第三百四十八話 冒険者ギルド 王都本部
「ここが王都本部? 」
「ええ。そうですわ」
「良く知ってたね」
「時折王城をだっしゅ……いえ町の様子を見ていたのでそれで」
今脱出って言わなかったか?!
少し気まずそうにするリンを横目に再度建物を見る。
剣と盾の看板があるのは同じようだ。
ここまで来てよく分かったがビストの王都はカルボ王国のそれとは違いかなり広い。
なので建物と建物の間隔が広く、また移動するのに時間がいる。
この国の建物も煉瓦が普通なようだが、時々木製のものも見える。
そして冒険者ギルドの建物なのだが。
「木製だ」
「カルボ王国とは違うね」
「国々によって違う、ということですね。どうして木製なのか気になる所ではありますが」
「気にしていても仕方ありませんよ。さ、行きましょう」
リンが橙色のドレスアーマー『獅子王のマント』を靡かせ、簡素な造りをしている冒険者ギルド本部へ足を踏み入れた。
「中は人がいっぱいだね」
「多様な獣人族がいますね」
「お、デリク。あっちを見ろ。見たことのない獣人族だ」
「あれは豚獣人ですね」
「あの大きなのは見たことないの」
「あら、象獣人ですね。珍しい」
エルベルとエリシャが見たことのない獣人族に少々興奮気味だ。
確かに見たことがない獣人族達だが、指さすな。失礼だろ。恥ずかしい。
「ほら依頼を受けに行こう」
「あ、ちょっと待って」
「エルベルさん、エリシャさん。行きますわよ」
「コラ、駄乳エルフ。行くぞ」
「もう少し」
「我が真眼で見極める時間をぉ」
縋りつく二人を引っ張り恥ずかしい思いをしながら俺達は依頼ボードの元へと足を向けた。
「ちょっと待ちな。兄ちゃん」
「依頼ボードはどこだ? 」
「あの大きな木の板ではないでしょうか」
「お、あれか」
「早速行こう」
「おい、兄ちゃん」
「どんな依頼があるのか楽しみだな」
「お前、切り替え速いな」
「おいコラ、無視してんじゃねぇ!!! 」
誰かの大きな叫び声が轟いた。
驚きビクッとしてキョロキョロと周りを見ると豚獣人の男がこちらを見て息を切らしている。
奴が大声を上げたのか。迷惑な。
「おい、お前だよ、お前」
右に左に、見る。
誰のことだろうか。
俺の周りに男の冒険者は多い。せめて名前を呼んでくれないとわからない。
「そこの人族だよ! 何自分じゃないって顔してんだ! 」
「え、俺?! 」
「むしろお前以外に誰がいる! 」
「周りに沢山」
そう言うとさーっと周りにいた男冒険者達は離れていった。
言われてから離れるな。分かりずらい。
「で、どうしたんだ? 」
「おめぇがつえぇのはよくわかる。だがそいつらは止めときな」
「??? 」
「強ぇ男ってのは……連れている女の数だ」
そう言うと豚獣人の周りにふくよかな女性達が集まり両手を肩に乗せる。
そうなのか? と、リンの方を見て確認したが「獣王国ではそれが一般的です。まぁ例外もたくさんいますが」と答えた。
ま、マジか。
獣王国ではこれが当たり前なのか?!
何かしら注意をするということはもしかしてこの人、いい人?
「だが趣味がなってねぇ」
「趣味??? 」
「そんなガリガリのブスを多く引き連れたらお前ぇの男の価値が下がるってもんだ。俺がいい女紹介してやるか――」
そう言いかけた瞬間空気が――凍った。
周囲の獣人族達は体を震わせ、さぶイボを出している。
……。これはまずい。
死人が出る。
恐る恐る女性陣の方を見るとそこにはオーガをも超える憤怒の形相を浮かべた美女達が。
「へぇ。僕達がブスに見えるんだ」
「獣王国の豚獣人の方は種族によって価値観が違うということを知らないようですね」
「今のは流石のオレでもイラっと来たぞ」
「妾も初めてブスと言われたのじゃ」
「不敬罪でちょん切ります」
その怒気に当てられたのか冷や汗を流しながらたじろぐ豚獣人。
恐らく同じ豚獣人なのだろうふくよかな人達が怖さゆえか寒さゆえか男の方に身を寄せる。
暑そうだ。
「撤回すべきだね」
「撤回し、頭を垂れて、許しを乞いなさい。さすればまだ命はありますよ? 」
ケイロンとセレスが怒気を孕んだまま少し前に出る。
しかし彼は自分の価値観を捨てれないようだ。
「て、撤回なんてしねぇ。もし撤回させたけりゃ決闘でけりつけてやるよ! 」
な、なんて無謀な。
苛烈さ、で言ったら我がパーティーで上位に入り込むセレスに決闘を挑むとは。
なんたる勇者。
無知とはここまで人を勇敢にさせるのかっ!
「いいでしょう。その決闘。受けて立ちます」
やる気満々なセレスを見ながらも、俺は耳をペタンとしてしまっている受付の兎獣人の女性に声をかけ「大丈夫なんですか、これ? 」と聞くと震える声で「日常茶飯事ですから」と答えが返ってきた。
なるほど。
この国は思っていたように荒っぽいらしい。
★
冒険者ギルドに設備された訓練場。
そこには大きな体とお腹をした豚獣人と青いローブを羽織るすらりとした水龍人が向き合っていた。
豚獣人は体を――恐らくオーダーメイドであろう――プレートアーマーで覆っており如何にも臨戦状態。
が、セレスはそれを馬鹿にするかのような格好。
明らかに豚獣人の勘気に触れていた。
「……どこまでもバカにしやがって」
「先に馬鹿にしたのはそちらでしょ? 」
「ちっ! さぁ始めてくれ」
豚獣人が審判らしき人物の方を向き開始を促す。
審判役の兎獣人もその豚獣人に気圧されてか口早にルールを説明した。
「勝負は簡単です。戦闘不能になったら負け。いいですか? 」
「おう」
「はい」
二人の返事を聞いて、頷く。
そして開始の合図を。
「始め! 」
「瞬動! 」
お、早い。
思ったよりもあの豚獣人速い。あの重量で良く動けるな。
だが……。
「棍豪旋風!!! 」
「フン!!! 」「ガッ!!! 」
セレスに瞬動で近づき棍棒を振り回し武技で攻撃。
遠心力を伴ったその一撃がセレスを襲おうとした瞬間少しだけ体をずらして鉄の兜ごと――豚獣人を殴りつけた。
龍人族の皮膚は人族等に比べてかなり硬い。その硬さ以上のものを殴れば痛みは伝わるらしいのだが鉄程度ではその硬度を上回れない。
もうこの瞬間に勝敗は決したようなものなのだが……。
「あらあら、兜で戦闘不能か分かりませんわ。いきなり女性を襲ってくる殿方ですもの。負けたふりをしかねませんね」
と、言い少し移動して鉄で覆われた腹を何回も殴っている。
ゴン! ゴン! ゴン!
と、音はするがそれ以上に陥没し、割れていく地面が怖い。
少し周りで観戦していた獣人達を見るとそのパンチの破壊力に引いていた。
あの拳が自分に迫ってきたらと思うとそうなるよな。
俺も彼女を怒らせないようにしよう。
震えながら陥没していく地面を見ているとその異常事態に気が付いたのか兎獣人の審判が止めに入る。
「え? まだ戦闘不能か分かりませんよね? 」
「そ、それは……いえ、戦闘不能! 戦闘不能と認定します! 」
「……魔法で切って差し上げようかと思ったのですが」
「「「ひぃ!!! 」」」
こわっ!
何てこというんだ!
「今さっきの振動は何だ! 犀獣人がまた突進でもしたのか?! 」
「「「ギルマス!!! 」」」
声がする方を見るとそこには一人の獅子獣人がいた。
ギルマスの登場である。
ここまで如何だったでしょうか?
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