第三百十二話 何でも屋 《ルール・ブレーカー》の終わり
「俺達は強い、俺達は強い、俺達は強い、俺達は強い……」
「お、おい……。大丈夫か? 」
「俺達は強い、俺達は強い、俺達は強い、俺達は強い……」
アンデリック達が魔境へ向かっている頃、ドラグ伯爵領領都ドラグでは犯罪組織襲撃のために幾つかの騎士団が集められていた。
彼らの実力は冒険者ランクにしたら平均B。王国内でも上位に入る精鋭で中には準Aに届く者もちらほらいる。
集合場所でいつもは横暴な態度をとる騎士団分隊が虚ろな目をして、「俺達は強い」と自己暗示を掛けていた。
大丈夫か、と思い声をかける勇気ある者もいたが「俺達は強い」としか返ってこない。
その様子を不気味に思い他の隊が距離を置いた。
そしてついに作戦決行の時が来た。
★
ここは何でも屋の拠点。
薄暗く不気味な雰囲気を出している。
いつもはそのような雰囲気でも明るいものもいるのだが、今日ばかりは全員表情を少し暗くしていた。
「連絡が取れないって、マジ? 」
「ああ。もしかしらた捕まったかもしれん」
一人の組員が聞くとそれ以上の答えが返ってきた。
一瞬驚くも、顔を戻す。
彼らにあるのは圧倒的な自信。
常闇の傭兵団が潰れ、彼らに依頼が殺到するようになった。
依頼達成率もほぼ九十パーセント以上。
何でも屋と名前がつくようにどのような依頼でもこなして見せている彼らなのだが、今回の一件はその名前に傷がつくかもしれない。
と言っても元より常闇の傭兵団より依頼達成率が低い組織。
最近ついた張りぼての達成率などあてにならない。
加えて彼らには領都ドラグに拠点を構えるが故の自信があった。
「ま、捕まった時の為に自白剤に耐性つけてるからね。大丈夫でしょ」
「ああ。まずもってこの拠点がバレることはない」
「拷問よりも自白剤のほうが怖いからね。先手を打っててよかったよ」
彼らは非合法で手に入れた自白剤を少量ずつ飲み徐々に耐性を付けることに成功していた。
即死、でなければ――用途は間違っているが――神聖魔法で回復できる。
異常状態も他の薬や組織に所属する神官のピンポイントな魔法で治すことが可能。
もし薬が手に入らなければ組織にいる薬師か錬金術師に作らせればいい。
この何でも屋は中規模組織である。
組織員も千人に近い。
領都ドラグのみならず様々な所に拠点を持つ組織でもあり幅も効く。
組織員は元々食べれなくなった薬師や錬金術師から始まった。
それが活動を――何世代にも渡って――することで武力もつけ、その地位を築いた歴史がある。
常闇の傭兵団を超強力な新興組織と位置付けるならば何でも屋は古参の堅実な組織と言ったところであろうか。
それもあってか受け継がれてきた技術というものがある。
この自白剤対策もそうであろう。
「でも……。大丈夫だとしても捕まるなんてどんな間抜けをしたんだろう? 」
「貴族の馬車を襲うだけの任務だったのにな」
「襲ったこと自体は成功だから……。ん~半分達成? 」
「殺せてないから失敗だろう」
「でも襲うことが依頼だったじゃない」
「ま、その為に奴隷を使ったわけだが」
彼らは元よりヌビルは切り捨てる予定で襲わせた。
村を襲わせ、報酬の旨味を味合わせ、危険な任務に乗り気にさせて、切り捨てる。
奴隷ならではの使い方であったが犯罪組織では普通のことであった。
「貴族が強かった、とかか? 」
「有り得るけど……」
「クライアントからの情報は? 」
「特に何もなかったね」
「まぁ普通だけどね」
「こっちで調べなかったのかよ」
「調べたら調べたで問題が出てくるじゃん。余計な詮索はするなって」
「確かに、な」
「それに今回は依頼主が貴族じゃなくて同じ業界人だよ? 探られたくない腹を探ってこっちが自滅したら意味ないじゃん」
彼らに依頼したのは同じ裏社会に生きる者。
それもかなり高位の人物だった。
依頼を受けた時は全員が緊張し、粗相をしたら潰されると思ったほどだ。
しかし成功報酬は高額。しかも依頼は単純。
何かあると思いつつも、探るのを諦めこうして淡々と依頼をこなした。
襲撃、という依頼であったがために相手の詳細や保有武力について調べたかったが断念。
そこからいらない情報まで出てきて依頼主を怒らせるようなことをすれば本当に消されかねないからだ。
指定されたのはタイミングのみ。
相手の――馬車の詳細も不明な中、断らなかったのは断った時のリスクが大きかったからで、本当は断りたかったのが彼らの本心だった。
よって使い捨ての人材を投入しそれに監視役をつけ完了報告をするだけだったのだがその報告が上がってこない。
報告が上がってこないということは捕まったか殺されたことを意味し、間接的に依頼達成を示唆するのだが彼を失ったのは組織の中でも痛かった。
なにせこれまで情報の伝達に大きく貢献してきた人物で替えの利かない者だったからである。
「考えても仕方ない。完了報告だけ――「お頭! 大変です! 」」
バン! といきなり扉が開いたかと思うと大声を上げながら組織員が入ってきた。
何事かと思うと同時にこんな場所で大声を出すなと言いそうになるが、報告の方が先と考え目線だけを送った。
「どうした」
「騎士です! 騎士達が俺達の拠点を強襲してます! 」
「何だと?! 」
「そんなバカな! 情報は洩れないはず! 」
「パニックにならないの! 一旦落ち着いて。武装して書類全部消して他の拠点に移動を――」
と、彼がそれを言う前に報告してきた組織が血飛沫を上げながら前のめりに倒れた。
「「「俺達は強い、俺達は強い、俺達は強い、俺達は強い……」」」
倒れた組織員の後ろから聞こえてくるのは呪詛のような自己暗示。
それにその場にいる全員の体に鳥肌が立った。
こいつらはヤバい、と。
「に、にげ――」
そう言おうとした瞬間首が宙を舞い血が吹き荒れる。
その見事な手際に少し呆けながらも我に返った者達は臨戦態勢をとった。
が――
「俺達は強い……」
虚ろな目をしながらそれぞれの首が飛んで行った。
こうしてドラグ伯爵領に存在した古参犯罪組織、何でも屋は終わりを告げる。
一度は栄華を極めようとした悪の組織は、たった一回の任務失敗と自惚れによって幕を閉じるのであった。
ここまで如何だったでしょうか?
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