第二十七話 奇行と胸騒ぎ
いきなり転がり込み、頭のおかしい登場の仕方をしたフェナ。
この異常行動ともいえる動きに俺とケイロンは――固まった。
「さぁお兄さん達! 晩御飯よ! 」
「あ、あぁ……」
「わか、った」
いつもと同じく尊大な言い方で用を告げるのだが、さっきの行動はなんだ?
疑問に思っているとケイロンが尻尾を揺らし一階に降りていくフェナに続いて行き、俺もそれに追従した。
★
食事を済ませた俺達は、銀狼の人達と顔を合わせていた。
体調も戻り、いい感じである。
これなら明日はいつもと同じように動けそうだ。
「お夕食はフェナがお知らせに行ったと思うのですが……何か失礼なことはなかったでしょうか? 」
「し、失礼なことってなによ、ママ。大丈夫に決まってるじゃない! 」
恐る恐るといったフェルーナさんにフェナが抗議する。
失礼なこと……あぁあれですね。
一体何があったのでしょう?
「その様子だと、あったのですね」
「まぁ失礼、というか……」
「ついに頭がおかしくなったのかと」
「な……なん、です、と……」
はぁと深く溜息をつくフェルーナさんに俺達が感じたことを言うと、フェナが膝をつき、項垂れていた。
「頭のおかしい人……頭のおかしい人……せっかく考えたのに……頭のおかしい人……」
ブツブツと呟くフェナ。彼女を見下ろしながら考える。
それを見て彼女は一体何がしたかったのか、分からなくなった。
いや、最初から分からないが。
考えて『あれ』なのだから、何か考えがあって行ったのだろう。
「実はお昼の一件があり少々教育が必要と思いまして……」
どう教育したらあの行動につながるんだ?!
行った指導内容が物凄く気になる。
これまで高飛車だったけど、そこに異常性が加わってますよ?!
「で、教えている間に何か思いついたらしくあのような事になったというわけでございます」
説明になってねぇ!
端折り過ぎて説明になってない!
え、何があったの?!
おかしいでしょ! 何を思いついたっていうんだ!
「その顔を見ると私の崇高な計画が理解できていない様ね。いいでしょう、耳を良くして聞きなさい! 」
「せ、せめてわかるように説明してくれ」
「僕にも頼むよ」
「いいわ、教えてあげる。それは……」
「「「それは??? 」」」
「改革よ! 」
人差し指をビシッと決めポーズをとるフェナだが彼女以外——つまり俺とケイロンそしてガルムさんとフェルーナさんは理解に苦しむといった表情で彼女を見ていた。
「ママのおせっき……話を聞くところによるとどうも古臭く感じたわ。何か新しい事をしなければこの店はいずれ潰れるだろうと心配させられるほどに、ね」
ふ、古臭い……、と言葉の槍が胸に刺さったようで、珍しくフェルーナさんが落ち込んでいる。ガルムさんはガルムさんでその言葉を聞き、泣きそうな顔をした。
ま、まぁお客さんがいないのは確かだ。それは認めよう。
だが、これが普通なのじゃないのか? もっと違うところに問題があると思うのだが。
「そこで! 私は考えたの。どうやったらこの店を盛り上げれるのかを! 当然よね、だって私は看板娘なんだから!」
これこそ自分の役目と言わんばかりに、胸を張る。
「たどり着いたのがさっきの登場の仕方! テーマは奇抜さよ!!! 」
自信満々にいうフェナ。
だが実際に見た俺達からすればあれは看板娘の行動ではない、と思った。
必要なのはお淑やかさなのではないだろうか?
いや、もしかしたら他の宿は似たようなことをしているのかもしれない。
もっと奇抜なことをしている宿があるかもしれない。
「な、なぁケイロン。他の宿では似たような感じなのか? 」
「僕が知っている限りだと、あの登場の仕方をする従業員をみたことはない、ね」
「そうだよな……」
「と、言うよりももっと堅実にやっていると思うのだけど」
「な、なんですって?! 」
またもや絶望するフェナ。
「せっかくいい案だと思ったのに。これがダメでも他のを試したらいいと思ったのに……」
まだ他のパターンがあったのかよ……。
というよりももっと重要なことを忘れていないか?
「フェナさんや、忘れていないか? 」
「ふぇ? 何を? 」
「この宿は今俺達しか泊まっていない」
「そうね」
それが何? と首を傾げる。
おいおい、忘れちゃいけないぞ。
大事なことを。
「で、もし成功? したとしてどうやってその成功談を広めるんだ? 」
「そこは、お兄さん達が口伝に広めてくれれば問題ないわ」
期待した目で見ている。
結局人頼みかよ……。
そして、何その瞳。
胸がずきずきと痛む。あの純粋無垢な瞳を見ると手伝わない方が悪いと感じさせる。
うう～罪悪感を感じる。
これは気のせいだろうか、気のせいに違いない!
だが俺達が協力する気がない事に気が付いたのか、その瞳が暗くなる。
「え、もしかして断らないわよね? 」
「むしろ受けてくれると思ったのか? 」
「そんなー!!! 」
まぁそれ以前に失敗しているのだから広める必要もないのだが。
そのようなやり取りをしている間にフェルーナさんが復活し、今日はここまでということで全員解散となった。
★
二階アンデリックの部屋。
「色々あった……」
濃い、一日だった。
よく言えば充実していた、悪く言えばトラブル続きだったということだ。
魔力欠乏に続き、熱々粥事件、そしてフェナの奇行。
よくもまぁ休んでいるのに休めないものだ。
開いている窓を閉めに、スタスタスタと足音を立て近寄る。
茶色い枠を閉じる前に外を覗いた。
空には月光が射している。
宿の庭に植えられた木の葉が夜風に当たり、揺れていた。
「それにしてもあの夢……」
あの悪夢を思い出し、独り言ちる。
夢にしてはリアルすぎる。
ケイロンにゴブリン退治依頼を受けるなと言ってるし、大丈夫だとは思うが不安をぬぐえない。
「と、言ってもなにも出来はしないんだが」
現状を口にし、不安を除こうとする。
しかし下手に意識してミスをするとそれもまたいけない。
窓を閉め、ベットに戻る。
薄い布——しかし実家の物よりかはごついものを被り目を瞑る。
嫌な予感に苛まれながらも一夜明けるアンデリックであった。
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