第二十一話 怪しい受付嬢
「……達成報酬銭貨八枚よ」
青色の瞳が俺達を射貫いている。
有無を言わさないほどの威圧感を感じる。
だが、おかしい。
元の報酬は銭貨十枚。
確か、色を付けるといっていたはず。
手数料を引かれても、十枚行くと思っていたのだが。
「金額に何か問題でも? 」
「「い、いえ……」」
「もう今日は受付終了よ」
さぁ帰った、と言われ俺達は冒険者ギルドを出て銀狼へ戻るのであった。
★
銀狼二階、アンデリックの部屋。
「なぁケイロン、何かあの受付嬢おかしくないか? 」
「おかしいのは初めからだけど、確かに引っかかる、ね」
「だろ? 確かクマツさん達は「色を付ける」と言って、何やら書いていたよな。手数料を引かれたとしても、少なすぎな感じがするんだが……」
「確かに。だけどもしかしたら報酬の付与の段階で何かしらの料金が発生しているのかもしれない、ね」
「明日聞いてみるか? 」
「答えると思う? 」
「……言ってみただけだ」
はぁ、と二人顔を合わせ溜息をつく。
床の硬い感触をお尻で確かめながらも、どうしたものかと上を向く。
「それに、料金の増額は言わない方がいいかも、ね」
「なんでだ? 」
「もしかしたら暗黙の了解になっているだけで、ギルドにもクマツさん達にも不利益を与えるかもしれないからだよ」
「本当はやっちゃいけないってこと? 」
ケイロンが小さく頷く。
確かにそれならば言わない方が良いだろう。
だけど、なんかな……。
あの受付嬢に負けた気がする。
「何にしろ、明日また依頼を受けよう。僕達はFランク冒険者だ。回数稼いで地道にやるしかないよ」
確かに、それもそうだ。
安全策を取り過ぎな気もしなくはないが、まだ最初。
ゆっくりとやっていこう。
「じゃぁおやすみ」
「おう、おやすみ」
そう言い俺達は明日に向け眠りについた。
★
翌日俺達は冒険者ギルドへ向かった。
服装はいつもと同じ、ケイロンは白のシャツに青のブレザーそして黒のロングパンツ。俺は白いシャツにベージュの上着、茶色のロングパンツだ。
装備も同じでケイロンは細剣で俺は短剣を腰につけ、短杖を手に持っている。
ケイロンは更に腰にいつもと同じ小袋を下げているがこれはアイテムバックらしい。
昨日それを聞いた時は本当に驚いた。
しかし同時に納得だ。
この小荷物で旅が出来るはずがない。
そんなこんなでこの小袋にフェルーナさんが作ったお弁当が二人分入っている。
中身はまだ分からないが、開けるのが楽しみだ。
「さぁ今日は昨日よりも早く来た。依頼が残っていると良いんだが」
「早くいくよ」
そう言われ、ギルドの建物の中について行った。
閑話休題。
俺達の早起きは無駄だったようだ。
「この時間でも無理か……」
「早すぎだよ」
二人項垂れる。
昨日よりかは少ないが、それでも大きな塊が依頼を取り合っている。
一体この人達はいつからここにいるんだ?
今日もダメか、と思い塊が解散するまで待とうと思い奥にある机に座るために依頼ボードから離れようとした時、我らが専属受付嬢が声を上げた。
「貴方達、こっちに来なさい! 」
「「「え??? 」」」
全員が振り向く。
そのくらい彼女が声をかけるのが意外だった。
と、言うよりも『貴方達』って誰のこと?
「アンデリックとケイロンよ!!! さっさと来なさい! この愚図!!! 」
イラっとするも落ち着く。
落ち着けー、落ち着け。
隣を見る。
ケイロンも相当頭に来ているようだ。凍り付いた微笑みを向けている。
ケイロンも我慢してるんだ。落ち着け、俺。
ある程度ランク上げたらこのギルド出ていこう。
そうしよう、それがいい。
心に強く思いながら、彼女の元へ向かった。
その一瞬だけ冒険者達の塊が――割れる。
道中、冒険者達の憐みの目線が俺達を襲ったが、内心穏やかではない。
「もう、遅い! これだから田舎者は! 」
「……で、何でしょうか? 」
鋭い目線を向けながらも呼び出された内容を聞く。
我慢だ、我慢……。
ただの罵倒だ、罵倒。
怒った時の司祭様のお小言に比べれば……。
「何よその態度! せっかく私が依頼をとっておいてあげたのに! 」
「「え??? 」」
意外な言葉に俺達は呆けた。
「私は専属よ、専属! しても可笑しくないでしょ! 」
「た、確かにそうですが……」
口角を上げ、引き攣った顔で曖昧に答える。
言えない。
この人が仕事をするなんて思ってなかったなんて言えない!
「ちょっと待ってなさい」
そう言い彼女は受付台の下を探る。
専属受付嬢、時にはいい事するじゃないか!
何だ、これまで何かあるんじゃないかと疑って申し訳ないです!
俺達は徐々に表情を明るくする。
そして出してきた茶色い依頼書を見て、顔を凍り付かせた。
【薬草採取: スタミナ草を二十本】
★
俺達は今、町に入る時通った門を通り近くにある林に来ている。
背中には網籠を背負っている。
薬草採取に必要ということでギルドの備品を借りてきた。
本来なら事前に葉の形のような特徴を十分に確認したかったのだが、受付嬢が薬草の見本を持ってきて覚えるように押し付けた。
流石に憐れと思ったのか、先輩冒険者の一人が後から「この形の草以外、この周辺にはなにもないからよ。まぁ、その……頑張れ」とエールを送ってくれた。
「本当は地形や出現するモンスター、動物や野盗の履歴の様なものも調べたかったんだけど……」
「あれほど急かされたら、な……」
それを思い出し、気分が沈む。
「早くいきなさい! 沢山持って帰るのよ! 」と言いながら俺達は半ば追い出されるように建物を出た。
「俺達にはまだ早い依頼だと思うんだが……」
「僕もそう思うよ」
「だが専属が選んだだけあって俺達に拒否権は、ない」
「そうだね。それに報酬も銅貨一枚と他の依頼に比べて破格」
確かに報酬は破格だ。
銅貨一枚。
これは通常のFランク依頼の約十倍に相当するわけで。
しかしケイロンが言った通り、林に危険性があるかもしれない。
だから情報収集をしたかったのだが。
それに……。
「沢山と言われても、ね」
「依頼は二十本なんだがな……」
はぁ、と溜息をつき林を眺める。
彼女は一体なんなんだ。
受付にいていいタイプじゃないだろ……。
「切り替えよう! 」
顔を叩き、気合を入れた。
このまま依頼を受けても怪我をするだけだ。
「うん。このままじゃ埒が明かないね」
ケイロンも腰の細剣を握って、離しきりっとした目を林に向ける。
「早く終わらせて、帰ろう! 」
「ベットが僕達を待っている! 」
「「さぁ、やろう! 」」
こうして初めての薬草採取が始まるのであった。
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