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種族の輪 《サークル》 ~精霊術師は今日も巻き込まれる~  作者: 蒼田
第一章 安全マージンをとる冒険者
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ケイロンの休日 三

 深夜(しんや)、貴族街屋敷(やしき)一室(いっしつ)にて。


 僕は()ってきたメイドや執事達と一緒に一室(いっしつ)()りて、この屋敷(やしき)を管理している使用人達と会っていた。

 この町に来たのはこれで二回目。僕が小さな(ころ)だ。


(あらた)めて、お(ひさ)しぶり」

「「「お(ひさ)しぶりです、お嬢様」」」


 右手を上げフランクに笑顔で挨拶(あいさつ)すると彼女達は一斉(いっせい)に返事する。

 本当は顔とか(おぼ)えていないのだけど、形式(けいしき)というのは必要だろう。

 一応この町にいる家の者は僕だけだ。代表して(ねぎら)う必要がある。


(みんな)がこの家を管理してくれているおかげで、綺麗(きれい)に保たれたままだ。ありがとう」

「そ、そんな恐れ多い……」

「お言葉を(いただ)けるだけでありがたいです」


 お礼の言葉を述べると、感極(かんきわ)まった感じで使用人達はいう。

 そこまで感動されても、ね。


 周りを見渡す。今は魔道具を使って部屋全体を明るくしている状態だ。

 その明るさは日中を思わせる(ほど)。広さはかなり広く急遽(きゅうきょ)用意されたであろう机とソファーが中央(ちゅうおう)設置(せっち)されていた。

 外から見たらさぞパーティーでもやっているようにみえるだろう。


「なんかごめんね。急に押しかけて」

「いえいえ、滅相(めっそう)もございません」

「この屋敷(やしき)はお嬢様方の屋敷(やしき)でございます」

「いついかなる時来ていただいても大丈夫でございますゆえ」


 謙遜(けんそん)している使用人達を見て「そこは胸を張っていいんだよ」と言いたい。だがそれを言ってしまうと堂々(どうどう)(めぐ)りになるからやめておこう。


 しかし本当に綺麗(きれい)に掃除が行き渡っているな、と感心(かんしん)した。

 見る限り、不備(ふび)がない。

 あまり(おとず)れない屋敷(やしき)をここまで管理するのは大変である。彼女達の勤勉(きんべん)さが良くわかる部屋であった。


 とりあえずソファーに座るように(うなが)され、そのまま座る。

 (ひさ)しぶりの感触(かんしょく)だ。

 銀狼の部屋もいいけど、やはり(しつ)が違う。


 座ると準備していたのかワゴンで紅茶を持ってきて、(そそ)ぐ。

 飲み物で(のど)(うるお)し、気になっていたことを聞いてみることに。


(ちな)みに……だけどさ。僕がいるの、気づいてた? 」


 恐る恐るである。

 変装(へんそう)に自身はあった。だけど、本家の人にすぐにばれてしまった。

 もしかして分かりやすかったのだろうか?


「……非常に申し上げにくいのですが……」

「ん? 良いよ、言ってみて。今後の参考(さんこう)にするから、さ」


 主に逃げる時のね。

 そして()(けっ)したかのように黒と白のメイド服の女性が言った。


「買い物をする為に市場へ向かう途中……」

「お姿を拝見(はいけん)することがあり」

「「「すぐに分かりました」」」


「え??? すぐに? 」


「はい。正直お声をかけた方がいいのか分からず、困っておりました」

「そこに本家の方々がやってこられて少し様子を見ようということになりまして」

「こうしてご挨拶(あいさつ)が遅れた次第(しだい)でございます」

「「「申し訳ありませんでした」」」


 深々(ふかぶか)と頭を下げる使用人達だが、僕はすぐにばれていたことに吃驚(びっくり)してそれどころじゃない。

 そもそも二回しか会ってないのになんで姿が分かるの? 僕ってそんなに成長してない?!

 不自然だよね?!


「……確認だけど、僕達数回しかあったことないよね?」

「はい、その通りでございます」

「しかし旦那様や奥様、そして御兄弟の方々(かたがた)が来る(たび)容姿(ようし)や何があったか(など)詳細(しょうさい)にお話になられていたので……」

一目(ひとめ)でわかりました」


 それを聞き、がくりと落ち込んだ。

 よし、後で会ったら()めよう。


「結構自信があったんだけどなぁ」


 そう言いながら、服を見る。

 青いブレザーに黒いロングパンツ、そして白いシャツ。

 ん~、大丈夫だと思ったんだけどダメだったか。

 しかし僕の言葉が意外だったのか本家のメイドが口を開き、指摘(してき)する。


「え? お嬢様、その服装で身分を(かく)しているつもりですか? 」

「どう見ても、旅人でしょう! 」


 メイドの言葉に食いつく。

 ほらほらほら! とアピールするもメイドは(あき)れた視線(しせん)を送ってくる。

 どこからどう見ても旅人だと思うんだけど!


「ほら! 学校の時の服とは違うし、派手じゃないし! 」

「……どう見てもお(しの)び貴族ですよ? ご自身は(かく)しているとお思いでしょうが、全く(かく)せておりません」

「えぇぇ!!! そんなぁ……」


 (いそ)いで()てきたから流石(さすが)に『完全に』とは思ってなかったけど、そこまでなの!


「そのような(ひん)の良い旅人はいませんよ。むしろ良くここまでご無事で。私は、私は……とても不安でした……自分の()が」

「せめて僕の()(あん)じて?! 」

「自分の()(あん)じることがお嬢様の安全に(つな)がるので、間違ってはおりません」


 きっぱりと言うメイドに苦笑いする。

 はっきりと言うなぁ……。

 まぁ僕が小さいころからだけど。


「ん? と、言うことはデリクは僕の事ただの旅人じゃないと知ってるのかな? 」

「知っているでしょう。知らない方がおかしいです。貴族令嬢(れいじょう)、もしくは豪商(ごうしょう)(むすめ)(あた)りと考えているのでは? 」

「へぇ……なら、知ってて言わないでくれるんだ。(やさ)しぃ」


 その一言で全員が(いろ)めき立つ。

 深夜の屋敷(やしき)に声が(ひび)く。


「お嬢様に春がっ!!! あの男(まさ)りなお嬢様に春がっ!!! 」

「身分を()えた愛ですわ!!! 」

「面白くなってきました! あの時隣にいた男の子ですね! 」

「相手は自称(じしょう)婚約者のキ……伯爵令息(れいそく)ですよ! きましたわぁ!!! 」

「何みんな、勝手に()り上がってるの! 違うから! デリクと僕はそんな関係じゃないから! 」


 否定するも、更に()り上がっている。

 彼の事そんな目で見ていないから!

 と、いうよりも一人とても失礼なこと言ってたよね?!


「お嬢様、嘘はいけませんよ。嘘は」

「身分を(かく)し、恋する令嬢(れいじょう)! これほど()り上がるものはありませんわ! 」

「この前買った本の通りです! (いばら)の道の(さき)(みの)る恋があるのですね! 」

「だから違うって!!! 」


 否定していると、後ろから肩を(つか)まれた。

 振り向くとそこにはメイドが一人、真面目な顔をしてこちらを見つめていた。


「お嬢様の結婚条件はお相手が貴族であること、と旦那様に認められることでございます」

「ちょっ! なに言って!」

「私——メリッサは応援しております故……」


 副メイド長メリッサの言葉を否定しながらも、夜はふけていく。

 僕はこれから彼女達の前で余計(よけい)なことを言わないでおこうと心に決め、宿屋『銀狼』へ戻るのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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新しく始めた異世界転生ものになります!
ハズレ枠の転生貧乏貴族は武姫を継承し最強へ至る
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