第三百十六話 魔境 二 一日目 三 vs トレント
「極撃! 」
「森よ! 」
「光剣! 」
「爪斬! 」
俺達は周りから迫ってくるハイ・トレントの群れをそれぞれ対処していた。
その奥にいるエルダー・トレントは一旦放置だ。
今の所何かするような気配はない。
「硬いのぉ」
「——」
「多重氷槍」
それぞれ伸びてくる枝を回避し剣撃にクローによる爪撃打撃に魔法で攻撃する。
しかし厄介なことに、ものすごく硬い。
恐らく物理攻撃に耐性があるのだろう。
「こっちも硬いですね」
魔法攻撃にも耐性があるようだ。
相手が必要以上の俺達に近寄らないようにエルベルとセレスが奥側のハイ・トレントを狙い潰している。
一回一回がとても強力な一撃なはずが一回や二回では倒れない。
三回目でやっと倒れる程だ。
タフだな。
枝を高速で切り落としながら近寄り魔核を一撃。
「まだいるな」
「これでどうじゃ」
エリシャが爪を最大限伸ばして横薙ぎ一閃。
攻撃範囲にいたトレントが一瞬にして薙倒された。
「少し休むからの。頼むのじゃ」
「「「了解」」」
あの攻撃は体力をかなり使うらしい。
それを前に教えてもらった。
武技による範囲攻撃のようなもので疲れるからあまり使いたくないとの事。
エリシャは爪を元に戻して背中合わせ状態になっている俺達の中央に移動した。
「獣王爪覇! 」
リンが斜めにクローで切り裂き追加で一体ハイ・トレントが倒れる。
後一体!
「ケイロン! 」
「おーけー! 」
俺は巨大なハイ・トレントの横に滑走すると、ケイロンも反対側に移動したのを確認した。
その間、巨大な枝が俺達を串刺しにしようと伸びてくるが難無く回避。
走り込んだ勢いのまま剣に武技を乗せて――
「「斬撃!! 」」
その巨木を両側面から切り倒した。
全てのハイ・トレント達を倒し切ったことを確認し、正面を見る。
そこには人面木面を浮かびあげたエルダー・トレントが。
「セレス。エルダー・トレントの能力ってわかる? 」
「通常ならば対魔、対物耐性と配下のモンスターの強化、硬化系の武技と枝による刺突攻撃や殴打攻撃のはずですが」
「……魔境だからそれがすべてじゃないかもってことね」
「ええ。悔しいですが」
セレスが顔をしかめて魔導書を構えているのを確認。
俺も剣を構えなおし前を見る。
エルダー・トレントは不敵な笑みを浮かべたままだ。
感情があり表情が変わるのかはわからないが。
「ま、やることは変わらないな」
「まずは任せよ。影槍」
エリシャが一撃放つがそれをいともたやすく出した巨大な根で防ぎきる。
しかしその間に影移動を使いトレントの後ろに。
「むっ! 」
その小さな体からは考えられないような重い蹴りがトレントを襲った。
ボゴン! と音はするものの倒れはしない。
「防がれたか」
よくよく見ると奴は枝を何重にも重ねてエリシャの蹴りを防いでいた。
防がれた瞬間エリシャは影移動を使って戻ってくる。
枝によるカウンターがされそうになったようで、彼女が元いた場所には枝が空を切っていた。
「厄介よの。普通のモンスターなら最初の一撃で、強くても二撃目で倒せるのじゃが」
「流石は魔境の生存競争に勝っているエルダー・トレントと言うわけだな」
それに全員が頷く。
が、先ほどの攻撃でわかったことがある。
「二撃目は防いだ。しかも何重にも枝を重ねて。ならばさっきのダメージ量を本体に与えれば無事ではない、ということか」
「ならば」
「攻撃あるのみ、ですね、まずは行動を防ぎましょう。魔法保存解放・冥界監獄、体温保存」
すかさずセレスが魔法を発動した。
エルダー・トレントを黒い魔法陣に青い文字や絵、数字が浮かぶ巨大な魔法陣が覆う。
少し困惑したエルダー・トレントの表情が魔法陣が弾けた瞬間絶望に代わった。
魔法陣があった場所から闇よりも黒い石柱がいくつも建ち並び奴を囲む。
そして青い鎖がそこから伸びて、絡みつく。
同時に――魔法の効果だろうか、エルダー・トレントの体がどんどん小さくなり普通のトレントくらいの大きさになった。
「冥界監獄の効果の一つ、弱体化です」
「……単なる弱体化ではああはならんだろう」
「ええ。魔法を封じ、魔力、体力、気力等様々なものを減衰させます。あの様子だとエルダー・トレント、いえトレントというモンスターは魔力等によりその大きさが保たれているのですね」
セレスの声を聞きながら剣を構えなおす。
そして魔法も切れ石柱や鎖が無くなったところには通常のトレントくらいの大きさのエルダー・トレントしかいなかった。
「畳みかけるぞ! 」
こうして一方的な展開を繰り広げながら対エルダー・トレント戦は終わった。
★
「帰りが遅くなり心配しておりましたが、ご無事で何よりです」
表情を変えずに言うここの地を任されている防衛長。
感情を読み取れないためか全く心配していた感じがしない。
こちらも表情を変えずに「遅くなっただけなので」と答えた。
「して依頼の方は達成できましたでしょうか? 」
表情はかえないが少し声のトーンが変わった気がした。
もしかして俺達の依頼の方じゃなくてモンスターの素材の方が気になるのか?
「まだですね。何回にも分けて地図作成をしながら進もうかと思います」
「なるほど。私もそれがよろしいかと。あの森は魔境。何がいるか、分かりません。どこに何があるかもほぼ分かっていません。帰って来ることが一番だと思います」
では、と言いながら彼は部屋を出て行った。
「何か嫌な感じの魔族だな」
「まぁ確かにな」
スミナがそう言い、俺は簡易ベットに横たわる。
「ま、実害が無ければいいんじゃないか? 」
「そうだな」
「素材に興味がありそうだったし……商人呼んで先に売っちゃう? 」
「ここには流石に呼べないだろ。精々近くの町に行って売り渡すくらいだ」
「ギルドは……無理でしょうね。財源が」
「そうだな。アンは誰か良い商人知らないか? 」
「残念ながら新人貴族は商人の知り合いなどいません! スミナ隊長! 」
「ハハハ! 隊長って」
スミナを隊長呼ばわりしたら全員が笑う。
そこでリンが何か思いついたのかこちらを向いた。
「商業ギルドはどうでしょうか? 」
「あり、だな」
「もしくはベルト商会かな」
「近くの町にあったか? 」
「両方ともあるとは思うけど」
「それよりもどのくらい袋に詰めれるか、だな。いくら時間経過しないと言っても限界があるぞ? 」
「いっぱいになったら放出するくらいで良いんじゃないか? 結局俺達の依頼は薬草採取なんだし」
「そうだな。それに奥地に行くとはいえ攻略する必要はない」
「よし。方針が決まったところで休むか」
そう締めくくり明日に向けて休憩をとった。
ここまで如何だったでしょうか?
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