第二百三十一話 タウの森 レベルが高すぎる森 一 長老の屋敷
精霊達が騒ぎ収拾がつかなくなっていた時、森の方から変態がやって来た。
彼らは加護を持たない単なる巡回の様で。
俺達を見た時不審がった。
しかしその道で有名なタウ家の当主と数か月前に出ていったエルベルを見て驚き、彼らを通じて事情を知る。
すると長老の所へ向かうと言い俺達を森の奥へと誘った。
「いや、全部着ろよ!!! 」
「な、何がだ?! どうした! 」
「エルベルが町に来た時を思い出して薄々は変なことが起こると思ったけどそれ以上だった! 」
「……デリク、他の種族の文化に口を出すのはどうかと思うぞ? 」
「それが普通だったらな! 何でこんなに布面積が少ないんだよ?! おかしいのか! 俺がおかしいのか! 」
「ははは、初めてタウの森に来た人は皆驚くよ。もっとも……」
「もっとも? 」
「もうすぐ精霊祭だからはっちゃけているだろうけどね? 」
そんなことを言うガナード様。
前を向くと目のやりどころに困る姿の男と女。
もう、帰りたいです。
巡回のエルフ達に連れられ、森の中を行く。
エルフの姿がちらほら見えまた様々な精霊達があちらこちらに見えた。
これだけでもこの森全体が龍脈になっているのだろうことが予測できる。
布面積の少ない服に身を纏ったエルフを除くと神秘的な森だ。
温かく眠気を誘うような風に青臭さはあるもののそれを不快にさせない花の香。
極めつけは精霊達が自由気ままに精霊魔法を使っているのかあちらこちらで光が輝いている。
『食らえ! 光の嵐! 』
『まだよ! 精霊の土壁』
『くっ……。奴は化け物か?! 』
『行かないでっ! 貴方の赤ちゃんがもうすぐ生まれるのよ! 』
『大丈夫さ、ハニー。俺はきちんと帰ってくるさ』
眩い閃光と爆発のような巨大な音、そして歩く度に広げられる寸劇に……俺はある種の悟りを開いてしまっていた。
慣れとは恐ろしい。
これが人族が持つ順応性というやつだろうか。
「神秘的な森だ」
「そうだろ! デリクもこの森の魅力に気が付いたか! 」
「ああ……。精霊の光と声に満ち幻想的な光を纏ったこの森は加護持ち出なければ味わえない味を出している」
「そうだろ、そうだろ! 」
「……そこに住むエルフに常識が備わっていれば、なおよかったのだが」
歩きながら横を見る。
そこには大勢のエルフが集まっていた。
それだけなら問題ない。そう、それだけなら。
「皆ー! ルルの為に集まってくれて、ありがとうー!!! 」
「「「うぉぉぉぉぉ! ルルちゃーん!!! 」」」
「今日もルルの歌を! 聞いて行ってね!! 」
「「「うぉぉぉぉぉ! せい! せい! せい! せい! 」
王都で見たカルボ・ファイブのような拡声の魔法だろうか、俺のところまで声が届く。
歌声は綺麗なのだが周りで息を合わせて腕を振り踊っているエルフ達。
しかも全員ほぼ半裸。
何だろう……。最初に見たエルベルの姿が物凄く文明的に見えてきた。
「ど、どうした。デリク! オレを見ながら泣き出して! 」
「いや、エルベルは常識人だったんだなと、感慨深くなっていたんだ」
「オレはいつでも常識人だ! 」
「それは同意しかねるが、まぁこの森の中だけを見るなら常識人だ」
納得がいっていないのかエルベルは「ぐぬぬ」と顔を歪ませながら歩く。
そしてついに一軒の木造住宅が見えてきた。
「ここが長老——外で言う町長の屋敷でございます」
俺達の目に映ったのは一軒の巨大な、横長な屋敷だった。
★
「ほほほ、王都からわざわざ済みませぬ。わしはこの森の長老『エルノゼレス』と申します」
「私は探索庁の職員でアンデリック・セグ子爵と申します。以後よろしくお願いします」
半裸なこと以外は普通のお爺さんエルフと言った感じの長老だった。
この森を締めているんだからもっとぶっ飛んでいるのかと思ったが思い違いだったようだ。
「して、セグ卿はどのようなご用向きかな? 」
「用向き、というほどのものではないのですが、端的にいうと調査のようなものですね」
「調査、とな? 」
「ええ。まぁ今回はタイミングからして精霊祭の事を書いて終わりってところですかね」
「なるほど、なるほど……」
にこやかにそう呟くエルノゼレス。
出来れば何か資料になるような物を持ってきてくれたりすると助かるのだが。
まぁそこまで本格的なことはしなくても大丈夫だろう。
名目上だし。
「一つ気になったのですが……」
「どうしたのです? 」
「そちらの剣は精霊武器ですかな? 」
「精霊武器? 」
「ええ。精霊魔法を媒介に精霊魔法を使うときに使う武器のようなものです。エルベルの精霊弓がそれにあたりますわい。その剣から精霊の匂いがするのでもしかしたら、と。わしも魔杖型の精霊武器を持っておりますが近接武器は初めて見ました」
「長老も精霊魔法を? 」
「ええ、これでも三属性使える高位精霊術師でございます」
少し誇らしげな顔をしてそう言った。
長老がそう言うとカタカタとレイが震えだす。
え、ちょっと待って! 今出てきちゃダメ!
教育に悪いから!
「む、そちらの剣、何か動いてやしませんかな? 」
「き、気のせいですよ。あははははは」
座ったまま手でレイを必死に抑えて擬人化を止めようとする。
どうやらレイは精霊剣の姿よりの人間の姿の方が気に入ったらしく時折何の予兆もなく人間の姿に戻る。
最近だともはや剣の姿よりも人間の姿の方が多い。よってバジルの町では俺の親戚ということになってしまっていた。
だけど、今はダメ!
カタカタカタカタ……。
「セグ卿、やっぱり動いていますね」
「はて、このような現象見たことが」
「精霊武器がタウの森に反応する……。興味深いですね。やはり探索庁などやめて我が隊に……」
「旦那様、それは不可能だと」
「陛下に進言する! 」
「……これまで散々陛下にご迷惑をおかけしているのです。これ以上は流石に庇いきれませんぞ? 」
何をやらかした! ガナード様!
気になる、めっちゃ気になるけど今はそれどころじゃない!
が、俺の思いは通じなかったようだ。
ついにレイもしびれを切らして剣が飛び出る。
その様子に全員が唖然とし動けない。
七色に発光し辺りを照らす。
その光が治まったかと思うとそこには七色の輝く髪を持つ幼女姿のレイが。
「パパァ! 」
「あはははは……」
全員が呆然とする中、我が愛娘は小さな体で俺の懐に飛び込んで頭をぐりぐりとする。
やってしまった、と思い虚ろな目をしながら彼女の頭を撫でた。
この森は精霊狂いの森。
さて、どんな感じで言い訳しようかな。
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