第三十話 ゴブリン退治 二 準備
俺達はまず作戦を立てている。
と、言っても『補給係』の俺やケイロンは話を聞いているだけだが。
「今回の討伐は俺達『守り人』が務めさせてもらうことになった。皆、よろしくたのむ」
そう言うと夢に出てきた騎士風の男冒険者と魔法使い風の女冒険者、そして夢には出てきていなかったが法衣を着た神官風の男性とバンダナを頭に巻いた女性がいた。
騎士の恰好をした男性が前に出て口を開く。
どうやらあの人が今回の全体のリーダーのようだ。
「他にも有名どころやそうでない者等様々な冒険者がいて話したいことは色々あるが……それは後にしよう。叶うならギルマスにおごってもらいその金で飲みながら話したい」
すると場が笑いに満ちた。
如何にも堅物な男性だが、おちゃめなところがあるようだ。
おかげで緊張した空気が一変する。
「任務は簡単、ゴブリンの群れの討伐……とはいかない」
「どういうことで」
話を聞いていた冒険者の一人が声を上げた。
皆も同じように感じたのだろう、一斉にリーダーの方へ向いた。
「まずこの依頼のゴブリンだが最低でも二桁は確認されている」
「と、言うことは最悪三桁は覚悟しないといけないということだ」
隣にいたバンダナの女が補足した。
三桁……この人数で大丈夫なのか?
「単なる群れならいいんだが、村を作っている場合は厄介だ」
「その殲滅も必要になってきます」
「なので長期戦を覚悟し、こうして補給係をつけたというわけだ」
そう言い俺達の方を向いた。
総勢三十人の中で補給係は九人ほど。
つまり戦えるのは二十一人ということになる。
「これから村を形成している場合のシナリオも考えての作戦を伝える。まず……」
その言葉を皮切りに今回の作戦が伝えられた。
★
東の林入り口手前。
まず拠点を二つ作ることになった。
それは東の林でも城門に近いところとゴブリンの群れが確認された場所より少し浅いところである。
「俺達はこっちだな」
そう言うのはさっき励ましてくれていた冒険者だ。彼——ディルバートと共に俺は群れが発見された方に配置された。
俺は見事にケイロンと別れてしまった。不安そうな俺の顔を見て大丈夫と言っていたが、本当に大丈夫だろうか?
「痛み止め、魔力回復薬、食料……こんなところでしょうか? 」
「おう、そうだな。もっともこれらは必要にならないだろうが」
そう自信気に言う。
その自信は一体どこから来るのか教えて欲しい。
「『守り人』がリーダーなら、最悪村があっても大丈夫だろう」
「そんなに強いんですか? 」
「坊主、知らねぇのか? 『守り人』を」
俺は手に持つ物資を拠点の定位置に置きそちらを見ると驚いた顔をしていた。
「俺は冒険者になって間もないので」
「……そうか。なら知らなくて当然だな。まぁ実力で言えば、他のCランク冒険者と大差ねぇ」
「え? そうなんですか? 」
「まぁ焦んな。その実力が発揮されるのはこういった大規模作戦の時だ。実力はランク相当だが集団を指揮し、堅実な依頼達成をする。これが『守り人』の強さで、名前の由来だ。あれはキャラバンの護衛の時だった……」
ディルバートは一人語り出してしまった。
これは戻ってこないな。
どうしたものか、まだ頭痛は続く。
物資の輸送だけなら問題はないと思うのだが、どうも嫌な感じがぬぐえない。
しかも皆なにも感じていないようだ。普通に過ごしている。
「今回の依頼、どうやら行政の方から来たらしいぞ? 」
「え? そうなのか? 」
ディルバートが一人語っている中、他の補給係の冒険者が話していた。
ディルバートの話を聞いているように見せかけて、耳だけそっちに向ける。
「なんでも行商人を護衛してた冒険者がよ、ゴブリンの群れを見たのが発端らしいぜ」
「へぇ、良く生き残れたな。その冒険者」
「あぁ運が良かったとしかいえね。でだ、本当ならそこで冒険者ギルドが討伐依頼を発注して終わりなんだがよ。まだ先があったんだ」
「それが今回の依頼、というわけか」
そうだ、と言い深く頷いていた。
ディルバートはまだ独り言を言っている。
表情がどこか光悦としてきていた。
何か気持ち悪い……。
「行商人がよ、商業ギルドに寄っていた時に役所のお偉いさんがいたらしくよ。行商人の報告を聞いちまったらしい」
「それで? 」
「でだ。事の重大性を鑑みたお偉いさんは、冒険者ギルドの動ける冒険者に依頼を出したってわけだ」
「それで俺達は駆り出されてるのか……」
その話を聞き、頭を悩ました。
今回の依頼は受付嬢の暴走だけかと思ったがそうではないようだ。
しかしといって彼女の不快な行動が正当化されるわけではない。
Fランク冒険者に指名依頼等出来ず、それに許可なしに受付済みと出来るわけがないのだから。
「でもなんでそこまで大袈裟なんだ? 町の役所は? 」
「馬鹿野郎、そんなことも分からないのか! この町は商人の通過点として成り立っているだろうが。ゴブリンのせいで商人が遠のいちまったらどうすうる! 」
「わ、悪かったよ。そう怒るな。要はこの町に来る商人が減ったら町として困るってことだろ? 」
「わかりゃぁいいんだ。わかりゃぁ」
「おい、もうそろそろ作戦開始だ。ないとは思うが撃ち漏らした場合は対処しろよ」
討伐隊の一人がそう言い残し、先へ行ってしまった。
★
補給係、城門側。
一応の斥候役として一人、林の方へ向かっている。
他は荷物の管理と指示待ちだ。
「全くデリクは心配性だな」
はぁと溜息をつきながらも内心嬉しい自分がいる。
困ったものだね。どうしよう。
そう思いつつ、残りの三人がいる方向を向く。
すると何やら話していた。
「今回は、うめぇ話だな」
「確かに。ゴブリンの補給係担当で銀貨三枚。最高だ」
「拘束される時間を考えると、若干少ない気もするが、まぁリスクをとってない分こんなもんだろう」
その口ぶりからすると護衛依頼はそれなりに高額なのだろう。
しかしそれを引いてもいい依頼ということだ。
まぁだからと言って勝手に引き受けたあの受付嬢が許せるわけではないけど。
全員が荷物の確認などしながらゆったりとしていると、林の方から斥候の冒険者が悲鳴のような声を出して走ってくる。
「た、大変だぁー! 」
「どうした! 」
「ゴブリンだ! ゴブリンが出たぞ!!! 」
その一言に補給係は凍り付いた。
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