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種族の輪 《サークル》 ~精霊術師は今日も巻き込まれる~  作者: 蒼田
第七章 心強き婚約者 上 誘われてアクアディア
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第二百八十六話 邂逅 六 心を繋ぐ道 四 vs 寂しがり屋のアンデリック 一

 セレスティナとケイロンは驚き目を見開く。

 そこには全身が(はい)色のアンデリックがいたからだ。


「アンデリック! 」

「ティナ! 違う、こいつ本物じゃない! 」


 セレスティナが少し感情(かんじょう)的になり前に出ようとするのをケイロンが抑える。

 少し抑えつつ顔を動かし高い背丈(せたけ)のアンデリックを見た。

 手にはレイだろうか剣があり胸には鉄板のような物が装備されている。

 今のアンデリックにはない装備だ。。


 (偽物だろうけど、どういう)


「全く(たち)の悪い事をしてくれるね」

「そう言わないでください。これも彼の為ですので」

「へぇ。君にとってアンデリックはそんなに重要な存在なんだ」


 そう指摘(してき)すると一瞬体が硬直(こうちょく)した。

 しかしすぐさまくるっと誤魔化すように動いておちゃらけてみせる。


「ほほほ、彼ほど面白い人間はいませんしな。以前に同じように加護を与えた人間もいましたが、ここまで面白おかしい状態になったのは初めてです」


 自称(じしょう)精霊がおどけてみせている間、大人アンデリックはうつむいたままだ。

 セレスティナは彼の方に向かおうとする気持ちを抑えて魔導書を構える。

 偽物。絶対に偽物。

 そう自分に言い聞かせながらも戦闘準備に入る。


『よっとやっと来れた! 』

「ヒカル?! 」

『やぁ、ケイロン。やっと来れたよ』

「ど、どうしてここに?! 」

『嫌だなぁ、なにかあったらいけないからこうして助けに来たんだよ』


 そう言いながらケイロンの体から完全に出て前を向く。


『……何であんな大物と戦ってるの?! 』

「え? ヒカル。それどういう……」

「おっと、いけませんよ。ヒカリの(キミ)。そこまでです」


 ケイロンから生まれた光の精霊『ヒカル』が何か言おうとしていたらすぐに口をふさがれた。

 ヒカルの「むぐ―! 」という声を聞きながら、二人は遅れて声の方を見る。


 (反応できなかった?! )

 (気配が全く! )


 一瞬、刹那(せつな)、そう言う言葉が陳腐(ちんぷ)に聞こえる程に素早い動きでヒカルの口を防いで見せえた自称精霊。

 まるで最初からそこにいたかのようにヒカルを抑えている。

 もし彼が敵ならば自分達の精神が出会った瞬間に崩壊していたこと気付き冷や汗を流す。


「まぁ私のことは追々(おいおい)。時が来ればわかるでしょうし」


 気がつけば元の位置に戻っていた自称精霊。

 その方向に顔を向け、構える。


「時間(かせ)ぎとはいえ、本気を出さないと……死ぬやもしれませんので、」お気をつけて」


 カチリ。


 また顔の棒が進む。


 ★


 巨大な体躯(たいく)をうねらせて突風(とっぷう)を起こす蛟龍(こうりゅう)に風の精霊魔法で風流(ふうりゅう)を操作し受け流す。

 制御しきれない分の逆風(ぎゃくふう)にさらされながらも攻撃を当てるべく移動した。


 あの巨大にこの攻撃力。龍神の一角というのは本当だな!

 そう思いながらも風を操作しつつ接近する。


 強いのは分かっている。

 自分に強化魔法に精霊魔法を(まと)わせながら戦わないと近づくことすらできない。

 カオス・ドラゴン以上に厄介だ。


「ただ敵を倒すのみの剣ならば誰にでも出来る! ただ強いだけの剣ならば上れる! 少年はその剣に何を乗せる!!! 」


 雷雲(らいうん)を発生させ(いかずち)が地面を(えぐ)る。

 木々は倒され、燃えている。

 ()いただすかのような蛟龍の声を聞きながら必死になって攻撃を仕掛けた。


 ★


「くぅ……。強い」

「まず足を止めます。氷結牢獄(アイシクル・ジェィル)


 ケイロンと剣を合わせていたアンデリックにセレスティナの牢獄(ろうごく)を作る。

 しかし光の扉が現れたかと思うとすぐにそこから脱出し、セレスティナの前に来た。

 躊躇(ちゅうちょ)なくセレスティナに剣を突きたてた灰色のアンデリックだがその瞳に驚きが見える。


 セレスティナは剣を(うろこ)(まと)った片腕で受け止めたのだ。

 しかしいつもとは違う。少し多めに青く光っている。


「何を驚きで? これは貴方が()めてくださった(うろこ)ですのよ」


 魔導書を(にぎ)ったまま剣を(はじ)く。

 (はじ)いた衝撃でアンデリックは少し態勢を崩しその間にセレスティナが追撃を。


「ハッ! 」


 (こぶし)で殴りその勢いで回し()りで追撃する。

 アンデリックも剣を盾にして防ぐも攻撃スピードに追い付かない。

 

 一旦退避と言わんばかりに光の扉を開けるもその先にはケイロンがいた。


「セイ! 」


 アンデリックに剣が迫る。

 が、ギリギリで剣をを合わせて迎撃できた。

 剣と剣が交差した時、ふとケイロンの頭に声が響く。


 寂しい。

 

 (なにこれ? 精神攻撃? )


 ケイロンが少し(まゆ)をひそめている間にセレスティナが水球乱舞(ウォーター・ダンス)で偽アンデリックに攻撃を向けた。

 それに気づいたアンデリックは光の扉や先読みを使いながらそれぞれ回避し大きく迂回(うかい)しながら剣で切りつける。


 それをセレスティナが拳で迎撃すると彼女の頭の中にも声が響いた。


 離れないで。


 これは……。

 剣と拳から火花が()るという異常事態になりながらもセレスティナは驚き、アンデリックの(うつ)ろな目を見た。


「ケイロン。先ほどの声、聞こえましたか? 」

「『寂しい』ってやつ? 」

「いえ、ワタクシは『離れないで』でした」


 二人は一度集まり構え直す。


「精神攻撃? 」

「有り得ますが……。それならば初めからしませんか? 」

「確かに」


 ひそひそ声で(うつ)ろな目をするアンデリックを見る二人。

 しかし答えはまだ出ない。


 考えていると剣を構え直してこちらに向かうアンデリックが勢いよく動き出した。


 ★


「私は見極めなければならない」


 そう自称精霊は独り()ちた。


 彼はケイロンとセレスティナをアンデリックと戦わせている張本人(ちょうほんにん)であり、大人アンデリックを再現(さいげん)した本人でもある。

 そんな彼は光の精霊を片手に持って双方(そうほう)攻防(こうぼう)を見ていた。


「彼女達が()たして彼に見合うのかどうかを」


 そう言い彼は思い出す。

 前に加護を与えた人物の成長は止まった。寿命の事もある。なのでこれ以上は不可能と判断した。

 だからその孫であるアンデリックに仕込んだわけだが予想以上の結果を残している。結果だけを見るならば祖父以上だろう。

 だが彼はまだ十二歳。幼過ぎる。

 これからも更なる困難が予想されるし、そう視える。来るべき災害(さいがい)()たして対処(たいしょ)できるのか……。

 故に(ため)す必要がある。(ささ)える者達の力量を。

 そのために蛟龍まで引っ張り出してきたのだから。


「ふむ。膠着(こうちゃく)状態が崩れそうですね」

『……』


 光の精霊は何も言わない。

 いや、言えない

 それほどの相手だからだ。

 彼の正体には粗方予想がついているがそれをケイロンに伝えるべきかどうか迷っている。


「まだ長生きしたいのならば私の正体をばらさないことをお(すす)めしますよ? 」


 見透かされていたことに冷や汗を流しながらも自分が加護を与えた人物に顔を向ける。

 どうか無事であってくれと。

お読みいただきありがとうございます。

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