誓う程に厚い忠義を捧げる最強の部隊を手に入れた。
そもそも『モグラ』はともかくとして『フクロウ』や『オウガ』はリチャードが一から作り上げた組織だ。
リチャードが王となった時彼らに貴族位を与えようとしたが拒否され、モグラを参考にして作り半ば無理やりに組み込んだ。
信じるものがただ一つである部隊は強い。
その柱が倒れない限り精神が崩れないからだ。
「分かっているとは思うが姿形に惑わされるな。女子供であろうと油断するな。躊躇するな。相手は陛下にとって害悪」
リーダーと思しき獅子獣人が全員に確認する。
それぞれに強い意志を確認しながら言葉を紡ぐ。
「相手は国内最大級の犯罪組織の集まり。決して気を抜かず一人残らず殲滅せよ! 」
「「「ハッ!!! 」」」
そして腕を上にあげ――
「「「上限解放!!! 」」」
上限四段階目に突入した王の剣が犯罪組織に牙をむく。
★
「そっちはどうだ? 」
「完了だ」
「仕込みは完璧だ」
「しかし思わねぇだろな。こんな作戦」
国内でも一、二を争う犯罪組織の組織員が町人の服を着て王都を歩きながら話していた。
彼らの懐にはカルボ王国から流れてきた超短な魔杖。
これのおかげで彼らは今回の作戦を比較的簡単に実行に移せる。
「ありきたりと言えばありきたりだが、やる奴なんてそれこそ戦争でもおきねぇとやらねぇよ」
「雇い主様は戦争をお望みで? 」
「さぁな。だが関係ねぇ。むしろ戦争ならば俺達は動きやすいってもんだ」
「確かに」
今までのわだかまりがないかのように二人は話す。
組織的ライバルであった彼らだが、逆に言うとそれほど相手のことを知り尽くしている。
お互いに今日とするならばこれ以上ない程に心強いものはないと、感じていた。
歩きながら軽く闘技場の方を向く。
「あっちはどうなってるだろうな? 」
「さぁ。失敗してもこっちが成功すればいい」
「まさか二面同時に殺戮が起きるなんて思わねぇだろな」
はは、と軽く笑い前に進む。
「よしそろそろ……え? 」
作戦実行を伝えようと隣を見るとそこには先ほどまでいた相方がいない。
混乱し、訳も分からず彼は気を失った。
一方国選武闘会会場付近。
「あいつらは行ったな」
「最低でもどれかが成功、最高は全て成功がいいんだが」
「流石にそれは無理があるだろ。戦力も割り裂いている」
「確かにその者が言うのには一理ある。腐っても相手はビストの正規軍。やり合うだけばからしい」
「なに。最悪騒ぎだけ起こして逃げればいい。最低限の依頼達成にはなる」
「金にはならんがな」
会場付近には物騒なことを口走る獣人族達が丸い闘技場を見上げてそう言っていた。
彼らも犯罪組織の一員で闘技場を襲う係りの一部だ。
熱狂的な声が外に漏れだす闘技場を見上げる彼らは歓声を聞きつつニヒルに笑う。
「この歓声が絶望の声に変わるとなると、ぞくぞくするね」
「……趣味悪」
「趣味は人それぞれ。嗜好に口を出すのは無粋というものぞ? 」
「分かってるよ。拷問狂」
嫌そうに唇をへの字にしつつ一人の獣人は会場を見て気合いを入れ直す。
が……。
「え」
気付いた時には空を飛んでいた。
もちろん仲間はいない。
「ど……」
どういうことだ? と言い終える前に眠りについた。
同時刻その上空で一瞬だけ空を舞う多くの有翼獣人が確認されたという。
しかし都民達は「国選武闘会に駆り出されている有翼獣人だろう」と思い気にも留めなかったらしい。
★
王都入り口付近にある宿にて。
ここには各組織のリーダー達が顔を合わせて焦っていた。
「くそっ! 失敗だ! 」
「どういうことだ、いつ襲ってきた?! 」
「監視役によるといきなり姿を消したとの事」
「その監視を行っていた監視も消えたがな」
激高する二人に冷静に分析する二人。
冷静に分析しているものの彼ら二人の心中は穏やかではない。
「すぐにここから脱出するぞ! 」
その一言で彼らは数十の部下を連れて王都を脱出した。
王都から牛獣人の領地に向かう道へ繋がる街道。
そこへ足を踏み入れ、今から撤退しようかと思っていると後ろから悲鳴と血飛沫が飛んできた。
「クソ! もう追手か! 」
「剣を構えろ、冷静に対処しろ! 正規軍とは言え所詮は少数! こちらに利がある! 」
そう指揮しながら剣を王都の方へと向ける。
自身も連れてきた魔法使いに強化を行ってもらい身体能力の底上げを行った。
しかし飛んでくる血飛沫や悲鳴は、増していく。
そして残り四人となった時、一人の獅子が見えた。
「……獣王の手のものか! 」
そう言うも何も答えない。
彼は単に犯罪者を見つめるのみ。
見つめられた犯罪組織の者達に底知れぬ恐怖が襲う。
彼らは犯罪者である。
これまでに幾度となく危険な依頼を受け死の瀬戸際ギリギリを生きてきた。
しかしここまで一方的にやられた経験はなかった。
人員が不足しているわけではない。
むしろ失敗を予測したうえで手元に人材を残して脱出を試みた。
国選武闘会会場と王都全域同時多発的な殺戮の発生というぶっ飛んだ依頼を受けながらも彼らは慎重に計画を練った。
依頼主からは「可能ならば貴賓の誰かを」「ダメならば混乱だけでも」と言われているため混乱さえ起きればよかった。
しかし現状、混乱は起きずに撤退を余儀なくされた。
屈辱に塗れながらの撤退に追ってきたのはたった一人である。
この異常な状況に怒りを覚えながらもどうすれば撤退できるか考える。
「仕方ない! 最後の手段」
そう言い小袋から一つの魔石を取り出して地面に叩きつけようとするが――灼熱のような熱さを背に感じた。
「……来るのが遅かったじゃないか」
「こっちは向うを潰した後にこっちに来たんだ。このくらいは誤差だ」
「遅れて失敗すれば陛下に顔向けが出来んだろ……」
「間に合ったじゃないか。ならよしとしてくれ」
その者は血を吐き膝をつく。
誰が、と思い最後の力を振り絞り後ろを周りを見た。
そこには今まで誰もいた気配がなかった場所には数十の荒ぶる馬と騎士達が組織長達の退路を断っている。
「な……んだ、と……」
今、勝敗は決した。
ここまで如何だったでしょうか?
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