第百八十一話 共鳴する真祖
「や、やめるのじゃ。妾にそんな趣味はない! 」
「精霊様がいるぅ! ひょっひょっひょっ」
「退くのじゃ、退くのじゃ、妾は混沌より生まれし高貴なる王ぞ! 」
真祖の吸血鬼族ことエリシャにエルベルが飛びつき大変なことになっている。
エルベルが馬なりになってエリシャという少女の姿をした吸血鬼族を襲っていた。
変態である。
「なぁあれ止めなくていいのか? 」
「止めれるのか? 」
「わりぃ、愚問だった」
スミナと話していたが酷い光景である。
剣士の剣を掴んでいたことからかなりの剛腕である事がわかるが、エルベルはからめ手を使ってエリシャに襲い掛かっている。
エルベルの顔に小さな手をやり必死に引き剥がそうとしているが剥がせないようだ。
「にしても精霊ってどういうことだ? 俺には視えないんだが」
「一瞬気配はしたが消えてしまった」
「それをエルベルが視てしまった、というわけか」
「お、おい、そこの者ども。この森の民を離してくれ! 」
「隠れたって無駄だよぉ、精霊ちゃん」
「お、お主が変なことするから深淵に帰ったわ! 」
独特な言い回しをする子だな。
いや、『子』という表現は違うかもしれない。
長命種は見かけで判断できないからな。
しかしこのままではいけないのも確か。
「駄乳エルフに近付いてどうするんだ? 」
「このままはいかんでしょう。止める」
スタスタスタと近寄り野獣のような瞳で小さな子を襲うエルベルの後ろに。
涙目でこちらを見上げる少女に口から、分泌液を出して体をまさぐり精霊を出そうとするエルベル。
普通に犯罪だな。
「沈静化の手刀」
「げふっ! 」
脳天一撃チョップをくらわすとエルベルはそのままエリシャの方へ倒れ込み気を失った。
「悪い、パーティーの恥部が」
「ほ、本当に怖かったのじゃ」
腰を抜かす彼女に手を差し伸べる。
細く白い手を握り、引き上げて立たせる。
「馬鹿がすまねぇ。ワタシはスミナだ。見ての通りドワーフ族」
「俺はアンデリックだ。一応この国の貴族で人族だ」
「妾は、我はエリシャ・アマルディアだ! 」
胸を張り、再度自己紹介するエリシャ。
するとガバッ! という音を立てながらエルベルが起きてエリシャの方を向く。
「我が名がエルベル。タウの森に生まれし、精霊に愛されし子! 」
「ひっ! 」
変態が起きたようだ。
ポーズを取りながら自己紹介をしていた。
結構強めにチョップを入れたんだが慣れてきたのか? 起きるのが早くなっている。
「怯えているからもうやめろよ」
「わ、分かった。いつの間にか精霊様の気配が無くなっているしな」
起きたエルベルを少し見上げて注意する。
可哀そうに。エリシャを見ると少し震えているじゃないか。
しかし、どうしたのだろうか。チラチラとエルベルの方を見ている。
「も、森の民よ。そなたは神の御使いの力を得たのか! 」
「もちろん! 我はその力により大いなる風となるのだ! 」
神の御使い? 精霊の事か?
しかしエルベルもノリノリだな。
そしてエリシャは「ほわぁぁぁぁ」と口から漏らしながらエルベルを見上げて目を輝かせている。
さっきまでの恐怖はどこへ行った?
いや待て。これってもしかして……またエルベルの同族か?!
が……。何とも思わない。
「どうした、アン。目に手をやって」
「慣れって、恐ろしいと感じてな」
「慣れ? ああ……ああぁ……。いつの間にか、ワタシも慣れちまったようだ」
「なんでかな。俺この後の展開がわかる」
「ワタシもだ」
二人は気があったのかかなり特殊な言い回しをしながら話していた。
時々大袈裟なポーズをとっているのが、痛い。
この場にいるのが俺達だけで本当に良かったと思った瞬間だった。
閑話休題。
「エリシャは、その……。本当に真祖なのか? 」
「ふぇ? そ、そうである! 」
「……。普通に話してください」
「ううう……。そうなのだ。と言っても最近起きたばかりなのじゃが」
「起きた? 」
自己紹介も終わりまずエリシャの事を聞くことに。
なにせこの後恐らくギルドの職員を引き連れてあいつらがやってくる。
その前に何か聞き出しておいた方がい良いだろうということだ。
「妾は神殿で眠っていたのじゃ」
「眠っていた? それで起きた、と」
うむ、と言いどこか不安げな顔で小さく頷く。
『妾』は常備なのね。
「妾達のような長命種は寿命が近づくと定期的に休眠するのじゃが、妾は少し事情があって幼い時強制的に休眠したのじゃ」
そう言いながら少し顔を曇らせる。
何かあったのだろう。
これは聞かないべきだな。
「長命種は休眠するのか? 」
「そうだな。森の長老とかも起きたり眠ったりらしいぞ? 」
「俺達ドワーフ族はあまり、だな。寿命によって変わるらしいが……」
なるほど、長命種と一括りに言ってもそれぞれ違うらしい。
「妾を起こした者はこっちに種族の偏見のない国があると言っていたのじゃが……」
顔を上にあげておずおずと聞いて来た。
起こした者? 強制的に起こされたわけか。
少し不安げな彼女の顔を見て赤い瞳を見つめて答える。
「この周辺にある国は獣王国『ビスト』、龍人が治める国『ドラゴニカ王国』、幾つか向こうまで行けば『大和皇国』があるが」
「多分その人ってのが言ってたのはここ『カルボ王国』だろう」
「ほ、本当か? 今さっき襲われたんじゃが」
「吸血鬼族は珍しいから間違えたんだろう。俺も一回しか会ったことないしな」
「それで誤った知識を持った冒険者が襲い掛かったってわけだ」
そうなのか、と溜息をつきながら座り込む少女。
全く少女を見て襲い掛かるなんて何て奴らだ。
ギルドが聞くと怒るだろうな。
あ、今さっきまで襲っていたやつもいたか。気が合ったらしいが。
早く来ないかな、と思いながら下の方を見ているとエルベルが何か感知したようだ。
「なんか大勢の人が来るぞ? 」
「大勢? 騎士か? 」
「いや、冒険者だろう。装備がバラバラだ」
「ど、同胞は神の御使いの力を使って相手を丸裸にすることが出来るのか?! 」
「ふふふ、驚け! 風の、精霊よ! 」
ぶわぁっとエルベルの精霊弓から光が拡散した。
エルベルの感性が琴線に触れたのかエリシャはいつの間にか彼女の事を同胞と呼んでる。
エルベルもまんざらではない様子でいつもよりも強めに探知していた。
ポーズを取りながら。
あれだ。混ぜるな危険だ、これ。
「おい、いたぞ。ヴァンパイアだ! 」
エルベルが冒険者集団がやってくるのを感知して「まさか」と思い剣を構えて警戒し待ち受けていると、リーダーらしき先頭を歩く人がこっちを向いて確かにそう言った。
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