第百八十話 エンカウント
「しかし倒しても倒してもよくこんなに出てくるな」
俺がモンスター達の死骸を燃やしている時にスミナがそうぼやいた。
俺達は今ギルドの討伐依頼を受けて王都南の森へ来ている。
メンバーは俺とスミナそしてエルベルの三人だ。
他三人は屋敷でお留守番。
セレスは転移魔法を使えるように張り切り、リンとケイロンはちょっとした用事を。
討伐依頼ということで前衛がスミナだけだと不安だった為今回俺が同行している。
「昔の人は『人がいるところモンスターあり』とはよくいったものだ」
「うまい例えだな」
火を見ながらそう言いスミナ達を見上げながら立ち上がる。
するとエルベルが何かに気が付いたようで少し険しい顔をした。
「オレの探知に何か引っかかったぞ? 」
「俺の気配感知は全然だ」
「悔しいがワタシもだ」
「相変わらず出鱈目な探知範囲だな。で、何がいるかわかるか? 」
最近になってエルベルは探知対象の詳細がわかるようになってきた。
試練の影響かそれとも経験を積んだおかげかは分からないが嬉しい事ではある。
実際俺も同じようにしてみようとしたが全然ダメ。
やはり探知系はエルベルが一番だ。
「相手は人だな。声がする」
「人語を話すモンスターという可能性は? 」
「有り得なくはないが……この周辺に確認されたことがあるか? 」
「ないな」
人語を話すモンスターというのは実際にいる。
最も有名どころだとヴァンパイアだろうか。
Bランク以上になると稀に出来るらしいのだがあったことは無い。
ギルドの資料でこの周辺のモンスターを調べたことはあるが過去に数回程度しかない。
それほどに稀少、ということだ。
「なら、放置で大丈夫だろう。大方依頼でもこなしているんじゃないか? 」
「いや、それがどうもおかしい」
エルベルが少し顔を歪め長い耳を少しピクピクさせた。
どうやら音も拾っているようだ。
本当に多彩な探知になったな。
「戦闘音——金属音と……誤解? むむむ、ここからは分からん! 」
「放っておくべきか? 」
「それが最善だと思うが、決めるのはリーダーのアンだ」
スミナが俺を見上げて判断を委ねてきた。
少し上を向き考える。
冒険者同士のいざこざなら放っておくべきだろう。
しかしこれが冒険者による犯罪なら放っておけない。
ギルド内にある規律に基づいた処罰を与えることになるからだ。
少し前にそれが実行されたばかりだから何かしでかすとは思わないが……。
「近くまで行って様子を見るか」
「了解」
「よし来た! 」
もしも、を考え俺達はモンスターを焼き終え、鎮火して移動するのであった。
★
「このヴァンパイアめ! 」
「不浄なるアンデットよ、消え去りなさい! 死者送還! 」
「じゃから妾はヴァンパイアではない! 」
青白い光に包まれながらエリシャは迫ってくる剣士の剣を片腕で受け止める。
受け止めた衝撃で草木が揺れた。
彼女——エリシャはあの後国王の言葉通りに東方を目指した。彼女の種族特性のおかげで尋常ではないスピードでこのカルボ王国へと辿り着いたのだが運悪く着地するところを冒険者に見られてしまったのだ。
上空から襲い掛かる魔人型モンスターと間違われて攻撃を受けることに。
そしてその腕力や八重歯からヴァンパイアと間違われて今襲われている所である。
彼の王が言っていたのはここじゃなかったのかの?
そう彼女が疑問に持つのも不思議ではない。
「その剛腕と牙が何よりの証拠だ! 」
「たかがこの程度の曲芸を止めたくらいで何をいきり立つ? 」
「この! 」
戦士の男が力を込めているようだがエリシャの力には遠く及ばない。
逆にミシミシミシと剣が音を立てだす。
これはまずいと思ったのか剣を引き戻し神官達がいる方向まで飛びのいた。
「なんで死者送還が効かないの?! 」
「聞いたことがある! 高位のヴァンパイアには単なる死者送還は効かないって! 」
「じゃ~か~ら、妾はヴァンパイアではない」
「何をしている!!! 」
エリシャが何とか説得しようとすると女性二人を連れた男剣士が彼女の前に現れた。
★
「これは一体どういう状況だ? 」
「げ、奇人の輪! 」
「誰が奇人だ! 種族の輪だ、種族! 」
少女と対峙する剣士達を見て一喝した。
何て失礼な剣士だ、全く。
確かに奇人は多いが、全員ではない。
剣士から目をずらして全体を見渡す。
「なるほど、ついに冒険者も違法奴隷商に落ちたというわけか」
「嘆かわしいぜ、わたしゃぁ同業者として恥ずかしい」
「ち、違うわよ。Dランクとはいえ貴方も冒険者なら手を貸しなさい」
「相手はヴァンパイアだ! それも死者送還が効かないかなり高位の! 」
そう言われリンと同じくらいの背丈の少女を見た。
彼女は真っ黒くフリフリのレースが付いた服を着ている。
長い金髪を伴った頭には黒をベースとした白い縁がついたカチューシャのようなものが。
攻撃を受けたのか少しばかし服に傷が。
幼く見えるが瞳は赤く口元をみると確かに発達した八重歯はあるが……。
「……。吸血鬼族じゃないか」
「何言ってるのよ! 日中活動できるヴァンパイアもいるでしょう! 」
「早くしないと王都がまずいことになる! さぁ手を貸すんだ」
「いや、普通に高位の吸血鬼族じゃないか? 高位ヴァンパイアだったら日中歩くだけでも灰になるだろ? 」
「そんなことはっ! 」
突っかかってくる神官を冷たい目線で見る。
先入観が酷いな。
確かにヴァンパイアと吸血鬼族は間違えられやすい。
しかしアンデットと一緒にするのはかわいそうだ。
どうにかして説得しないと。
「俺達がここでこの子を見ているから確認しに行けばいいんじゃないか? 」
「私達の手柄を横取りするつもり?! 」
「そんなことは無い。というよりもこの子は確実に高位の吸血鬼族だ。人族の序列とは異なって吸血鬼族には吸血鬼族の序列がある。冒険者が彼女と敵対したとしたら……かなりまずいぞ? 」
少し強めに言葉を放つと一歩二歩後退る。
しかし神官の子がまだ食いついて来ようとしていた。
が、剣士の男が「もしも」もまずさに気が付いたのだろう。
法衣の女の子を止めてこっちを見た。
「ここで待ってるんだ。いいか、絶対に動くなよ! 」
「ああ、分かった、分かった」
俺が了解すると彼らは走って森を抜けて行ったようだ。
エルベルが精霊魔法で追跡するかと聞いてきたがやめておいた。
流石のエルベルでも冒険者ギルドまで追跡は出来ないだろうからだ。
にしても……。
「君が誰か教えてくれるか? 」
「ククク、我の真名を知りたいか? 」
今まで大人しくしていたが急に雰囲気が変わった。
ほ、本当に吸血鬼族だよな?!
「我は永劫の眠りより醒めし高貴なる者」
伸ばしていた爪を引き戻し小さな腕でポーズをとっていく。
代わりに蝙蝠のような翼を背中から生やして赤い瞳をこちらに向けた。
「王の中の王——吸血鬼族の真祖——エリシャ・アマルディアである!!! 」
言葉と同時に腕を横に開けて羽根をバサッと広げた。
瞬間彼女の後ろに真っ黒い煙のようなものがドバっと出る。
そして彼女にエルベルが飛びついた。
俺は目の前で起こっている乱痴気騒ぎよりも違うことに驚いていてそれどころではなかった。
真祖だと!?
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