第二百二十一話 考察のセレスティナ 一
「調査と言われてもな」
「確かどのような生活をしているのか報告書を書くんだったか? 」
「一応国の機関として活動しないといけないから、その為の調査らしいが」
全員がエルベルを見て、そして顔を見合わせた。
「「「行きたくねぇ……」」」
「な、なんだ?! タウの森は良いところだぞ?! 」
慌ててエルベルが良いところアピールするがどうにも厄介事しか思い浮かばない。
変態の巣窟になってるだろうな……。
そしてケイロンが思い出したかのように口を開いた。
「た、確か同行人もいるんだっけ? 」
「そんなこと言ってたな」
「後で王都の屋敷に来るとかなんとか……だったと思うぜ? 」
「……嫌な予感しかない」
「何でだ? 」
「いやだって職員十人のはずなのに同行人がいるんだ? 」
「確かにそうだが」
「普通はその省庁の中ですませるはずだけど」
「少ない人数が災いしたってことか? 」
「いや、多分話を聞きつけた誰かが同行を申し出て断れなかった、というところが妥当なんじゃないかな? 」
ケイロンが推察するがもうこの時点で俺達はタウの森へ行く気が失せていた。
エルベル以外が気を落とす中エリシャが俺の方を向く。
「そう言えば、セレスティナはまだかの」
「確かに遅いな」
セレスは何か用事があると言ってこの控室に来る前に分かれた。
どんな用事かわからないが後で控室に戻ってくるということで。
「ま、大人しく待っておこう」
「そうだね」
★
カルボ王国王城の一室。
煌びやかな調度品が並ぶ中セレスティナは二人の男性を前に不敵な笑みを浮かべていた。
逆にその二人は顔に緊張が見える。
緊迫した雰囲気の中ついにセレスティナが口を開いた。
「……バジルの町に現れたカオス・ドラゴン。その詳細を知りたくはないですか? 」
その一言でその二人は目を見開く。
まさか彼女が、知識にしか興味がない彼女がそのようなことを言いだしたからだ。
いつもなら自分が知っていればそれでいいというのを貫き報告まがいのことなどしないのを彼らは知っている。
なのでより一層彼らの顔に緊張が走る。
どんな無茶なお願いをされるかわからないからだ。
が、その情報の価値は計り知れない。カオス・ドラゴンではないにしろ今後の役に立つかもしれないからだ。もしかしたらこの情報を元に他の派閥をけん制できるかもしれない。
そう考えた一人の――王冠を被った男性が口を開いた。
「無論、知りたい」
「だけれどもボク達としては詳細をアンデリック君達から敢えて聞かない事にしていたのだけど」
「賢明ですね。もし半ば強制的に聞き出すようなことをするのならば国を出ようかとリンさんとお話していたところでしたので」
その言葉に「やはりか」と思うと同時に安堵した。
これらはアンデリックが知らなくてもいい事で母国とも言える国を外に持つ二人ならではの思考回路だ。
しかも今回の件で種族の輪が偶然にも活躍をした。以前ならば選択肢にすら入らなかった「国を出る」という強硬策が可能となる。セレスティナとしてもこの国にいるよりもアンデリックと共に世界をそれこそ自由に冒険した方が面白い。
「対価が怖いのだけれども」
「今回はお礼を兼ねていますので情報に対する対価は要求しません事よ? ただ……」
「「ただ? 」」
「今後ともよろしくお願いします、とだけですわ」
ニカァっと微笑むセレスティナを見て二人共彼女達を敵に回すのは本当に止めようと思うのであった。
そしてセレスティナがその詳細を話していく。
話を聞き王冠を被った男性——カルボ三世は安堵の顔を、その隣の青年ことエレク第一王子は顔を引き攣らせた。
「倒せてよかったわい」
「モンスターを召喚してそれを贄にして回復、か」
「大人数で当たれば倒せないことは無いと思うのですが……」
「やはりそこに気が付くか、セレスティナ嬢」
「ええ。あまりにも『弱すぎる』のです」
「伝承のカオス・ドラゴンは一夜にして大国を滅ぼしている。それを考えると、やはり『強い』が『倒せない』というレベルを超えないな」
「確かに毒や周りの者を行動不能にする力がありましたが対処できないほどではないです」
「セグ卿が英雄級の活躍をしたのは間違いない。それこそ時間をかけて王都まで進行されたらすぐに機能不全になるだろう」
「しかし聞く限りだとドラゴニカ王国と獣王国ならば対処できそうだね。この差は一体……」
三人とも頭に考えを巡らせる。
そしてここに来る以前に辿り着いた答えの一つをセレスティナは提示する。
「……素体となっていた魔人の能力にカオス・ドラゴンの能力が依存しているのでは? 」
「それはあるかもしれぬな」
「なら魔人を発見次第カオス・ドラゴンを発生させぬよう潰していくしかないのか」
「まぁ元々魔人自体発生するのが珍しいので、もし魔人からカオス・ドラゴンに派生するのが本来の発生条件ならば更に珍しいケースになるとは思いますが」
と、悩む二人に仮説を言った。
「と、なるとまずいね」
「ええ」
「なにがまずいのだ? 」
「確認されている魔人の能力はそれぞれバラバラです、父上」
「そうだな。確か魔人の能力は元となる邪教徒の欲望に起因する、と学者が仮説を唱えていたな」
「ええ。一番有名どころで言うと暴食系の異能——『暴食』と『保存』でしょうか。カオス・ドラゴンの能力がその魔人の能力に依存するのならば……」
「まさかその能力が引き継がれるとでも?! 有り得ぬ! いや有り得ていかぬ! 」
「話を聞いての推察だけど多分素体となった魔人は召喚士、だろうね」
「ええ、殿下。ワタクシもそう考えております。故に召喚と召喚したモンスターを贄にした超回復。これならば能力の弱さに理由がつきます」
「どういうことじゃ? 魔人であるのならば強いのでは? 」
「もちろん強かったです。しかし召喚士は召喚を得意とする魔人。他の魔人と比べて身体能力は低いのではないか、と」
カルボ三世は「むむむ」と唸りながら下を向き考え込んだ。
「加えて報告しておきたいことが」
「まだあるの?! 」
「ええ。実は魔人と戦闘になる前に我々は三体のSランクモンスターと交戦しました」
「何?! Sランクモンスターだと! 」
カオス・ドラゴンが発生する前に災害ともいえるSランクモンスターが出現していたことに驚くカルボ三世。
それを気にする様子もなくセレスティナは続けた。
「それぞれレッサー・リッチ、ドラゴニュートそしてハイ・ヴァンパイアでございます」
「なんと……」
「秘境や魔境じゃないんだから……」
「すでに討伐済みなのでご安心を。しかしこれにより新たな可能性が浮き彫りになりました」
それを聞き彼女を緊張した表情で見る二人。
二人が見守る中セレスティナは少し間をおいて、ついに口を開いた。
「魔人は一体ではなかったのではないか、ということです」
お読みいただきありがとうございます。
もしお気に召しましたら是非ブックマークへの登録や広告下にある★評価よろしくお願いします。




