第二話 じいちゃんの試練と旅立ち
「その話! 聞かせてもらったぞ!!! 」
その声が聞こえた方向を見ると、そこには筋骨隆々な老人ことじいちゃんがいた。
太陽の逆光を浴び、いつもより威圧感を増している。
そしてなぜか両腕を上で屈伸させてポーズを決めていた。
「男子たるもの冒険者に憧れるのも必然!!! 」
じ、じいちゃん!!!
まさかじいちゃんが味方に付いてくれるなんて!
顔をほころばせ、その茶色い瞳を見る。
「だが、今のまま行っても無駄死にするだろう……」
ポーズを解き、スタ……スタ……と中へ入ってくる。
どっちなんだよ! じいちゃん!!!
俺との距離を縮め、俺の方をクワッ! と見て口を開いた。
「もし冒険者になりたいのならば……わしの屍を超えて行けぇぇぇい!!! 」
★
K. O. !
俺の前では筋骨隆々の老人が茶色い地面に顔をうずめていた。
もちろん俺の圧勝である。
小屋の前での戦闘、というよりも自爆によりその戦いに幕が閉じられた。
戦闘開始直前、二人は木剣を構え、睨み合っていた。
素人ながらも剣を振る練習はしていた。
いつかは出ていかないといけないと思っていたからだ。
じいちゃんは昔、冒険者をしていた時期があったと聞いたことがあるからその動きに注意していた。
俺が動いたことで均衡が崩れ、じいちゃんも動き出した。
そこまではよかったが、じいちゃんは足の下にあった石につまずき転倒。
そして俺が振りかぶった木剣がじいちゃんの頭をヒットし、撃墜。
正直……やるせない。
というよりもじいちゃん死んでないよね?
恐る恐る地面にうずめているじいちゃんを覗き込むと、顔をずらし横に倒れた。
「ぐふっ……わ、わしを倒しても……第二、第三をじいちゃんが……ぐふっ……」
何か妄言を吐きながら、横になっている。
少しすると体の不調を確認して起き上がった。
どうやら大丈夫なようだ。
「よし、デリクが冒険者になる事を認めよう! 」
よっしゃぁぁぁぁ!!!
拳を握り、かかげた。
「「じいちゃん (お父さん)! 」」
俺が喜んでいると、後ろから見ていた父さんと母さんがじいちゃんに詰め寄ってくる。
「アンデリックにもしもがあったらどうするんですか! 」
そう言うのは母さんだ。
いつもは優しいけど起こると怖い。
流石のじいちゃんもたじたじだ。
「む、むしろ両手を上げて送り出さん方が問題だとおもうがの? 」
そう言うと俺の方に目を向けてくる。
やめて! 母さんの怒りをこっちに向けないで!
「どういうこと? アンデリック? 」
すーっと冷や汗が俺の頬を伝う。
「もしわしがデリクの立場だったなら、夜にでも抜け出して一人いっとるわい! 」
ぎくっ!!!
だからか! こうもあっさりと認めてくれたのは!
ギギギ、という音が聞こえるような中、首を母さんの方に向けると、憤怒の形相が見えた。
じ、じいちゃん、余計なことをいって……。
「アンデリック……。勿論そんなこと、しないわよね? 」
「……は、はい……」
結局の所、不承不承という形であったが冒険者になることを認めてくれ、その代わりの条件としてきちんと準備をしてから行くこととなった。
★
夜、俺は弟の夜泣きに起こされ目が覚めた。
どうやら他の兄弟は熟睡しているらしい。
母さんが赤ちゃんを抱きかかえ、外にあやしに行くのが見えた。
真っ暗い夜、すっかりと目が覚めた俺は外へ行き、村を眺めていた。
「今日でこの村も見納めか」
「何センチメンタルになっとんじゃ? 」
「ひぃぃぃぃえぇぇぇぇぇぇ!!! 」
急に後ろから声がした。
それに吃驚し、奇声を上げ尻餅をつき、後ろを見てすぐに離れる。
「何驚いとんじゃ、このくらいむしろ反撃できんとモンスター退治はきついぞ? 」
「な、何だ、じいちゃんか」
後退りしたおかげでじいちゃんだと分かった。
闇夜に潜むじいちゃん……なんて恐ろしい存在なんだ!
俺は起き上がり、近づく。
「じいちゃん、なんでここにいるんだよ」
「いや、夜泣きにおこされてな。それにしても十二歳でセンチメンタルになるなんてまだ早いわ! 」
「いや、見納めになるんだからこのくらい許してよ」
「阿保か、冒険者がダメだったら戻ってくればいい」
「え? いいの? 」
「いや、むしろなんでだめだと思ったんじゃ? 」
俺達の認識にはどうやら距離があるらしい。
「それに別に冒険者じゃなくてもいいじゃろ? 」
「そうなの? 」
「それは単なるイメージじゃ。都会には色んな職業がある。別に冒険者だけが職業じゃないだろ? 」
確かにそうだ。
村に野菜を買いに来る行商人もいる。
なら町に行けばもっといろんな職業があるんだろう。
「まぁそれはさておき……」
そう言いながらじいちゃんがゴソゴソと動いた。
何か腕を動かしているらしい。
「これじゃこれ」
「これがどうしたの? 」
そう言うとじいちゃんが背中に背負っていた一つの背負袋を俺に渡してきた。
中を探るとそこには魔法に使う棒の様な物から水筒等色々な物が見えた。
「餞別じゃ。わしももう使わんしの」
そう言うじいちゃんの顔はどこか寂し気な感じを受ける。
夜も更ける中俺達は家に再度入り、寝入るのであった。
★
そして準備万端となった数日後。
俺は茶色い旅服に身を包み、じいちゃんにもらった背負袋を身に着け、家族を始め近所の人達に見送られながら出発しようとしていた。
「アンデリック君が冒険者ねぇ」
「血は争えない、ということでしょうか」
「兄ちゃん、がんばって! 」
「任せておけ!!! 」
口々に、思いのままに言いながらも俺はその日、村を後にした。
茶髪の少年——アンデリックが旅立った後、アンデリックの父と母、そして祖父が家で話し合っていた。
息子達に畑仕事を一時的に任して、小休憩している所だ。
「じいちゃん、よかったのか? 」
「どのみち、旅立っとったと思うがの」
「しかしアンデリックに何かあったら……」
「大丈夫じゃろうて。あれはあれで賢い子じゃ」
そう言うと祖父がどこか昔を思い出し、顔を歪めていた。
「まぁ、余程の事がない限り大丈夫じゃろう」
「……やはりいかせるべきではなかったのではないのですか、お父さん」
「お主達が思っているよりも強い子、じゃよ。アンデリックは」
「そうかもしれませんが……」
さて、と言い祖父が立ち上がった。
「お父さん、もう行かれるので? 」
「次はどこに行くんですか……」
呆れ顔で二人が言う。
しかしそのようなことお構いなしな感じで扉の方を向き歩いて行く。
「わしの冒険もまだまだということじゃよ」
「「はぁぁぁぁ~」」
そう言いながら、手を上げ去っていった。
「じいちゃんの奔放さにも困ったものだ」
「アンデリックはお父さんに似たのかしら」
悩まし気に顔を合わせていると、声が聞こえてきた。
「おとーさん、次!!! 」
外から自分達を呼ぶ声がする。
どうやら休憩は終わりらしい。
こうして今日の仕事に取り掛かるのであった。
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