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種族の輪 《サークル》 ~精霊術師は今日も巻き込まれる~  作者: 蒼田
第一章 安全マージンをとる冒険者
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第二十話 店番 三

 フェルーナさんの差し入れを食べ終え、午後の部を開始した。

 再開したのを察知(さっち)したのか、徐々(じょじょ)(れつ)ができ始める。


「こ、これはまずいな」

「え、僕また行かないといけないの?! 」


 悲痛(ひつう)そうな顔をしてこちらを向くケイロン。


「……すまない。貴君(きくん)犠牲(ぎせい)は……永遠に(かた)()がれるだろう」

「す、捨てないよね! またあの行列(ぎょうれつ)の中に捨てないよね! 」

「現実とは……無慈悲(むじひ)である。それは貴君(きくん)も知っているだろ? 」

「でも!!! 」

「大丈夫、死にはしないさ……タブン」

「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁ!!! 」


 こうして暴動(ぼうどう)を起こさせないため、ケイロンを(れつ)に投入した。

 彼が出ていくと同時に話()けられている。

 どうも市場(いちば)のマダム達は『美少年』に()えているようだ。


「「「いらっしゃい」」」


 ……黙祷(もくとう)

 

 (とうと)犠牲(ぎせい)を出しながらも俺は前の(れつ)(さば)く。

 受付と店の中を行き来する。


 そしてその時が(おとず)れる。

 

 在庫(ざいこ)がもうヤバい。


 ケイロンのおかげか、はたまた彼のせいか行列(ぎょうれつ)が出来る蜂蜜(はちみつ)店となってしまったこのお店。

 在庫(ざいこ)がないからと言って(れつ)解散(かいさん)させたらそれはそれで暴動(ぼうどう)が起こりそうな雰囲気(ふんいき)だ。。

 しかも市場(いちば)のおばちゃん達の恐ろしさはついさっき身に()みた所である。


 さて、どうしよう。


 一層(いっそう)の事完売(かんばい)した後『自由お(しゃべ)りタイム』をつくるか?

 ケイロンは嫌がるだろうが、それが一番無難(ぶなん)だろう。

 役割分担(ぶんたん)である。


「まずい、な」

「おう、何がヤバいんだ? 」


 独り()ちていたら、裏口(うらぐち)の方から声がした。

 反射的に見上げるとそこにはこの店の店主で俺達の雇い主——クマツさんがいた。


「お、こりゃすげぇ。朝だけでこれだけ売り(さば)いたのかよ」

「ほんとだね、これはすごい」


 その後ろからはベアおばさんもやってくる。

 二人は吃驚(びっくり)した様子で在庫を見ていた。


「今すぐ補給(ほきゅう)する。その間まで頼む」

「は、はい!!! 」


 こうして新たな蜂蜜(はちみつ)が届いた所で在庫(ざいこ)不足を解消(かいしょう)し、(れつ)(さば)ききったのだった。


 ★


「いやぁ助かったわ。今日はそんなに多い予定じゃなかったんだが、どういうことだ? 」

「それは……」


 クマツさんの純粋(じゅんすい)なその言葉に俺は口(ごも)り、ケイロンを見る。

 一人(なみだ)ぐみながら、目を赤くしている。


「悪かったって……」

「途中で変わってくれても良かったじゃないか」

「変わったら多分暴動(ぼうどう)になってたぞ……」

「それはそうだけど……」


 ベアおばさんがつけている帳簿(ちょうぼ)の手を止め、見上げた。


「今までで一番の売り上げだね、毎日来てほしいくらいだよ。本当に一体どんな手を使ったんだい? 」

「実は……」


 と、言い今日あったことをそのまま伝えた。


「あ~多分それはスラムの餓鬼(がき)共だね」

「スラム、ですか」

「そうだ。と言ってもこの町のスラムはそこまで大きくないが」


 俺達と目を合わせていたクマツさんが違う方向を見る。


時折(ときおり)物乞(ものご)いをしてくるんだが、な」

「それだけならまだかわいいもんだよ」

「今日のように迷惑をかけてくることがあるんだ。多分だが外から来たのだろう。この町のルールを知らねぇ」

物乞(ものご)いくらいなら、時には手を差し伸べるんだけど、ね。迷惑をかけられちゃぁダメだ。恐らくこの先その餓鬼(がき)共はくいっぱぐれるだろうよ」

「それにこの町のスラムの連中(れんちゅう)にも目を付けられるだろう。生きてやいけねぇ」


 しんみりとした雰囲気(ふんいき)の中、この町の事情(じじょう)を伝える夫妻。


「さぁ、こんな(くら)い話はここで終わりだよ! 」


 パン!!! と手を(たた)くと空気が(ふっ)しょくされた。

 同時に(すわ)っていたベアおばさんが立ち上がる。

 それに触発(しょくはつ)され俺達は顔を上げた。

 な、なんと豪快(ごうかい)な。


「今日これだけ売ってくれたんだ、少し報酬に(いろ)付けとくよ。受付で(もら)いな」

「「ありがとうございます!!! 」」

「よかったら、また受けておくれ。蜂蜜(はちみつ)がなくなりそうな時、また依頼を出す」


 それは素直に嬉しい。

 依頼書を渡すと、依頼達成のサインを書いている。

 それに何か追加で書いているようだ。

 何にせよ、自分達の仕事が評価されるのは(うれ)しいものだ。


 サインされた依頼書を受け取り、ケイロンが持っていた(ふくろ)に入れる。

 そして挨拶(あいさつ)をして帰ろうとしたとき――


「あぁ……そう言えば」


 と、クマツさんが言った。


 どうしました? とその足を止め話を聞く態勢(たいせい)に入る。


「いやぁ、山——養蜂所(ようほうじょ)の帰りに(イノシシ)をとってきたんだがよ。なんか……(イノシシ)が少ない気がして、な」

「そうだね。確かに少なかったような気がするね」

「まぁギルドや巡回(じゅんかい)騎士の(ほう)で異常を確認してないなら構わないんだが……」

「まぁ少ない時もある。気にしなくてもいいとは思うよ」


 じゃぁね、といい俺達は見送られた。

 その(ころ)にはもうすでに日が(かたむ)き始めていた。


 多少気になることもあったが、今回の依頼もおおむね完遂(かんすい)だ!

 

 ★


「くそっ! 一体なんだんだ! この町の奴らは!!! 」


 俺は壁に拳を叩きつけた。

 痛い……。

 だがそれ以上に今の状況が良くない。


「姉さん……」

「この町から出ましょう」

馬鹿(ばか)をいうな!!! これ以上町と町を動くともう持たねぇ!!! 」


 金がない……。

 (くや)し涙を流しながらも、俺は子分達を()れて夜道(よみち)を歩く。

 

 どこで間違ったのか……。

 ここにきて思い出す。


 村を出て冒険者になった。そこまではよかった。

 だがその後だ。

 あらぬ疑いをかけられてギルドに身包(みぐる)みはがされて放り出されたのは。

 くそっ! あのババア!!!

 今思い出しても腹が立つ!

 

 そして何年も町を行き来してここに辿(たど)り着いた。


 ふと俺の後ろについてきている子分を見る。

 これからの事を考えてか、顔色が悪い。


「ね、姉さん。俺達二人で話し合ったんだ」


 な、なんだ?

 そんな決心(けっしん)したような顔をして。


「姉さん、俺達を奴隷に落としてくれ」

「せめて姉さんだけでも……」

「ば、馬鹿(ばか)言っちゃいけねぇ!!! そんなこと、出来るか!!! 」


 こいつらは冒険者の時からの仲間だ。

 そんなことできる理由(わけ)ねぇ!!!


「だが、これじゃぁじり(ひん)だ」


 ガサ……。


「全員声を(しず)めろ!」


 瞬時(しゅんじ)に全員が声を(しず)めた。


「いいか、声を上げるな。そして動くな」


 声を(しず)め、指示をする。

 何年もスラムで生き、町を行きできたのは冒険者だった時の鋭い(かん)と冷静さのおかげだろう。


「なにか、来る」


 ゆっくりと……そう、ゆっくりと十字路(じゅうじろ)の向こうから人のようなものが出てくるのが見えた。

 何だ、あれは……大きい。


 見えたのは黒い魔女のような姿の者であった。

 しかし一般的な魔法使いの女、とは雰囲気が(こと)なる。


 ヤバい、あれはヤバい!!!


 そう直感で感じた瞬間「ヒィッ」と誰かが声を上げたのが聞こえる。

 その声の方を向くと、手を口にやり冷や汗が流れている子分がいた。


 背後に強烈(きょうれつ)な気配を感じ、振り向くとそこには俺達を見降ろす魔女がいる。


「お、おま……」

「貴方達は……いらない」


 声も上げられず、嫌な音を立てながら彼女達三人はこの()()った。

お読みいただきありがとうございます。

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新しく始めた異世界転生ものになります!
ハズレ枠の転生貧乏貴族は武姫を継承し最強へ至る
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