第二百九話 一方その頃カルボ王国の王城では 三
エレクが自身を題材とした本を黙認する方針を決定した翌日、彼は父であるカルボ三世と面会していた。
「首尾はどうじゃ? 」
「滞りなく行っていますが、正直しんどくはあります」
対面からの父の問いに素直に答えるエレク。
首尾よく実務を行っていたが、やはり慣れない仕事に疲れを感じているようだ。
父と同じく目に隈を作っている。
ここは王城のプライベート室。
煌びやかな調度品が置かれて彼らを照らす。
防犯の為か窓はない。しかしその代わりに光球や空気清浄、風操作に冷却の等様々な魔法が付与された魔道具が置かれていた。
その部屋で息子の答えに苦笑いしながらも口を開く。
「はは、わしの時もそうじゃったわい」
「そうなのですか? 」
「恐らくじゃが「無駄な会議が多い」とでも思っとるんじゃないか? 」
「……。まぁ」
図星を付かれて若干苦い顔をするエレクだがそれを見てもなお笑うカルボ三世。
「まぁそう邪険にしてやるな。会議でもやって引っ張り出さんとあいつら仕事をせんからの。仕事をせんからかといって無暗に王城勤務の者を解雇するのは良策ではない。大なり小なり国家機密を外に出すような物だからの。増える貴族に仕事を与えるのも国の役目と割り切るしかないだろう」
「しかし財源にも限界がありますので何か考えないと……」
「確かにそうじゃな。特に今年は悪い。国の経済が悪いわけではないのじゃが不測の事態が多すぎる。カオス・ドラゴン、とかの」
「……。復興に一体どのくらいかかるか、その予想金額を見ただけで心臓が止まりそうでしたよ」
「確かにあの金額は……。そうじゃな、なかったこともないが、かなりの金額じゃ。どうにかして金策を考えんとな」
そう言いながら丸い机のティーカップを口にする。
王子も疲れているのか少し椅子に背を預けた。
そして王が仕切り直した。
「で、見つかったか? 」
「疑わしい、のレベルを超えません」
「ま、会議にのうのうと現れるようではないか」
「逆手にとって会議に現れる可能性もあったのですが」
「粘り強く行くしかないの、反乱分子探しは」
彼らが言っているのは北方軍閥が開発し成功した音声拡大魔杖の事である。
短距離情報伝達方法なら指輪型の魔道具を使えば良い。
また固定した場所から固定した場所へ情報を送るのならば獣王国が導入している方法でもいい。
しかしいざ実践となった場合にそれらが軍として使えるかは不明だ。
戦場とは生き物で案外『大きな声』というのはそれだけで武器になる。
その発想の元造られたのが音声拡大魔杖であった。
ここカルボ王国は数世代戦争は無く、どちらかと言うと国内でのモンスター被害の方が多きい。
それに危機感を感じた北方軍閥が国に申し立て、大量の資金を投入し国家事業として開発したのがこの魔杖である。
カルボ三世がまだ王子の時から開発は進められ最近成功。
また開発の副産物として超短魔杖というのも開発され王家の護身用に使われている。無論これは国家機密であり情報を知っているのは開発関係者か王族か、それとも北方軍閥の上層部のどれか。
が、音楽旅団『カルボ・ファイブ』がそれを用いていた。
この事実が北方軍閥に裏切り者がいるのでは? という疑いの原因となっている。
「全く厄介なことをしてくれたものよの」
「……。ボク達が護衛に使っている超短魔杖も考え直さないといけませんね」
「有事の際にわしらが超短魔杖を持っている事が分かっているのと分かっていないのとでは全く違う」
「対策を練られるでしょうし」
「まず不意打ちが出来ん」
そう言うと「はぁ」と溜息をつき二人共項垂れた。
「そう言えば音楽旅団『カルボ・ファイブ』から何か情報は? 」
「賊と繋がっていた、ということ以上は何も出てこんかったの」
悔し気にそう言うカルボ三世。
カルボ・ファイブはもうすでにこの世にいない。
人気が高く暴動の危険性を考えた国は国民に告知せずひっそりと人知れず処刑した。
もちろん罪状は誘拐である。
幾ら人気が高いと言っても平民貴族問わず拉致したのである。
あれだけの事をやって無罪ならばその国は恐らく暗黒都市とでも呼ばれるだろう。
「……。少しセグ卿を動かすか」
「彼を、ですか」
うむ、と軽く頷きカルボ三世は続けた。
「勲章に加え、役職を与えて少し国内外を回ってもらおう」
「外も? 」
「先日からカイゼルが「はよ、婿殿をこっちに来させろ」と煩いんじゃ」
その遠い目を見て「多分カオス・ドラゴンの事がバレたのかな」と思いあの戦闘狂達の顔を思い出し苦笑するエレク。
密偵の事は暗黙の了解になっている為カルボ三世の元に送られた手紙には「娘の里帰りをさせたいのだが? 」とか「早々に爵位を与えたいので獣王国へ来てほしい」と書かれていた。
タイミングからして『カオス・ドラゴン』の事でアンデリックと戦いたくてうずうずしている者が多いのを想像しながら心の中で無事を祈ったエレクであった。
「ならば追加人員で文官と武官が必要でしょう」
「ああ、それも考えている。国内を回るのもそうだが獣王国の事も考慮に入れると腕が立つ者の方がい良い。それを踏まえて人選しよう」
「しかし冒険者業に専念するように言っているのですが大丈夫で? 」
「……。これほどの結果を出したのだ。先日も宰相と相談していたのだが「自由に動ける官職」というのを例外的に作るほかあるまい」
「例外を作ると後が厄介では? 」
「今後この国が滅びるまでにカオス・ドラゴン以上の災害が出てくると思うか? 」
そう言われ、首を横に振り「ないですね」と呟く。
「セグ卿が動けばそれに連動して他の者動くだろう」
「囮にするのですか? 」
少し眉を顰めながらも父に聞くエレク。
だがそれを否定し言い直した。
「官職がつく以外は今まで通り。後は、そうだな。城の中の働いてない者に給料分は働いてもらおう」
「……。反発が大きそうですね」
前回から会議に出ているエレクは口論をする貴族達を思い浮かべて疲れた顔をする。
この判断が吉と出るのか凶と出るのかはまだわからない。
しかしアンデリック達を中心としてこの国に変化が訪れようとしているのは確かであった。
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