第三十一話 ゴブリン退治 三 危機到来
嫌な予感がする。
頭がズキズキと痛い。
「おい、坊主。大丈夫か? 」
ディルバートが心配そうに尋ねてきた。
どうやら顔に出ていたようだ。
しかし、本当に嫌な予感がする。
「ディルバートさん、すみません。頭が……」
「頭? ん~「休んどけ」と言いたいところだが、向こうは戦闘中だからな……。『気』にでも当てられたのか、はたまた……」
頭を覆うように手を当て言うと、彼が考え出す。
「よし。向こうに行って休んでな。どの道その状態じゃ前線に補給へ行けないだろ。こっちは適当に言い訳しておいてやるからさっさといきな」
手で追い払うように動かし、急かす。
「……ありがとうございます。すみません、少し休んできます」
そう言い俺はおぼつかない足取りで歩きだした。
少し時間がたった後の林のキャンプ。
「っ!!! 行かして正解だったか? 」
「おい、狂信者。どうした? 」
「今日は厄日か何んかか? 」
ディルバートが長剣を手に取り林の方へ向けると、他の冒険者が気付く。
そこにいたのは背の低い緑色のモンスター――ゴブリンだった。
「まさか『守り人』が負けたのか? 」
「そんなはずはねぇ……。だが、目の前の脅威は事実だ……」
「確かに」
冷静に観察するに、脅威となる武器は持っていない。
手には自作であろう棍棒と申し訳程度の腰の布。
この状態でCランク冒険者達を倒したとは思えない。
「もっとも考えられるのは多すぎて打ち漏らした、か」
「おいおい、村程度じゃ打ち漏らさねぇだろ」
「ならそれ以上の数だったのか元より他の場所にいたのか、じゃないか」
そう言いつつ、物資の隣にいた冒険者は杖を構える。
「ま、俺達がやることは変わりない」
「確かに」
「じゃ、一先ず……やるか」
そう言い三人がゴブリン五体程と対峙し、戦闘準備に入った。
★
ところ変わって前線。
Cランク冒険者パーティーとゴブリン達の戦い。
「くそ、多いな……」
「全くだ」
そう言いながら周りに広がる緑の動くモンスターを焼き払う。
彼らは前進していた。
しかしその前進は止まらない。
敵を殲滅するまで止められない。
「これは、村になってるな」
「放置した覚えはないんだがなっと! 」
一閃。
戦士風の男冒険者が前にいるゴブリン数体を一気に切り裂く。
「整ったわ。一時散開! 」
『守り人』の女魔法使いがそう言うと全員がその射線から外れる。
「岩石連弾! 」
彼女の杖から黄色い魔法陣が展開され、巨大な岩石が出現する。
それと同時にその直線状にいたゴブリンは文字通り圧死した。
「次弾! 発動!!! 」
「「「穿て! 風弾!!! 」」」
指揮を執っている騎士装備の冒険者が指示を出すと、圧死したゴブリン達の周囲にいる者達に対して魔法が放たれる。
周囲に風弾が放たれ次々とゴブリン達が倒れていく中、仲間だった物を踏みつけてでも前に進もうとするゴブリン達が迫ってきた。
「魔法使い達は一旦後退! 盾役、前進!!! 」
その一言と同時に自ら盾を構え、ゴブリン達を盾で受け止める。
ゴン!!!
相手も進むのに必死になり棍棒や剣を振り回すが、盾に阻まれ進めない。
その間にも盾の隙間から剣を突き刺し、地味ではあるが一体一体確実に潰していく。
そして時が経ち、相手はやっと全滅した。
「なんだ、この多さは」
「四桁行ったんじゃないか? 」
全員が息も絶え絶えでそう話し合う。
周りはゴブリンの死骸だらけ。
鼻をつまみ、嫌な顔をする。
「複数村が出来ていたとか? 」
「ありうる、な」
「え? それ本当ですか? 」
「可能性の話だ」
他の冒険者が緑の死骸を一か所に集めながら、考えを言う。
「その場合だと全部回らなくちゃいけねぇのか? 」
「それが依頼だ」
「やってらんねぇぜ」
「仕方ないだろ? その代わり破格の報酬をもらってんだ」
確かにそうだ、と言う冒険者。
また他の者は違う目線で考えを口にする。
「俺は今回町の行政を見直したな」
「どういうことだ」
「ギルドで話が終わってたら、もっと大きな群れとなって町を襲ってただろうよ」
そう言いつつ集め終わる。
ふぅ、と一息ついた後積み上がった複数の山を見るとその多さを再度実感し複雑な気分になった。
「皆さん、離れてください」
一人の魔法使いが離れるよう指示出すと、何をするのか悟り離れる。
「では。中位発火」
魔法使いがそう唱えると、赤い魔法陣が展開されゴブリン達の死骸を包む。
放った発火の魔法が轟々と燃え盛り、焼く。
物凄い臭気に全員が嫌な顔をするが仕方ない。
それこそこの数がアンデットになったらとんでもないことになる。
せめてこうして処理しておかないと痛い目を見るのは自分達だ。
「さぁ休憩もここまでだ。進もう」
ゴブリンの処理が終わり鎮火させ、魔法使いは魔力を回復させ他の者は体を休ませた後、リーダーの一言で進む。
Cランク冒険者パーティーが進む中、ついに彼らはゴブリン村に到達した。
だがそこは予想にしていない事が起こっていた。
「おいおいおい、これはなんだ?! 」
「何が……起こったんだ? 」
彼らの目の前に広がるのはゴブリンにしては堅牢な建物の残骸。
飛び散る血飛沫。
そして大きな足跡。
「……周囲に注意を払いながら探索。モンスターは見つけ次第討伐。急ぐぞ!」
リーダーである騎士姿の冒険者はこの光景を見て嫌な予感がた。
それは経験則から来るものだが、まだ確定ではない。
間違っているかもしれない。
下手に口に出し、パニックを起こさせてはいけない。
そう思い、指示を出した。
「こっちは……何もないですね」
「こっちもです」
各々が報告してくる。
不自然。
建物の造りの良さ。
巨大な何かに切り裂かれたかのような破壊痕。
そして血飛沫。
「全員集まってくれ」
そう言うと全員が集合し、リーダーの言葉を待つ。
「パニックにならずに聞いてくれ」
息を整えながら覚悟する。
「この痕跡からわかるように巨大な……そして強いモンスターがこの村を襲ったのだろう」
「そりゃぁみりゃぁわかるが、それがどうした? 」
「むしろ村を潰してくれたんならありがたいんじゃ? 」
「人がやった可能性もある。そう気を張るものなのか? 」
冒険者達が各々顔を合わせ、口々に言う。
確かに悪い意味で人為的な所も見える。
誰かが討伐してくれたのならそれでいい。
しかし現実は残酷だ。
「貴方達、よく聞きなさい! 」
たまらず女魔法使いが注意する。
話の腰を折ったのが気に障ったのだろう。
彼女の言葉を受けた冒険者達は再度リーダーの方を向く。
「でだ。これが人ではなくモンスターが起こした現象として、先ほどのゴブリンの大群。そこから導き出れる答えは――」
「リーダー、来たぞ!!! 」
周囲に注意を払っていたバンダナを巻いた女冒険者が怒声を上げた。
それと同時に地響きが聞こえてくる。
「——モンスター暴走だ」
彼らの戦いは第二戦目へと突入した。
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