第三百六十四話 国選武闘会 四 上限解放 《オーバー・リミット》
熊獣人ググリ伯獣位の代理アザルプナード・ググリと鼠獣人クリーピング伯獣位の代理キルチュウ・クリーピングの戦いがキルチュウの勝利に終わり、不戦勝でイナリ伯獣位家の代理ツキヨが上がってきた翌日、俺達は王城の一室で各参加者の能力を分析していた。
上限解放の反動も鑑みて試合の翌日はそれぞれ休みになっている。
最終的に上がってきた相手と戦わなければならないのだが……。
「何で全員上限解放使えるんだよ! 」
「それは前も言った通り使えないとまず出れませんので」
「いやいや、使わなくても強い人とかいるだろ? 例えばサブマスのミッシェルさんとか! 」
「いますが、獣王国ではこれが普通なので」
「……くっ! これが文化の違いというやつか」
「文化ではありませんが種族特性もあるのかもしれませんね」
「「「種族特性??? 」」」
俺が一人打ちひしがれているとセレスが入ってきた。
「獣人族は他の種族に比べて上限解放に辿りやすいようなので」
「……どういうこと? 」
「多様性に富む獣人族ですがそれはそれだけ争いごとが多いということ。悪い例えですが人族が知恵で喧嘩をするならば獣人族は拳で喧嘩をします。よって肉体的損傷を受けやすい環境にある獣人族は身を護るために自然と上限解放へ辿り着くようで」
「……他の種族は極限まで拳で争いをしないから辿り着くのが遅いってこと? 」
「それぞれの上限解放へ至る条件は分かっておりません。しかし獣人族は肉体的損傷が引き金になることが多いと結論付けられていますね。もっとも例外はあるでしょうが」
セレスが考えながら上を向いてそう言った。
殴り合いで上限解放されるってどんな条件だ……。
セレスが言う通りならば他の種族の上限解放の条件は何だろうか?
あの暁の傭兵団とか言う組織のドワーフは火を浴びて上限解放に至った。
ドワーフ族の条件は魔法か何かを直接受けることか?
いや流石にそこまで酷くないとは思うが、あの戦闘で精霊術師になることが条件ではないことだけは分かった。
彼から小精霊が放出されている様子が全くなかったからな。
「デリクの上限解放も不思議だよね」
「虹色に光ってるもんな」
「虹色のデリク……ぷぷ」
「おい、ケイロン何笑ってる! 」
『彼の上限解放は通常の人族のそれに加えて精霊の力が宿っているので虹色になっているのですよ』
「らしいぞ? 」
「なら体を循環している小精霊が原因? 」
「そう考えるのが妥当でしょうね」
「あれ? セレスの案じゃ? 」
「え? 」
ふと会話に参加する人数が多いことに気が付き周りを見渡す。
この場合は……俺の腹! にはいなかった。
天馬だろ? さっきの声。
どこにいやがる、あの駄馬!
皆に聞こえているということは俺の中から発信しているわけじゃないだろ?
そう思い周りを再度見渡す。
床に机に下を覗くもどこにもいない。
壁を見る。
絵画……壺……鹿の剥製……馬の剥製……絵画……壺……。
「「「いたぁぁぁ!!! 」」」
『やっと見つけましたね。これでは神様認定天馬検定一級への道は遠いですよ? 』
やれやれと言った口調で首を振り壁から中へ出てくる天馬。
何だよ神様認定天馬検定って。
ちょっと気になるじゃないか。
『人族の上限解放は通常思考加速、高速演算、思考領域拡張に加え感知全般が上昇します』
カパラ、カパラと歩いてきて俺達の隣まで来ると膝を折り説明を始めるとセレスが食いつく。
「……初めて知りました」
『人族でそこまで至る者が少ないため知らないのは仕方のない事です。他の種族よりも寿命が短く条件が厳しい。常に命の危険を浴びながら、考えなければいけないので』
「厳しすぎんだろ」
『仕方ありませんよ。何せっと、止めておきましょう』
「その先、その先を教えてください!!! 」
口が滑りかけたように話を止めて口を紡ぐがセレスが近寄り聞き出そうとする。
……。
わざとらし!!!
いたずらかなんかだろ、それ!
このニヤニヤしているあの馬の顔を見るとそれだけで考えるのをやめた。
遊んでいるのが良くわかるからだ。
『話を戻しますが、彼の上限解放は今上から数えて二段階目。そこにあるのは許容性の拡充です』
「……これまた抽象的な能力だね」
「許容性ってなんだよ。優しくなるのかよ……」
『優しくなるのは良いことですが今回のそれは違います。この場合の許容性は様々なものを受け入れる能力のことを言います。そうですね。例えば――七属性を合わせた精霊魔法が使えるようになるとか』
まんま俺じゃねぇか!!!
『まさか普通の人が精霊の加護を沢山受けてタダで済むと思ってたのですか? 』
「え……」
『加護を受け過ぎたらその時点で「パン! 」ですよ「パン! 」。爆発します』
こわっ!
爆発って、こわっ!
『まぁ爆発は言い過ぎかもしれませんが、六人を超えたくらいから体に不調をきたすでしょう。あまり複数加護を持っている人にあったこと、ないでしょ? それは精霊側が遠慮しているからですよ』
それを聞き、俺は無言でエリシャの影を視た。
そこから闇の精霊ミルがこちらを見ている。
無言で意思疎通し、少し震えるミルが影の中から元素四精霊を俺の前に差し出す。
と、同時に陰に隠れてしまった。
『ちょっとなによ、ミルっち』
『もう帰る時間なの? 』
「おいお前ら」
冷たい声を放ちながら「ガシッ! 」と彼女達を鷲掴みする。
『え、ちょ、何?! 』
『いきなり何なの? 』
『暴行よ、精霊暴行反対! 』
「俺に一気に加護を与えたよな? 」
『そ、そうだけど、離して! 』
『なに、お礼に何か面白い事でもしてくれるの? 』
「面白い事。そうだな。お前達をエルベルに預けようか」
『『『ひぃ!!! 』
「いいのか! 」
「ああ。いつも苦労を掛けているだろうからな。十分に堪能してくれ」
『ほんとシャレにならない! 』
『何があったのよ! 』
『なんでそんなに怒ってるのよ! 』
エルベルに捕縛されクンカクンカされ、おもちゃにされながらも抗議する元素四精霊達に天馬が言ったことを伝える。
『し、知らなかったのよ! 』
『不可抗力だわ! 』
『いいじゃない。結果として、うわぁぁ』
「エルベルの中に沈むがいい」
そう突き放し、天馬の方を見る
『そう言う訳で五段階ある中の四段階目まで進んでいるというわけですよ、貴方の上限解放は』
「なるほど。理解した。ほんとに俺、ギリギリだったんだな」
「いろんな意味でね」
「カオス・ドラゴンと戦っている途中で四段階目に入ってなかったら大変でしたね」
「逆にカオス・ドラゴンのことがあるから一気に飛ばせたのかもしれないけどな」
そう結論付けながらも情報を整理し対策を練る。
来るべき闘いに向けて。
ここまで如何だったでしょうか?
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