表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
種族の輪 《サークル》 ~精霊術師は今日も巻き込まれる~  作者: 蒼田
第一章 安全マージンをとる冒険者
27/442

第二十三話 プロローグ

 これは……夢か。

 しかし見覚(みおぼ)えのない夢だ。


 それにしてもどこだここ? 何か(さわ)がしいな……。

 何が起こっているのか分からない。


「おい! ゴブリン共! こっちだ! 」

「かかってこいやぁ!!! 」

「ほーら、ゴブリン共! こっちよ! 」


 騎士の恰好(かっこう)をした男冒険者が大盾を構えてゴブリンを挑発(ちょうはつ)し、攻撃を受ける。反撃と言わんばかりに盾の横にある隙間(すきま)から魔核(コア)を一撃で突き、殺す。

 戦士風の男冒険者は長剣(ロングソード)を振り回してゴブリンを殴打(おうだ)し、魔法使い風の女冒険者は挑発(ちょうはつ)に乗ったゴブリンめがけて魔法を放っていた。


 彼らの目の前には大量のゴブリンの死骸(しがい)がある。

 成程、ゴブリン討伐の依頼の途中(とちゅう)ってわけか。

 それにしてもリアルな夢だ。臭いまでわかるとは。


「くそっ! こんなの聞いてねぇぞ! 」

「全くだわ、多いにも限度(げんど)があるでしょ! 」

「後でギルドを(うった)えてやるわよ!!! 」


 と、言いつつもほぼ敵を全滅させていた。

 あとは街道(かいどう)にはみ出ているゴブリンくらいだった。

 しかしそのゴブリンもあと少しなのだろう。数が彼らの目の前にあるものよりも極端(きょくたん)に少ない。


 女冒険者は緑の生物に向かって深紅(しんく)火球(ファイアー・ボール)が放つ。

 轟々(ごうごう)とゴブリン達を焼き(はら)い、彼女達の道を作る。

 チリチリと焼き(あと)が残る中、誰かの声がした。


「だ、誰か!!! 早く来てくれ! 大変なんだ! 」

「神官! 神官はいねぇか!!! 」


 道の向こう側から声がする。

 悲痛な声だ。

 しかし俺は冷静だ。

 何せこれは夢なんだから。そう(あわ)てるものでもない。


「どうしたのかしら? 」

「まて、あっちは補給班(ほきゅうはん)の方だぞ! 」

「おい、まさか……」


 三人が一斉(いっせい)(あせ)る。

 そして焼けて黒くなった道を走っていく。

 俺もそれについて行こうとしたら、後ろから誰か来るのが分かった。


「何があったんですか! そっちにはっ! 」


 俺が振り返るとそこには夢の中の俺がいた。

 (あせ)りのせいか物凄い汗を流している。

 おい、俺よ。

 もっとクールに行こうぜ? それに一体そこに何があるってんだ?


 そう思いながらもやれやれ、と首を横に振りもう一人の自分について行った。


 そしてそこにあったのは――


 無残(むざん)に殺されたケイロンの姿だった。


「「あ……あぁ……あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 」」


 ★


 ガバッ!!!


「はぁはぁはぁ……。今のはなんだ? 」


 太陽が(のぼ)っている。

 もう朝を(むか)えているようだ。

 しかし気分は()れない。


「何だ、あの胸糞悪(むなくそわる)い夢は! 今まで見たことないっ! 」


 夢を見ることはある。

 しかしそれは昔の夢だったり、それこそ夢とわかるようなハチャメチャな夢だったりだ。

 こんなにも鮮明(せんめい)で嫌な夢は見たことがない。


 一人ベットの上で考えていると、(とびら)の向こうからドドドと音が聞こえる。

 そして――


「お兄ちゃん! 大丈夫!!! 」

「デリク、大丈夫かい!!! 」


 ドンッ!


 と、ケイロンとフェナが(とびら)を開けて入って来た。

 

 生きている。


 物凄い形相(ぎょうそう)だがケイロンが生きている!


「デリク、君大丈夫かい?! 」

「お兄さん大丈夫? 物凄い汗」

「あ、あぁ。大丈夫だ」


 フェナにしては珍しく心配してくれている。

 金色の瞳に(かげ)りが見えた。


「ちょっと夢見(ゆめみ)が悪かっただけだ」

「ならよかった~」

「はぁ、驚かさないでよね」


 ん? 俺が寝ている(あいだ)に何があったんだ?

 恐る恐る顔を二人に向け、聞いてみる。


「あれだけ大声でうめき声上げて、何いってんのよ! 」

「僕の部屋まで届いてたんだから……心配したよ」

「うめき声、上げてたんだ」


 声を上げていたことに()ずかしくなり、少し(うつむ)く。


「全く! 何か出たんじゃないかって心配したんだから! 」

「え? 何か出るの? 」

「で、でないわ、わよ! 例えよ、例え! 」


 少し目をキョロキョロさせながら『例え』ということを強調(きょうちょう)するフェナ。

 まさか、出るのか?

 もしかして市場(いちば)の人が驚いていたのってこれの事か?


一先(ひとま)ず、今日の準備をしようか」


 ベットから起き上がり、足を床につけ立ち上がろうとしたら……


 バタン。


 俺は床にファーストキスを(ささ)げてしまった。


 ★


「魔力欠乏、ですね。一日安静(あんせい)にしていれば元に戻るでしょう」


 フェルーナさんがそう言った。

 倒れた後、俺は再びベットに寝かされていた。

 フェナがフェルーナさんを呼びに行き、彼女の診断を受けたというわけだ。


 どうやらフェルーナさんは魔法使いらいし。

 え? あの腕力で?

 と、思ったのは秘密だ。


「朝に何か大量に、それも瞬間的に魔力を使ったのですか? 」


 少し(あき)れ顔で聞いてくるフェルーナさん。


「いえ、そのようなことはしていないんですが……」

「しかし……こうも消耗(しょうもう)しているとなると、そうとしか」


 何か心当たりがないか聞かれるが(まった)くない。

 変な夢を見たくらいだ。

 しかし夢は夢。それこそ魔力を消費するような物でもない。


「まぁ今日は安静(あんせい)ですね。冒険者ギルドの依頼はやめておいた方が良いでしょう」

「しかし……」

「デリク、僕は構わないよ。君が休んでいる間に依頼を見てくるから、さ。あと町を見て回ってみるよ。何か新しい事を発見できるかもしれないから」


 情報収集をしてくるというケイロン。

 しかし今回はそれが逆に心配だ。

 夢は夢。

 分かり切っているのだが、どうしてもあれを見た後じゃ警戒(けいかい)してしまう。


「……ケイロン、了解だ。だが一つ約束をしてくれ」

「約束? 何だい? 」


 ケイロンは俺の(わず)かな強い口調に緊張を高める。


「ゴブリン討伐依頼だけは受けないでくれ」


 すると、意外だったのか少し(ほう)けた後、少し笑いながら俺の言葉に返事した。


「ハハハ、もちろんだよ。まだ入りたてなのに受けるわけないじゃないか」

「そ、そうか」

「それに今日休養(きゅうよう)をとったとしても明日万全(ばんぜん)に動けるわけじゃない。例え僕達がベテランになっても、そんな状態で討伐や採取依頼しないよ」

「それもそうだな」


 受付嬢の事もあるからイレギュラーが発生する可能性もある。

 しかしそれも杞憂(きゆう)のようだ。


(さき)んじて軽い依頼を(いく)つか見繕(みつくろ)っておくよ。リハビリ程度に、ね」


 じゃぁ僕は行くね、と言いケイロンは部屋を出ていった。


「体調が(かんば)しくないということでご(はん)は軽いものの方が良いでしょう。こちらに運びますので一階に降りてこなくても大丈夫です」

「じゃぁね、お兄さん! 「ゴッ!!! 」痛っ!!! 」


 一礼(いちれい)して、フェルーナさんが一階へ降りていった。

 ひりひりするのか頭を押さえ、(うずくま)るフェナを引き()って。

お読みいただきありがとうございます。

もしお気に召しましたらブックマークへの登録や下段にある★評価よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新しく始めた異世界転生ものになります!
ハズレ枠の転生貧乏貴族は武姫を継承し最強へ至る
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ