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種族の輪 《サークル》 ~精霊術師は今日も巻き込まれる~  作者: 蒼田
第五章 カルボ王国の激震 下 種族の輪 《サークル》
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第百八十二話 解けた誤解

「な! (わらわ)はヴァンパイアではない」

「嘘をつくな! その牙! 言い逃れできないぞ! 」


 ヴァンパイア呼ばわりされたエリシャが大きな声で反論する。

 先頭の男の後ろでニヤニヤとこっちを見ている見覚(みおぼ)えのある冒険者集団が。

 あいつら……。

 しかし剣士の男がいない。どうしたんだ?


奇人の輪(サークル)! 今すぐそこをどけ! でないと貴様らも攻撃対象になる! 」

阿保(あほう)ですか。本当に、阿保(あほう)ですか。どう見ても高位吸血鬼族でしょう」

「何をいう! 不浄(ふじょう)なるものを討伐するのは我々冒険者の役目(やくめ)。貴様らまさかもうすでに従僕(じゅうぼく)にされたのか! 」

「こいつら聞く耳持たねぇな。どうする? 」

「ぶっ飛ばそうぜ! 空のかなたまで! 」

「余計なことを言うな。そうでなくても厄介なんだし」

「しかし、向こうは攻撃する気満々(まんまん)なようだぜ? 」

「イラつくが、受け身に回ろうか」

「あいよ」


 顔を赤くしてこちらを(にら)む大剣を持った獣人族の冒険者。

 後ろには他の剣士や神官、魔法使いが(ひか)えていた。

 ランクは分からないが総勢十名ほどってとこか。


「仕方ねぇ、奴らごとやっちまうぜ。野郎共! 」

「「「おう! 」」」


 やる気満々のようだ。

 全員がこちらに武器を構えた。


「はぁ……乗り気じゃないが」

「仕方ねぇだろ」

同胞(どうほう)を攻撃しようとするとはっ! 下賎(げせん)な奴らめ! 」

真祖(しんそ)からすれば確かに下賎(げせん)なのだがそれを口に出したらダメだろ、エルベル」

「アン、お前も出してるぞ」

「おっといけねぇ」


 そう言いながらスミナが大盾を構え攻撃誘導を発動させる。

 俺は精霊剣をエルベルは精霊弓を前に構えて準備した。


「うてぇー! 」

「「風の盾よ」」


 相手が魔法を放った瞬間俺とエルベルが風の盾をスミナの前に作り魔法を防ぐ。


 ド、ド、ド……。


 と、いう音がする。

 エルベルの風の盾を見るとかなり分厚(ぶあつ)い。

 俺は何重(なんじゅう)にもかけているのが一枚ですんでいる。

 ちょっと自信無くすな。


「なぁこれワタシいったか? 」

「そりゃぁ大盾構えて攻撃誘導してもらわないと、盾をはる場所を限定できないし」

「でもよ、これはこれで盾役として自信を無くすんだが」

「それよりあの獣人族の冒険者。あれだけいきってて自分で攻撃に来ないとは」

(きも)っ玉のちぃせぇ奴だ」

「な、な、な……。このぉ! 」


 指示を出すだけで魔法だよりな大剣使いを見て(あき)れた。

 すると一気に顔が赤くなりボルテージが上がったようだ。

 大剣を構え直してこっちに()み込もうとしている。


「そこまでだ!!! 」


 聞き(おぼ)えのある大きな声が俺達の方へ(とど)いた。


 ★


「何をしている! 」

「ぐん……ケリーさん! ヴァンパイアですぜ! 」


 声の方をみるとやはり有角魔族のケリーさんだった。

 黒スーツの職員服のまま山を(のぼ)ってきたのか少し服に傷が入っている。

 ケリーさんの方を向いた獣人冒険者が状況を訴えた。


「ヴァンパイア? 吸血鬼族じゃねぇか! てめぇら! 何してやがる! 」

「え? 」

「いえ、ヴァン……」

「魔族の中でも貴族と呼ばれる高位吸血鬼族とヴァンパイアを間違えるだと! お前らは馬鹿(ばか)か! 」


 それを聞きやっと状況を理解したのか全員の顔が青ざめる。

 魔族の『貴族』。

 これが意味するところを知ったのだろう。

 しかし俺達はきちんと言ったのにな。


 なんやかんやでDランクとはいえ()け出しの冒険者のいうことよりも、元冒険者のギルド職員が言うことの方が説得力があるってことか。

 分かるが、納得できぬ。


 ケリーさんから女神官の方へ視線を移すと顔が真っ青を通り越して白くなっていた。

 いや、だからいったじゃん。

 まずいことになるって。


「お、アンデリック達じゃねぇか。そっちの吸血鬼族を(かば)ってくれてたのか? 」

「ええ」

「それはありがてぇ。だがよ、こいつらに言ってくれても良かったじゃねぇか」

「何回も言いましたよ? 吸血鬼族だって。それにそこで顔を白くしている女神官には「まずいことになる」っていいました」

「ああ、そうだな。それの「ギルドに確認に行く」と言って出ていったはずだが」

「どういうことだ? 」


 ギロリ、と女神官の方へ瞳を向けるケリーさん。

 ()み出る覇気のようなもののせいか、その顔のせいか女神官は腰をぬかしてへたり込み……。そこから先は本人の名誉(めいよ)の為に言わないでおこう。


「い、言ってない。そんなこと、奇人の輪(サークル)達は言ってない! 」

「ここまで往生際(おうじょうぎわ)が悪いと逆に清々(すがすが)しいな」

「そういやあの剣士どうしたんだ? 」

「剣士? こりゃぁ何かありそうだな」


 そう言い(あご)に手をやるケリーさん。

 威圧(いあつ)をしたまま考えているせいか周りに冒険者達の顔色が悪い。

 男性女性関わらずちびっている。

 うう……。臭いが。


「ケリーさん。一先(ひとま)ずギルドに帰って事情を調べたらどうですか? 」

「……。そうだな、ここで考えていても仕方ないな。全員一旦(いったん)ギルドに戻れ! 途中で逃げ出すことは許さんぞ? 」


 ケリーさんが一喝(いっかつ)すると彼を筆頭(ひっとう)に山を降りていく。

 俺達もついて行き、冒険者ギルドへ向かうのであった。


 ★


「今度は何やらかしたんですか? まさか幼女誘拐(ゆうかい)?! 」

「違いますよ。吸血鬼族を保護したんです」


 ギルドの中に入りケリーさんが俺達に攻撃してきた冒険者達を訓練場へ連れて行くと俺とエルベル、スミナとエリシャは受付で待機になった。

 犯罪者のように連れて行かれる冒険者達の様子をみてすかさずケイロンとセレスの友人であるアルビナが俺達に事情を聞きに来た。


 俺達が事情を話している間、エリシャはお客さん(あつか)いで干し肉のようなものを(かじ)っている。

 小さな口でモグモグとしている様子はリスの様でかわいい。

 変人だけれども。


「はぁ~それでこの騒ぎですか。しかし火種(ひだね)はあの女神官の様ですね」

「問題児なのか? 」

「アンデリックさん達とは別の方向で問題児です」

「さらっとワタシ達を問題児(あつか)いすんじゃねぇ」

「そうだ。問題児はエルベルとセレスだけだ」

「……自覚(じかく)がないのが困りものですが、まぁ今回はいいです」


 溜息(ためいき)をつきながら受付()しに俺達を見た。

 その眼はどこか冷ややかなようだったが、気のせいだろう。


「彼女は、何というか王都で人気の高い神官なんです。主に冒険者に」

「優秀なのか? 」

「人気の理由はそこではありません。主に外見、ですね」

「そうか? そこまで美人には感じないが」

「アンデリックさん。ケイロンやセレス、それにリン殿下やスミナさんそしてエルベルさんに(かこ)まれて感性(かんせい)(にぶ)っているだけですよ。彼女は十分に美人の(たぐい)です」


 そうなのか……。

 彼女の姿を思い出すも、あまり思い出せない。

 というか特徴がなさ過ぎてよくわからない。


「なんでもその人気を使って他の冒険者に(みつ)がせているようで」

「ギルドは何かしないのか? 」

「できませんね。完全にプライベートな事になるので。で、今回義憤(ぎふん)()られたのか、名声がほしかったのか分かりませんが彼女をヴァンパイアと言いはって冒険者達を引き連れて森へ行ったようです」

「それを知ったケリーさんがすぐさま引き戻しに来たってこと? 」

「恐らくは。しかし少し知識があればわかる事なのですが……完全に犯罪ですよ」


 はぁ~、とだらりと腕を受付台に伸ばすアルビナ。

 上司がいない所でこうして休んでいるのだろう。

 もっとも、今その上司がいないかと言うとそう言うわけではないが。


「アルビナ……何してんだ? 」

「はぃ! すみません、すみません! 休んでなどおりません! 」


 声に反応して一気に背筋を伸ばすアルビナ。

 それを(あき)れ顔で見ながら俺達の方へケリーさんは顔を向け、口を開いた。


「あ~うちのギルマスが話があるってな」


 厄介事(やっかいごと)かよ!

お読みいただきありがとうございます。

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