第二百五十四話 赤き宝石と一緒
カタカタカタという音を立てて馬車は行く。
向かっている場所はもちろんバジルだ。
しかし気まずい雰囲気がこの中に流れていた。
何故ならば……。
「アンデリック、様は貴族だったのですね」
「様はいらない、モリト」
「あ、あぁ……。すみません」
「敬語もいらないってば! 」
普通の冒険者が豪華な馬車にいきなり放り込まれるとこうなるだろうからだ。
俺達は予定通り王都からバジルの町へ行くための馬車を取ろうとした。
明日リンを拾ってバジルに向かおうと考えたからだ。
だがそこに現れたのは買い物の途中というルータリアさんが出現。
その胡散臭い理由はさておきどこに行くのか問われると、バジルへ馬車で向かうと伝えた。
が、それがいけなかった。
彼女の顔に嗜虐心が出たのを感じてまずいと思ったが後の祭り。
ならば、ということで少し待つように指示され屋敷の方へ向かったルータリアさん。
呆気にとられる赤き宝石の面々を放置し、どうしようかと考えているといつの間にか豪華な馬車が登場。
ルータリアさんがわざとらしく「ご主人様、ご用意が出来ました」と言いながら出てきた。
俺はあの時のルータリアさんの笑顔を永遠に忘れることは無いだろう。
三台の馬車とその馬に乗る従者を見て俺が貴族になったことを知る彼ら。
そこからは攫われるかのように馬車に連れ込まれてバジルに向かっている、ということである。
「ルータリアさん。なんでこのメンバーなんだ? 」
「不服でしょうか? 」
「不服じゃな……」
「お嬢様! ご主人様はこの采配に不服だとっ! ルータリアはっ! ルータリアはっ! 」
「オヨヨヨヨヨ。アンデリックはワタクシと一緒にいたくないのですね」
「いや、違うから! そう言う意味じゃないから! 」
余計なことを言うルータリアさんにわざとらしく涙を拭くセレス。
この二人、共犯じゃないだろうな。
そう思いながらも正面のセレスに顔を向け考える。
この馬車は過剰とまではいかないが普通に装飾がされた馬車で、四人乗り。これが三台バジルに向かっている。
一台は俺達でメンバーは俺とセレス、モリトにルータリアさん。
もう一つは帰ってきたリンとスミナ、そして他の赤き宝石の面々。
最後の一つは文官であるヒナさんが乗っている。
「……苦労してるんだな。アンデリックは」
「分かってくれるか、友よ」
憐みの目で俺を見てくる犬獣人の剣士ことモリト。
犬耳を垂らしながら俺の方を向いて理解してくれた。
やはり持つべきは似たような環境にいる友だろう。
「お嬢様! 例え……例えご主人様にお嬢様が捨てられたとしてもっ! 私、着いて行きます! 」
「ルゥ! 」
「私の食費を賄ってくれるのならば」
「ルゥゥゥゥゥ!!! 」
「こういう寸劇は貴族で流行りなのか? 」
「いや。多分俺達だけだと思う」
きっぱりとした表情で大食漢のルータリアさんが食費を賄ってくれ、とセレスに要求するメイド。
主従、というよりかは悪友のようにも見えるのが不思議。
この二人。例え家が別々でも友達のようになっていたかもしれないな。
そう思いつつもモリトに話を振る。
「モリトは今ランクはどのくらいなんだ? 」
「冒険者ランクはこの前Bになった」
「それはすごいな」
「何言ってる? アンデリック達の方が凄いだろ」
「俺達はCだからな……」
「いやいや、何爆速でCランクになった奴が言うんだ」
褒めたら少し憤慨された。
ま、まぁ確かに早いランクの上昇ではあった。
だが数に物を言わせたからな……。
果たしてこれが正攻法なのかと聞かれると疑わしい。
「正攻法も何も、正攻法だぞ? と、言うよりも種族の輪よりも多い人数を抱えているパーティーはいくらでもある。それでもランクの上がり方はこんなに早くないから、やはり異常な速度だろうよ」
「そんなもんか」
「ああ、そんなもんだ」
目の前でまだ寸劇をしている二人を見ながら俺は考えていた。
が、セレスとルータリアさんの寸劇も終わりセレスがモリトの方へ向いた。
「モリトさん。少しお聞きしたいことがあるのですがいいでしょうか? 」
「ええ、何でも」
「現在バジルは……その、冒険者はどのような感じでしょうか? 」
確かにそれは気になる。
転移魔法で行ったり来たりしているが、基本的に依頼を受ける時は馬車移動だ。
時間の都合などで何かしら疑われたらいけないためである。
俺やセレスのような事務をしている面々にはギルドの中の情報と言うのが手に入りにくい。
エルベル達にも時折話を聞いてはいるものの、やはり他の人からの情報というのは貴重だ。
「質問が曖昧ですけど……。そうですね。人数はやはり減りました」
「理由は分かっているのですか? 」
「まぁ殆どがバジルで仕事をしずらくなったのでしょう」
「襲撃、のことですね」
セレスが言うとモリトが軽く頷く。
「あの時バジルに常在していた冒険者の殆どは外で起こったモンスター暴走の対処に向かっていました」
「しかし」
「ええ。魔人が町を襲撃し奴が召喚したモンスター達に町を破壊されました。しかしそのモンスター達は殆ど町人が撃退。幸い冒険者としてアンデリック達がドラゴンを倒してくれたので何とか冒険者ギルドの面子は保たれましたが、それぞれ個人としては複雑で」
「それでいなくなったのか? 」
「それもあるが「住民がモンスター達と戦っているのにその場にいなかった」というのが響いていてな。住民とのいざこざも前よりかは増えてるようだぞ? 」
それを聞き頭を抑える。
外と内と両方攻められたので仕方がないと言えば仕方がないのだが、襲われた住民からすればそうはいかないだろう。
加えるならば自分達が苦戦するであろうモンスターを住民が軽々倒したのである。
冒険者として心が折られたものもいるはずだ。
今後バジルの町が更に人手不足になるのは簡単に予想が出来る。
「町長はどうするつもりだろうか」
「把握してないのではないでしょうか? 」
「あくまで行政側だからな」
「ええ。それに復興で手がいっぱいだと思いますので」
そう言われると書類の山になっている執務台が簡単に想像ついた。
どうしたものか、一人頭を捻っていると馬車が少しゆっくりとなり止まる。
今日は三日目。
気まずい二日を過ごした後の最後の日で到着する日だ。
少し間を置き扉にノックの音がする。
返事をすると扉が開き白い羽根の有翼獣人のハルプさんが「着きました」と伝えてくれた。
さて、行くとしましょう!
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