第百九十五話 種族の輪 《サークル》 一 vs ドラゴニュート
「吾輩の霧を吹き飛ばすとは、何者! 」
「何者と言われても……」
「わははは、我が名はエルベルだ! 控えろ! 」
「名乗るなバカが。にしても自分で確かめればいいんじゃねぇか? 」
顔に槌の焼印を作り吹き飛んだドラゴニュート。
しかし一向に起きてくる気配がなかった。
俺達が何者かと聞くが、そもそも起きて自分で確認すればいいんじゃないだろうか?
「あいつはドラゴニュート。Sランクモンスターだ」
体中に血を滲ませているガルムさん。
恐らく銀狼卿と同じような上限解放を使ったのだろう。
体中に毛が生えている。
銀色のふさふさな毛は血でぬれており痛ましい事に。
許せん! モフモフをいじめる奴は!
「左様。吾輩ドラゴニュート。邪神様への供物を取りに来た者でございます。シュルルルル」
自己紹介しながらむくりと立ち上がる緑鱗の魔人型モンスター。
ドラゴニュート、か。
確か人型ドラゴンとギルドの資料に書いていたな。
しかし何でここにこんな大物が?
「邪神の供物ってのは……」
「その後ろに控えている人である。貴様らを排除した後丁重に捧げるにして」
「くそったれが」
「……さっきから吾輩のことを「クソ」呼ばわりとは不敬甚だしい。その罪、死をもって贖ってもらいますぞ」
ドラゴニュートはそれと同時に霧を発生させた。
一瞬にして視界を奪われるが対処は簡単。
「「風よ! 」」
同時に俺とエルベルが精霊魔法を使い突風を引き起こし霧を除去する。
こちらに切りかかろうとしていたのか大剣を俺に振りかざしていたが――
「む、これは……」
攻撃は反れてスミナの大盾にぶつかった。
事前にスミナが攻撃誘導をかけていたおかげだ。
一瞬隙が生まれてそこにすかさず俺が妖精剣で切りかかる。
「重撃! 」
「笑止! 」
ドラゴニュートは防がれた剣を体を反転させて後ろから切りかかる俺の剣とぶつけて、防ぐ。
が、その後ろからエルベルの風の矢が飛んできて頭にヒットし、のけぞった。
「重撃! 」
「まだ! 」
余程痛かったのか頭に手をやっていたがそこにすかさず俺が追撃をする。
ふらふらしているにもかかわらず剣を前に出して俺の重撃は防がれた。
中々に反応速度が速い。
「シュルルルル」
ドラゴニュートは態勢を立て直し大剣を構え直す。
今もエルベルが後方から風の矢で攻撃をしているが当たらない。
右に左に移動して的にならないように動き回っている。
「速度勝負と行きますか。スミナ、エルベルを任せた! 」
「おう! 攻撃誘導」
「エルベル、少し目を閉じろ」
彼女の返事を聞き自身に時の精霊を纏わせる。
「加速! 」
キィィィン!
「なっ! どうやって吾輩を捉えて」
「その速度に追いつければこっちのもんだ。重撃! 」
剣と剣が交差する。
高速移動しながら相手に切りつけカウンターを食らう前に連撃で攻撃する。
とめどない攻撃を与えていると相手の腕を切り裂き血飛沫が舞った。
★
「少し見ないうちに強くなりやがって」
高速移動しながら攻撃するアンデリックを見て独り言ちた。
確かにガルム一人では幻影の霧を晴らせず四苦八苦していた。
しかしガルムが霧なしでもあのスピードで戦えると言われると難しいところである。
「しかしあれは……精霊の加護の力か? 」
急激な成長。
ガルムにはこれしか心当たりがなかった。
実際精霊の加護のおかげでこのスピードや摩訶不思議な背後の取り方をしているので正解ではあるが。
だが同時にその危険性も思いつく。
「今度は、加護の力を使わさずに叩きのめさねぇとな」
そう呟きながらも目の前の戦闘を頼もしく見ていた。
★
「……吾輩侮られることが嫌いですが、侮ることも嫌いです」
「自分に嫌気でもさしたか? 」
「然り。よってここからは本気で参りましょう」
大剣を構えたままそう言うと爆発的な魔力の増大が見られた。
その魔力の嵐に俺達は驚き一瞬怯む。
「我らのような信心深い邪神様の信徒となると自身の魔力を魔核にため込むなど容易い」
解放した魔力がどんどんと敵の体を纏っていく。
それに呼応するかのように体が肥大化していった。
背中からは翼が生え、硬質な爪のような物も見えてくる。
「刮目せよ! これが我らドラゴニュートの真の姿! 」
そこに現れたのは一体のグリーン・ドラゴンであった。
ドラゴン。
これは災害と呼ばれるSランクに相当するモンスターである。
しかしそれは半分正しく半分間違いである。
まずレッサー・ドラゴンは大国、もしくはいくつもの国が軍を派遣し甚大な被害を出しながら倒すことができる。
もちろんレッサー・ドラゴンの種類にもよるが英雄と呼ばれる者がいなくても大量の人的資源と物資をしようすれば勝てないことは無い。
通常のドラゴンと呼ばれるのはこのSランクのレッサー・ドラゴンである。
SランクにしてSランクにあらず。
レッサー・ドラゴンは「倒せる」という分類でSランクに捻じ込んでいるだけで他のSランクとは一線を画す。
ではそれ以上のドラゴンはどうだろうか。
例として確認されているものでエンシェント・ドラゴンは人魔大戦時に出現が確認されたが五つある大陸の内一つを滅ぼし今もなおどこかに潜んでいるという。
色によってもその特性や脅威度は異なる。
もっとも凶暴とされるのはレッド・ドラゴンだ。大人しいのはブルー・ドラゴンだろうか。
何にせよ「ドラゴンに出会ったら即逃げよ」。
これが鉄則である。
逃げれない場合は……。
「デカいな……」
「的が大きくなったともいう。跳躍! 」
「ちび、デカいのを打ち込む攻撃を耐えろ! 」
「ドワーフを入れることすら億劫になりやがった! ちっ! しくじったら後で説教だ! 」
エルベルが集中しだすとスミナが盾を構えて挑発を繰り出している。
若干それに金色の瞳が向くも気にせずに跳躍して翼を切り落とそうとした俺を尻尾で薙ぎ払った。
「ケハッ! 」
建物にぶつかり衝撃で肺から空気が漏れる。
『吾輩、もう侮りませぬゆえ。これにて失敬』
ケホッ! ケホッ! とせき込んでいる所にドラゴンの牙が俺を貫こうと近寄っていた。
「そうはさせるかよ! 盾突撃!!! 」
ゴン!!!
俺の前を大盾を構えたままドラゴンの顔面に突撃するスミナが通り過ぎた。
大きな音を立てながらぶつかるがダメージになっていない。
少しよろめいただけだった。
「スミナ! 」
『この程度』
「全く、さっき任せろと言ったのは誰だ? 」
声がする方向を見ると精霊弓を構えて一帯を眩しいくらいに小精霊で光らせているエルベルがいた。
「死ね! 真空乱舞刃! 」
放たれた精霊魔法はグリーン・ドラゴンに当たり傷をつける。
『たかがこの……ぐぬ? 』
その体の大きさからしたら小さな傷であったがそこから傷が増えていく。
傷の内側に入った真空刃は暴れまわり分裂し暴れ周りの組織を破壊していった。
『ぐぉぉぉぉ! おのれ! 』
痛みのせいかさっきまでの余裕の口調が崩れている。
そして口を開きこちらに向けた。
『お前達さえ来なければ、邪神様に大量の供物を捧げれたものを! 許さぬ。灰も残らず焼き尽くしてやる! 』
「ブレスか! 」
「火をふくあれか?! 」
口を開け徐々に赤みを帯びていく。
火、か。
モンスターが放つ火でも使えるのだろうか。
いや、やらないと死ぬな、これは。
『消え去れぇぇぇ! 』
「火の精霊よ」
精霊剣から火の小精霊が放出される。
小精霊はドラゴンがはいた火を包み込み――彼らは俺の指示をまった。
出来るじゃないか。
なら!
「大跳躍! 」
『なんだ、なんだそれは! 』
相手は目を見開き俺の剣を見て口を開け驚く。
「火炎竜斬! 」
ブレスの炎を纏った精霊剣は残火を作りながら上から切りつけ首を落とした。
「終わったな……」
「こっちはな」
「向こうはどうだろう? 」
「おおーい」
「アンデリック。何か巨大な物が……ド、ドラゴン!!! こ、このような研究資料が! 」
「落ち着いてティナ! 」
「貴方、大丈夫ですか」
「フェルーナか。こっちは、まぁ見ての通りだ」
ドラゴンを見上げているとケイロン達がやってきた。
どうやらフェルーナさんも一緒のようだ。
セレスが若干暴走している中、ガルムさんと抱き合っている。
お熱い事で。
「じゃぁ、俺達はリンの所へ行こう」
「「「うん (おう)! 」」」
こうして俺達は護衛番のリンとエリシャの元へ向かった。
ちゃっかりドラゴン達を大袋にしまって。
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