第三百六十二話 国選武闘会 三 第一回戦 三 パオライカ vs ピョルマール
フェナの件は一旦放置し次の試合へ。
少々冷たいかもしれないが俺達が考えてもどうにもならない話でもある。
ここはフェルーナさんとガルムさんに判断を任せよう。
気を取り直して第三試合。
司会者が両腕を使って大袈裟に紹介しながら最後の円柱が出てきた。
ズン! ズン! ズン!
「……デカい、な」
「ええ。彼は象獣人の部族長パオライカ・パオーマ伯獣位です」
「象? 」
聞いたことのない動物を言われ首を傾げる。
すると俺の隣から説明が飛んできた。
「象という動物は巨大な耳と長い鼻を持つ生き物で体の大きさは人族の平均の二倍から三倍ほど。体重もかなり重く、比較できない程です」
「ああ……。だからあんなにも体が大きいのか」
「動物と獣人族は相互に関係していますので」
リンがそう言いあの巨体を見下ろした。
「生活がきつそうだな! 」
エ、エルベルが俺が敢えて言わないようにしていたことを言いやがった。
「専用の店があるのか?! 行ってみたい! 」
「よーし! お前は黙れ!!! 」
「エルベルさん。流石にそれは」
「え、なに? 何かしたか?! オレ?! 」
エリベルは「バタン! 」という音を立ててケイロンとセレスに連れていかれた。
……。余計なことを言うから。
溜息をつきながら再度闘技場を見下ろす。
「もう一人は……。兎獣人? 」
「その様ですね。彼女はピョルマール・シューター。シューター伯獣位家の長女です」
「武器は持ってないように見えるけど……。拳闘士? いや、籠手もないように見えるな」
「ありゃぁ、足だな」
「「足?? 」」
後ろから分析する声が聞こえる。
振り向くとスミナがこちらに向かって歩いてきていた。
「足を見てみろ。蹴り用の武器が付けられているだろ? 」
俺達の横まで来た彼女はそう言った。
そう言われ再度よく見ると確かに俺達が履いているような靴とは違う物をはいていた。
オーダーメイド?
「素材は、鉄か、それ以上の何か、だな。刻印もされてる。重力操作系? ……」
横に来るや否やすぐに靴を分析しだすスミナ。
俺には何が何やらわからないがどうやら彼女の琴線に触れるものがあったようだ。
ブツブツ言っている横を見ると怖いくらいに目を開けて見入っている。
さらっと目を逸らしリンの方を向くと苦笑していた。
「さ、さぁ試合を見よう」
自分に言い聞かせるようにそう言い試合会場をみる。
俺はこの大会に出場している人達のいずれかと戦わないといけないのだ。
少しでも分析をしなければ!
★
「俺との対戦が決まってよく逃げなかったな小娘。その勇気は褒めてやろう」
「良い歳した爺が出しゃばってんじゃねぇよ」
パオライカが戦斧を振り回し「ドン! 」と音を立てながらそう言うと挑発を受けたピョルマールは当主相手に爺呼ばわりし喧嘩を売る。
しかし年の功。このくらいでは動じずじっくりと観察するようにピョルマールを見ていた。
「な、なんだよ。爺見んじゃねぇよ! 気持ち悪い! 」
「き、気持ち悪いだと?! 」
ピョルマールの姿はお世辞にも清楚、とは言い難くどことなく目のやり場に困るような格好で、野性味あふれる姿をしている。
そのせいかパオライカの視線を受けて誤解したのだろう。
確かにセクハラを思わせる視線をしていたのは間違いない。
しかしそれはパオライカにとって単純に自分を挑発してきた自信気な相手を観察し、解析し、分析するものであってそういう意図はなかった。
挑発を受けても動じなかったパオライカだが流石の「気持ち悪い」発言で頭に血が上る。
「……。いいだろう。その挑発乗った!!! 」
フン! と戦斧を闘技場に叩きつけて音を立てヒビを入れる。
「はっ! たかがさっきの言葉で威圧ビンビンとはよ。案外ちいせぇのな! 」
「~!!! 」
どんどんと頭に血が上り顔を、鼻を、耳を赤くする。
激高状態だ。
これ以上は進行に差し支えると思ったのだろう。
審判兼司会者が「双方ともいいですか? 」と尋ね、二人共軽く頷く。
「では始め!!! 」
司会者が離れようとすると同時にピョルマールが唱える。
「上限解放! 」
瞬間茶褐色の体が突如白くなる。
体の色が変わったのではない。白い体毛が覆っているのだ。
吹き上げる魔力と共に彼女の身体能力は飛躍的に上がり――完了した。
「あ“? 舐めてんのか? 何で上限解放しない? 」
自分がしたのに解放しないパオライカを見て威圧する。
パオライカは憤怒の為か耳に入っていないようだ。
戦斧を持ち上げ構えていた。
「まぁいい。すぐに終わらせ――る!!! 」
ジャンプしたかと思うとパオライカが倒れ、その隣には轟音と共に大きな穴を作ったピョルマールが突然立っている。
少なくとも観客にはそう見えた。
★
「とんでもないな。あの力」
「兎獣人の上限解放、兎人化。その能力は基本的な上限解放と同じく基礎身体能力の向上に加え脚力を大幅に上昇させることです」
「……一気に空高く上昇して首に蹴りを一撃。あの厚そうな皮膚を通すんだから相当な威力だっただろうに」
「それだけじゃないぜ、アン」
俺達の解説にスミナが前のめりになって付け加える。
「あの靴だ」
「「靴? 」」
「ああ。最初はどんな刻印が刻まれているかわからなかったが、今さっきので確信した。重力操作だな、こりゃ」
両手を組みうんうん、と頷くスミナに俺達は解説を頼む。
「まず最初の段階、つまりジャンプする時だ。あの時確かに魔法が発動した」
「……気付かなかった」
「まぁ足元を見てなきゃわからないとおもうが、それはいい。で、だ。最初は――素材は分からねぇが――靴を軽くし、ジャンプ。そして落ちてくるときに再度発動してあの大穴が出来たってわけだ」
……どういうこと?
「つまりですね。ジャンプしそのまま蹴っただけでは単純な上限解放の蹴りの分、いえ宙に浮いている分だけ少ない威力しか出ません。しかし、そこで靴の重さを自在に操れるような重力操作系魔法が刻印されているとなると」
「その威力は、何倍、何十倍以上にも膨れ上がるってわけだ」
まぁ靴が持つまでの威力にはなるがな、と付け加えてスミナが締めた。
そ、そんな恐ろしい靴だったのか、あれ。
これは要注意だな。
説明を受けた俺は闘技場を再度見る。
ピョルマールは勝利宣言を受け呑気そうに出入口へと向かっていた。
……本人は気付いていないだろうがピョルマールの初動を見切っている時点で我々の世界の住人だ。スミナよ。
指摘はしないが。
ここまで如何だったでしょうか?
面白かった、続きが気になるなど少しでも思って頂けたら、是非ブックマークへの登録や広告下にある★評価をぽちっとよろしくお願いします。




