第三百二十一話 魔境 二 三日目 黒き流星の来訪
「結局あれ何だったんだろうね? 」
「体に異常はありませんか? 」
「今の所は」
魔境から帰ってきた俺達は駐屯地の屋敷で休憩を取っていた。
メンバー全員が心配する中、ケイロンやセレスが俺の体をぺたぺた触り異変がないか確認している。
ケイロンは純粋に心配してくれているようだがセレスはどこか怪しい瞳をしていた。
何だろう。物凄く恐怖を感じる。
それを見て他の皆は苦笑いしているがスミナがついに口を開いた。
「にしても何だったんだ? 」
「恐らくじゃが、魔境を潰しに来たんじゃいないかの」
「ああ……。精霊王達の管理が行き届かない所、な」
「ならなんで小精霊はいたんだ? 」
「トッキーは「管理が行き届かない魔境でも稀に」って言ってたからそれじゃない? 」
『その通りです』
「「「ぎゃぁぁぁ!!! 」」」
スミナ達が話していると天馬の声がした。
そして皆が俺を見て叫び声を上げながらすぐに離れて俺の方を指さした。
俺が何だってんだ。
指の方向、俺の腹の方を仕方なく見ると――
そこにはくりッとした瞳の天馬の顔が。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!! 」
『叫び声をあげるとは、少し失礼ではありませんか? 』
「いやいやいや、なんで俺の腹から顔だけ出してるんだよ! 」
『いえ、私を呼ぶ声がしたような気がしたので』
「呼んでねぇよ! 怖いわ! それよりもこの状態めっちゃ怖いわ!!! 」
『いいじゃないですか。お腹から馬の顔。ププ、他の人が見たらさぞ怖がるでしょうね』
「確信犯か! この天馬! 」
なんて恐ろしい事か!
今日のこれで神獣のいたずらほど厄介なものはないと確信した。
『さて、あの場所ですが』
「いやこのまま喋るのかよ! 」
『ええ。何というか、貴方の中はポカポカして温かいのです。もうこのまま寝てもいいかな、と思うくらいに』
「せめて顔を引っ込ませて?! もしくは見えないようにして! 」
『そんな面白くない事私がやるはずないじゃないですか』
「質悪!! それに俺達今日あったばかりだよな! なぁ! なんでこんなに親しげなんだよ! 」
『神獣、故に』
「答えになってねぇぇぇ!!! 」
「デリク、何か楽しそうだね」
「おいこら、ちょっと待て。これのどこが楽しそうに見える? 」
「楽しそうですよ。ええ。長年付き添った夫婦のように」
「その目は節穴かセレス。どう見ても俺は被害者だろ」
「リンは……心が広いので。しかし放っておかれると嫉妬して爪が飛んでいくかもしれません」
「こわっ! やめて、それ冗談にならない! リンの爪、俺の硬化の魔法じゃ絶対に防げない! 」
『その辺にしてあげてくれませんか。彼も反省しているようですし』
「お前が原因だろうがぁぁ! 」
『それにこれからお世話になります故、よしなに』
「俺は許可だしてねぇ! 」
『貴方の中にいる者に了解を得ました』
「なにやってくれてんだあの精霊は! 」
『面白そうなので是非、とのこと』
「あいつもそっち側だったか!!! 」
はぁはぁはぁ……。
やり切ったような表情を浮かべる腹の天馬を見下ろす俺。
もはや怒りも出てこない。
そう言えばあの精霊も俺の中にいたんだったな。
変な精霊に神獣に……。なんで変態ばかりが集まるんだっ!
『コホン。先ほどのお話なのですがあの地で小精霊を確認することが出来ました。恐らく他の魔境と呼ばれる所と比べて比較的若いのでしょう』
「若い? 」
『ええ。魔境のような場所は――突発的な変化が訪れない限り――時間の経過と共に精霊や小精霊を減らしていきます』
「そ、それは何ででしょう? 」
『簡単なことです。元よりモンスターと精霊、もっと言うならば創造神クレア―テに創られた存在とは相いれないからです。モンスターがいることに不快さを感じて移動し快適な場所に行きたがるのは人も同じでは? 』
そう言われば確かにそうだ。
わざわざ住みにくい場所に率先して住むような変人は……いない事はないが少数派だ。
『しかしこの魔境ももう大丈夫でしょう』
「どういうことですか? 」
『昨晩大規模に浄化したので。後、数年から数百年もすれば自然と小精霊も集まり普通の森に戻るのでは? 』
規模!!!
いやおかしいだろ、規模!
屈強なモンスター入りびたる魔境を森に戻すほどの浄化って何!
そもそも魔境って正常に戻せるものなの?!
そして時間の幅!
人族換算で「明日できるよ」と言って「そして数百年が経った。あの時の約束は本当だったようだ」と他の種族が回帰碌を書くほどの幅!
流石神獣。
時間感覚がおかしい。
『どうしました? 頭を抱えて』
俺の腹からくるりと反転しその瞳を俺に向けてきた。
「……。いややってくれたことは嬉しんだが実感がわかなくて」
『仕方ありません。後は自然の、精霊の摂理に任せるだけ。気長に待ちましょう』
「この森が元に戻るまで俺が生きているとは限らないがな」
そう話していると扉からノックの音が聞こえてくる。
だれだろう。
「種族の輪の皆さん。お客人が来ておりますが少々よろしいでしょうか? 」
「あ、大丈夫です」
そう言いながら俺は席を立ち迎える準備を。
誰が来るかわからないがもしかしたら男爵か、その部下が様子見に来たのかもしれない。
ガタ、と音がする。
俺の後ろで他のメンバーも席を立ったようだ。
「失礼し……ま……」
「お久し……ぶり……」
……。
「「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!! 」」
そうだった。
天馬が俺の腹にいた状態だったんだ。
★
「幻術ですか」
「ええ。少し時間を持て余したので練習を」
天馬を引っ込めた俺は叫び声をあげる二人を落ちつかせた。
しかしどう説明しようかと考えていたら、そこにセレスが救世主の如く現れ幻術の練習をしていたと誤魔化した。
だが引っ込む時の天馬のあの満悦な表情。
俺は決して忘れない。
奴は今回もわざと引っ込まずに顔だけ出していたことを。
今俺達の前にいるのは駐屯所の騎士長とホルスさんだった。
何でも二人は知り合いとの事。
「まさかセグ卿とホルスが知り合いだったとは」
「わしも話の人物がアンデリック殿とは思いませんでしたわい」
ここにいる全員が間接的に知り合いだったとは。
やはり世間は狭い、ということか。
「で、ホルスさんは何故ここに? 」
「わしは時折魔境から溢れるモンスターを買い取って売っているのです」
「もし今日も帰って来ることがあれば……。そろそろ袋が一杯なんじゃないか、と思いまして」
「丁度良かったです。もうそろそろ領都へ戻ってホルスさんに連絡をとろうかと思っていたので。しかし……バジルにいたのでは? 」
「ホルスは『黒き流星』と呼ばれる程に超速で移動します。幾ら老いたとはいえ馬車で三日ほどの距離なら一日で来れるでしょう」
「……あまりその二つ名を言われたくないのですが」
黒き流星?! なにそのかっこいい二つ名!
少し談笑をした後、俺達はホルスさんに引き取ってもらいたい素材を渡した。
全ては買い取れないと言われてしまったので残りは後で商業ギルドか、少量を冒険者ギルドに流すことに。
そして俺達はその日は休み治療の為に領都ドラグへと馬車を走らせたのであった。
ここまで如何だったでしょうか?
面白かった、続きが気になるなど少しでも思って頂けたら、是非ブックマークへの登録や広告下にある★評価をぽちっとよろしくお願いします。




