第三百一話 形だけの謝罪とへし折られた心
「「「誠に申し訳ありませんでしたぁぁぁ!!! 」」」
俺の前には土下座状態で頭をこれでもか、という程に擦りつるドラグ伯爵領の騎士達。
先ほどまでの勢いは全くない。
全員が顔を青ざめ血が出る程に額を地面に擦り付けている。
「本当に申し訳ない。この通りだ」
彼らの前でアドレノ様が鋭角に頭を下げ、謝意を示す。
しかし彼らの蛮行がこれでなくなるわけではない。
もしかしたら今までに俺にやったように新人教育のようなことをしているかもしれない。
あの時アドレノ様の気配がしなければ俺は火球を着弾ギリギリまで接近させていただろう。
それほどまでに『ケイロンの隣』というのは重いのだ。
「コホン。まず……、急に連絡が来たアドレノ様はともかくとして他の騎士の方達は何に対して謝っているのですか? 」
「「「え??? 」」」
俺が予想外の言葉を口にしたせいか彼らは少し呆けた顔で頭を上げた。
「何が良くて何が悪かったのか、きちんとしないと」
と、俺は騎士達からアドレノ様に瞳を移した。
「確かに」
「詳しい事は何も聞いてません」
すると後ろにいるケイロンが頷きアドレノ様が顔を上げてギロリと騎士達を見る。
それに反応して屈強そうな騎士達がビクッとして体を怯ませる。
いや、自分でもわかってなかったのかよ。
呆れてものが言えない、と首を振りながら嘆息した。
「あ、あのようにお強い方とは思わず」
「弱かったら暇を持て余した騎士団は弱い者いじめをしていいのか? 」
「うぐっ! 」
「セ、セグ子爵家当主とは知らず、ご無礼を」
「確かに無礼だけど子爵じゃなかったら、それ以下の爵位ならいいのか? 」
「うぐっ! 」
それぞれ声を上げるが誰もが的外れなことを言う。
それを聞き呆れながらアドレノ様が振り返り団員に告げた。
「彼の名前はアンデリック・セグ子爵。獣王国ビスト第一王女リン・カイゼル王女殿下、アクアディア子爵家の長女セレスティナ・ドラゴニル・アクアディア嬢そして我が妹、い、いもう……妹、ケイロン・ドラグの婚約者だ」
全体の空気か凍った。
★
彼らの処罰は後程考えるということで俺達は馬車でドラグの屋敷へ向かっている。
先導しているのはもちろんアドレノ様の馬車だ。
窓の外から目を離し中を見る。
そこには笑いを堪えている婚約者達がいた。
「変なのに絡まれたね」
「本当だ」
「でも少しは発散したのでは? 」
バレてたか。
「むしゃくしゃする時は暴れるのが一番ですよ。もちろん人に迷惑をかけない所で」
「で、結局なにが原因だったの? 」
「向こうが勝手に絡んできて戦闘になっただけだ」
「でもそれだけじゃあの怒りようはないんじゃない? 」
え、見てたのか?!
「はは、あれだけ騒いだら――喧嘩じゃなくても――なにか異変が起こってるってわかるよ」
「最初の方から見ていました。見事に罠にかけたあたりから」
「流石に三回目は……学習しなさすぎですね」
最初からじゃないか!
「と、言うことで何が原因だったの? 」
「本当に絡まれただけだって」
俺がそう言うとケイロンが「ふふ~ん」と疑わしいような表情で少し見上げた。
「しかしあんなことをしているということは」
「領軍の中でも何かしらトラブルが起こっているのかもしれませんね」
「で、俺はその日常に挟まっただけで」
「不運なのは絡んだ彼らなのか、それとも絡まれたデリクなのか」
「俺だろ?! 」
「いやいや、年下の男の子にあれだけ実力差を見せつけられたらどれだけ残ってくれるか」
「……流石にそれはないだろ? 」
「彼らの半分はプライドで出来ていますから」
「アドレノ様に頭を下げさせた。この事実だけでも大事なのですがそこに加えて多対一で完敗し、尚且つ埋められない差を突き付けられました」
「僕なら病むね」
まさかやり過ぎた?
冷や汗が止まらない。
「ま、なるようにしかならないよ」
ケイロンのその言葉と共に俺達の馬車はドラグ伯爵家の屋敷へと向かった。
★
「なぁ……」
「なんだ」
「強かったな」
「てめっ! 」
呆けた顔のまま率直な意見を言った団員に激高して掴みかかり、地面に押さえつける声を掛けられた団員。
途轍もない衝撃が彼を襲うがお構いなしに口を開く。
「ははは……。あんな子供によ。はは、この人数で、負けちまった。はは」
「このっ! あんな子供がいてたまるか! 」
押さえつけられている団員はボロボロと涙を流しながら事実を述べる。
しかし押さえつけている方は現実を受け止めきれないのか、アンデリックが子供でないと言い張る。
「俺達のよ。訓練は何だったんだ? 」
「っ!!! 」
事実として彼らは決して弱いわけではない。
普通に戦えば平均してC~Bランク冒険者並みの実力はある者達だ。
この中には獣人族もいれば魔族もいる。
様々な種族が合わさって戦っても手も足も出ずにあしらわれ心を折られた。
立ち上がれない方が普通だろう。
「俺達が弱かったわけじゃねぇ!!! 」
「負けたじゃねぇか! 完膚なきまでに!!! 」
二人が言い争う。
が、周りは項垂れ動こうとしない。気にしない。
まだ動けるだけ二人は気力があった。
そこに一人の魔族が現れた。
「おや。何やらいつも騒がしい騎士団が辛気臭いですね」
「?! 」
「拷問官のクソ爺! 」
「クソ爺とは何ですか」
はぁ、と溜息をつきながら顔を上げて彼らの方を向いた。
「で、何があったのですかな? 」
「何でもねぇ! 」
そう言い張る団員に「何もなければこうにはならないでしょ」と思うゼノス。
コツコツと音を鳴らし彼らに近付くも響くは拒絶の空気。
(これは本格的にまずいですね)
ゼノスが一旦止まりどうしようかと考えていると、一番近い騎士がポロリポロリと涙を流しながら、ブツブツと事情を話した。
そして、呆れた。
「馬鹿ですか、貴方達は」
「っ! 実力が、実力がわからなかったんだよ! 」
「いつも貴方達に口酸っぱく言っているじゃないですか。「無暗に喧嘩を売るな」と。それにお嬢の付き人とわかって喧嘩を売る? 非常識にもほどがありますよ」
「でもよ」
「羨ましいのは仕方ありません。今回の一件は貴方達の日々の行動が出た、というだけです。まぁ相手が悪かったのもありますが」
ゼノスが嘆息しながら彼らに言うと誰かがポツリと聞く。
「そんなに有名な奴なのかよ、あの小僧」
「彼はお嬢達の『婚約者』であると同時に『竜殺し』ですぞ? むしろ命があってよかったと思わねば」
「そうはいうがよ……」
彼らはアンデリックが竜殺しであることを知らなかった。
いや、竜殺しが現れたことは知っていたが遠いどこかのことだと思っていた。
まさか自分達の目の前に現れるとは思ってなかったのだ。
が、それも気休め。
その称号の大きさにピンと来ておらず、ただ「小さな子供にコテンパンにされた」と言う現実だけが彼らを襲っている。
仕方ない、とゼノスは思い一つ提案を彼らにした。
「今度、とある組織の討伐任務があります。そこに推薦しましょう。自分達がいかに強いかを、自身を、誇りを取り戻しなさい」
ゼノスはピシャリと締めてそこから立ち去った。
伯爵家からしてもゼノスからしてもリスクが大きい提案。
これで彼らが奮起し、任務を完了できるのかは本人達次第である。
しかしこれが彼らにとって最後のチャンスなのも確かである。
ここまで如何だったでしょうか?
面白かった、続きが気になるなど少しでも思って頂けたら、是非ブックマークへの登録や広告下にある★評価をぽちっとよろしくお願いします。




