第二百九十九話 さぁ、自白させよう 二
「おやおや、珍しいお客さんだ」
「ゼノス殿。知っているとは思うが」
「分かっているとも、分かっているとも」
パムの隣には白衣のようなものを着た魔族の男性がいた。
彼の額には一つの角があり髪は黒。瞳の色も黒だが……ケイロンとは違いどこか怪しげな雰囲気を纏っている。
「まずは自己紹介を。私はこの領地で情報官をしている一人でゼノスと申します。一応家名もございますが、名乗るほどの家名でもないのでご容赦を」
「ご丁寧ありがとうございます。私はアンデリック・セグ子爵、と申します」
そう言い出された手を握り挨拶をする。
怪しげに見えたのは最初だけで笑う姿にどこか親しみを覚えた。
「セグ子爵閣下にはお聞きしたいことが山ほどあるのですが時間は有限。こちらのパムから用向きは聞いております故さっそく実行していただいても? 」
「妾の出番じゃな」
そう言いエリシャが少し前にでた。
するとゼノスが少し体を硬直させる。
「か、かなり高位の魔族の方とお見受けしますが……。あ、貴方が行うので? 」
「うむ」
左様ですか、と言ったゼノスにはどこか納得したような表情が浮かんだ。
「もしかして魔族って闇属性魔法に適正が高かったりする? 」
「ええ。と言っても魔族でも一部ですが、他の種族よりかは、と言ったところでしょうか」
なるほどな。
もしかしたら闇の精霊であるミルがエリシャについているのもそう言ったことが関係しているのかもしれない。
自前の闇の精霊特化型龍脈、みたいな感じで。
「では、始めよう」
「僭越ながら私が起こしましょう。起きろ」
「ぬ。光属性を使えるとは」
「はは。これでも職業柄使えないと不自由ですので必死で習得しました」
ゼノスが唱えると三人を光り輝く魔法陣が覆い、すり抜けた。それと同時にピクリと動き出す。
苦笑いしているゼノスを見る限り魔族はあまり光属性魔法は得意ではないようだ。
実際にエリシャが光属性魔法を使っている所を見たことないし、恐らくそうなのだろう。
少しづつ彼らが動き――痛みに苦しみだした。
「ぐぉぉ! 」
「いてぇぇぇぇぇぇ!!! 」
「あ、痛み止めのような魔法をかけてなかった」
「そのようなもの罪人に必要ありません」
「だが……。この状態で聞けるのか? 」
「大丈夫じゃ。自白している間は痛みを忘れて問いに答える」
「なにその恐ろしい魔法」
「恐ろしいとは何じゃ。一時的にでも痛みを忘れるのじゃ。慈愛に満ちとろ? 」
「じ、自白?! 」
俺達の言葉に一早く反応したのは比較的けがを追っていない彼らの上位者だった。
俺達の方にキリッと顔を向け、言う。
「どんな拷問を受けても自白なんてしないぞ! 」
「いや、もうすでに「何かしてますよ」と自白しているものでは? 」
俺の鋭い一撃を受けて固まった。
やってしまった、という顔をしている。
この場合「あそこにいただけだ」等と、答えるのが正解に近い気がするんだが。
自白をしないと自ら言う時点でやましい事をしていたことを自白している。
最初から怪しさ全開だが。
「くっ! ならば一層のこと殺せ! 」
「そんな勿体ない事をするはずがないでしょう」
「うむ。その通りじゃ」
これじゃどっちが犯罪者かわからないが、大事な情報源。
しかも痛みで悲鳴を上げていない特典付き。
完全悪役のゼノスとエリシャの瞳がギラリとひかり犯罪人を見つめていた。
そして……。
「では始めるかの。我が問いに答えよ。開心」
黒い魔法陣が奴を覆うとゼノスやパムの言葉に答えていった。
★
「あー胸糞悪い」
「あれは看過できませんね」
「やった妾もそうじゃが……。予想以上の答えが出てしまったの」
俺達は地下の上の休憩室のようなところまで上がり、休んでいた。
俺達とゼノスやパムがいる中、語られた言葉は途轍もない事だった。
まず何でも屋という組織に属していること。
次に訓練と称して広大な伯爵家の目が届かない村でヌビル達を送り込み襲ったこと。
そしてある組織の指示により俺達の馬車を襲うように指示された事が明らかになった。
「よく、抑えたな」
「……うん」
震えるケイロンの手に軽く手を添える。
少しは治まったようだ。
責任感の強いケイロンのことだ。きっと不甲斐なさを感じているに違いない。
「私共はすぐさま伯爵閣下に連絡をいたしますのでこれにて」
そう言いパムは出て行った。
残された俺達だがどこかやるせない気持ちでいっぱいだった。
では防げたのか、と言われれば防げなかっただろう。
「気に病む必要はない、といってもきっとお気になさるのでしょうね。なのでせめてゆっくりと休憩をとっていただければ」
そう言い軽く会釈をしてゼノスは罪人達が残る元いた場所へ戻っていった。
少々やるせなさを感じながら俺は体の中の空気を入れ替えるために外に出た。
まだあまり時間は立っておらず昼過ぎのようだ。
日は高い。
小屋を出るとそこは思った以上に広い砂の道が伸びている。
「パパ? 」
「お、レイもいたのか」
「うん」
「悪いけど鞘でゆっくりしていてくれるかい? 」
「うん」
ニカっと笑い上を向くレイを持ち上げ剣に戻す。
ここはドラグ伯爵領。
少し窮屈かもしれないが鞘で大人しくしてもらおう。
人型を取れる剣なんて知られたらそれこそ大騒ぎになる。
レイを狙う者も出てくるかもしれない。気を付けなければ。
「おい。あそこにいるのはさっき入ってたケイロン様の御付きじゃねぇか? 」
「はは。ケイロン様も物好きだ」
前を向くとそこには騎士風の兵士が数名いた。
ああ、ここに入る時にいたガラの悪そうな奴らか。
「あん? なんだ、てめぇ。その顔は」
「陰気くせぇ。おめぇなんかより俺達の方がケイロン様の隣に相応しい」
ゲハハハハ、と不快な笑い声が聞こえる。
が、あのエカテーほどではないな。
不快さのレベルが足りない。
「……。急に人を馬鹿にしたような顔をしやがって」
「やっちまうか? 」
「だがそれはまずくねぇか? 」
「大丈夫だって。訓練って言ってりゃ」
彼らにはどうも俺は貴族家当主には見えないらしい。
いや俺が俺を見ても多分見えないだろうが。
「おい。こっち来いよ。しごいてやる」
「え……。俺そっちの気はないのですが」
「バッ! 馬鹿!!! ちげぇ! 」
「ぶっ殺してやる」
「はは、お前馬鹿にされてやんの」
「こいつやっぱり締める」
「俺も少しイラついていたので……。幸いです」
俺は彼らについて行き訓練場へ向かった。
ここまで如何だったでしょうか?
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