第三百七話 種族の輪 《サークル》への依頼 四 準備
魔境探索権の公的文書を持ちだしたケイロンに物凄い勢いで循精大黄草調達を頼み込んだ男爵と夫人。
それを受け俺達は魔境へ行くことになった。
しかし俺達は冒険者業を優先することとなっている。これは完全に規約外。
と、言うことで半ば強引ではあるが冒険者ギルドへ直接依頼を出してそれを受注するという形をとることになった。
グレーゾーンギリギリだが、まぁいいか。
助けることのできる者を放置するのも後味が悪い。
そう自分に言い聞かせた。
『じゃ、薬の副作用を教えるわよ』
「副作用? 」
『そうよ。どんな薬でも副作用はあるでしょ? 』
確かにそうだが……。
ん? ちょっとまて。荒療治って言ってたよな?
『副作用は飲み始めると物凄くお腹が痛くなるの』
お腹を押さえて「うげー」という表情をするトッキー。
腹痛?
だが、それだけならまだましな方じゃ?
『そして完全に出し切った後に他の精霊か精霊術師が小精霊の使い方を教えるのよ』
「教える? 」
『そう。じゃないとまた同じことを繰り返してしまうでしょ? 勝手にまた小精霊を取り込んで暴走させるかもよ? 』
そうか。
だがこれのどこが荒療治なんだ?
『まずは腹痛ね。これが酷いの。後は小精霊の放出が治まったからと言って次の小精霊の取り込みまでの時間が短い事。これが上げられるわ』
「つまり……。お腹を壊しては精霊魔法の使い方を訓練して、お腹を壊しては精霊魔法の訓練を繰り返すってことか」
『そう言うこと』
と、クルリと一回転して再度こちらを見た。
話を聞く限りだとこうなる前に精霊が小精霊の使い方を教えるとの事だ。
今回は指南役がいないからこうなったと。
恐らくエルベルにはタウの森の精霊が、エリシャにはミルが教えたのだろう。
ん? なら俺は誰に教えてもらったんだ?
トッキーに言われるがままに使っていたが、そもそもあの子息のような症状を出した覚えがない。
ということはそれまでに他の精霊に小精霊の使い方を教わっているはずなんだが覚えがない。
ズキン。
頭が痛む。
まさかあのヘンテコ精霊が教えたのか?
だが……。あの精霊、見覚えが無いぞ。
一体誰がどうやって。
そもそも俺は何で一時の記憶を失っている?
「あ、あの……。大丈夫でしょうか? 」
俺を気にする声がする。
顔を上げるとそこにはパセリ男爵夫人が心配そうに見つめていた。
「え、ああ。大丈夫ですよ。少し考え事をしていただけです」
「そうですか。それならよかった」
「では、先ほど時の精霊から聞いた副作用とするべきことをお伝えしますね」
そこにいる者全員にさっきのことを伝えて納得してもらう。
どの道このままだと衰弱死する可能性がある。
助けると決めた以上は理解してもらわないとな、と思いながらも説明は終わり俺達は一時解散し準備に取り掛かった。
★
「よかったのか? 受けて」
「ん? 大丈夫だろう。俺達の身分は――」
「そうじゃなくて魔境だよ」
必要なものはギルド長同伴の元、告げることになっている。
準備にかかる経費や食料、馬車は向こうで揃えてくれるらしいので俺達は実質武器やマジックアイテムのような物の確認だけとなった。
それぞれ確認作業を終えた俺達は明日に向けて話し合いをする為に広間に集まったのだがスミナが真っ先にそう言った。
「魔境。幾らワタシ達が功績を上げたと言っても見知らぬ地だ。しかも屈強なモンスターが動き回るっていうあの魔境。もっと慎重に情報収集してからでも遅くはなかったんじゃないか? 」
確かにそうだ。
しかし少し急ぐ必要があったのも確か。
「実はな……。あの子息。トッキーの話と照らし合わせると早くしないとまずそうだったんだ」
「どういうことだ? 」
すると少しスミナが険しい顔をしたので説明を。
「確かにスミナの言う通り出てくるモンスターの種類や地形を調べ入念に下準備してから行った方が良かったと思う」
「そうだね。デリクが意味もなく先走りそうだったら僕も止めてたよ」
「が、今回は少々特殊で小精霊の暴走も後半に入ってるそうだ」
「うむ。あの時の精霊曰く通常あそこまで小精霊が暴走することは数少ないとの事」
「最初に俺達が目を焼かれるような光にやられたような光は放たないようだ」
「それを起こしている原因として考えられるのは二つらしい。自身の限界を大幅に超える小精霊が入り込んでいる。もしくは――病状自体が後半に入り加速しているかのどちらからしい」
「あくまでその昔の話の様じゃが、今回にも当てはまるじゃろ」
それを聞きスミナは納得したのか椅子に体重を乗せて「そっか」とだけ言った。
「ま、かといって俺達が命を投げ出す必要はない。安全第一で行こう。一回で採取できるかは不明だし、伝説と言われているほどだ。何回も何日もかけて魔境を探索し奥へ進む。循精大黄草の形や色、匂いはトッキーから聞いているが……まぁ失敗しても恥にはならんだろ」
「失敗する気はないけどね」
「ええ。むしろ少し過剰にとって研究材料に」
「リンはむしろ珍しいモンスターと戦いたいです」
「ならワタシは上がった腕前を見せつける場面だな」
「オレと」
「妾の」
「「必殺技が火を吹くぜ!!! 」」
「「「吹かせんで良い!!! 」」」
あの惨状の再来はもう嫌だ。
各々の欲望のまま気合いを入れる種族の輪。
賑やかになってきたが一旦俺が咳払いをして区切った。
「で、今回の流れだがまず男爵が俺達に指名依頼を出す。そしてそれを受注」
「依頼内容を見たギルマスはきっと目を見開くだろうね」
「もしくは難易度の高さから止めに入るかもしれません」
「ギルマスは置いておいて、そこで食料や移動用の馬車などの必要品を伝える。今回、一緒に来ている護衛や使用人達は置いて行く。向こうで危険に晒すわけにはいかないからな」
「ドラグ家で世話をしてくれるように頼んでおいたよ」
「あら? そういえばガスト以外元ドラグ伯爵家の使用人や文官・武官では? 」
それを聞き俺達は思い出す。
そう言えばここは彼女達にとってはホームなんだな、と。
「しごかれるかもしれませんが……。まぁ良い訓練になるでしょう」
「そ、そうだな」
「彼女達には申し訳ないが、こっちでも頑張ってもらおう」
全体的な流れを言い終わり必要なものを確認した後俺達はそれぞれ部屋へと戻る。
最終確認をする為に。
ここまで如何だったでしょうか?
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