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種族の輪 《サークル》 ~精霊術師は今日も巻き込まれる~  作者: 蒼田
第五章 カルボ王国の激震 下 種族の輪 《サークル》
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第百七十六話 試練の魔導書 アンデリック・セグ

 アンデリックが目を開けるとそこは森であった。


「ここは、村にあった森」


 確か俺は光に(つつ)まれてそれから……。

 思い出せない。

 必死に思い出そうとするも思い出せず思わず首を横に振る。


「しかしどうしたものか」


 全く何が起こっているのか分からない。

 結局の所……セレスのせいだな!

 うん、そうだ。

 最初に安全性を確保するとか国の研究者に連絡するとかした方が良かったんじゃないか?

 まぁ今考えていても仕方ない。


「村の方へ行くべきか、だろうな」


 そう思い少し足を進めた。

 すると更に違和感に気が付く。

 腰あたりが重いのだ。

 腰の方を見るとそこにはいつも使っている精霊剣があった。

 王城に入る時に(あず)けたはずなんだけど……。

 どうしてここに?


「考えていても仕方ない。進もう」


 そう言えば咄嗟(とっさ)にエカを()り飛ばしたけど大丈夫だろうか。

 魔法みたいなのが発動しそうだったから巻き込まないように結構強めに()ったけど。

 あれ……。これもしかして王都に帰ってもまずいやつ?

 そう思うと冷や汗が流れてきた。


 僅かに移動したら進んだ先から声が聞こえてきた。

 この声は、じいちゃんだ!

 それにもう一人子供の声がする。

 誰だろう?


 その方へ向かうとそこにいたのは――


 小さな頃の俺だった。


「ど、どういうことだ?! 俺?! 」

「アンデリックよ、よいか。モンスター討伐は……む? 」


 じいちゃんがこっちに気が付いたのかその瞳を向けてきたので、俺は反射的に隠れてしまった。

 確かに俺だ。姿形(すがたかたち)もそうだけどじいちゃんが俺の名前を呼んでいるから(なお)、だ。

 出るべきか? いや出ずにやり過ごすべきか。


 当時のじいちゃんを思い出して「あれ? 」と思う。

 そう言えば小さな頃のじいちゃんの記憶(きおく)があまりない。

 どういうことだ?

 これに似た事が確か……そう、デビルグリズリーの時だ。

 でも、なんで。


「斬撃! 」

「うおっ! 」


 危機感知が反応して咄嗟(とっさ)に身を(かが)めた。

 木の後ろにいたので見つからないと思っていたが、そうえ言えばじいちゃんは元冒険者だ。

 気配感知を持っていてもおかしくない。


 そしてかがめた体勢から見上げて言葉を失う。

 三本くらいの木が単なる斬撃で一斉(いっせい)に切られていた。


「お主、何者じゃ? 」

「怪しいものじゃないぞ! 」

「ふん! 怪しいものほどそう言うものじゃ」


 そう言ったと思うと一瞬にして姿を消して俺に横薙(よこな)ぎで剣撃を与えようとしていた。


 まず! これは本当に、死ぬ……。


 そう思った瞬間空間が光に満ちて体に入り込む。


加速(アクセル)!」


 危機一髪で剣を避けすぐに精霊剣を手にして構える。

 しかしじいちゃんはどこか様子がおかしい。

 剣をおろして目を(つむ)っていた。


精霊術師(エレメンター)か。わしを呼び戻そうと躍起(やっき)になりよって」

「一体何の話……」

「じゃが忘れてないじゃろうな。わしも精霊術師(エレメンター)ということを! 加速(アクセル)

「え? 」


 見えない。

 動きが全く見えなかった。

 死の気配がする。


「ちょ、跳躍! 」


 大ジャンプをして上空に逃げる。

 だがじいちゃんも飛んできた。


「甘い! この程度でこのわしから逃げれると思うなよ」

「か、風の精霊よ! 」


 体の内外に風を(まと)わせて空中を移動し剣撃を避けた。

 本当にじいちゃんか?!

 てか強すぎだろ!

 銀狼卿よりもめちゃくちゃだぞ!


天駆(てんく)、飛斬連撃! 」

「や、やべ! 盾よ! 」


 死の気配が正面からしたのでその方向に風の盾を幾重(いくえ)にもはり俺はその場にとどまらず逃げまとう。

 が、風の盾が破れた瞬間何か頭に違和感が。

 こんな時に!


「ちょこまかと! 孫との時間をそこまでして奪いたいか! 火龍桜花(おうか)! 」


 じいちゃんが剣を上段から振りかざすと複数の火龍のようなものが襲い掛かる。

 こ、これは死んだかも……。


『クグレ! 』


 内側から声がしたと思うと光の(とびら)のような物が出来て、声に(したが)いそのまま(くぐ)った。


「うおっ! 」


 (くぐ)った先はじいちゃんの後ろだったようで、背後を取られたと思ったのか反転し横に切りつけてきた。 

 それを風の小精霊の力で後ろに避ける。


「……お主、何者じゃ? 」

「と、通りすがりの冒険者デス」

「嘘をつけ。わし以外に時空の扉(ゲート)を使えるものがいるなど聞いたことないわ」


 時空の扉(ゲート)って?


「まあいい。ここでお主を亡き者にすればいいこと。わしと孫の時間を(つぶ)した罪、重いぞ! 」


 そう言うとまたもや消えた。


 ★


 どのくらい時間が経っただろうか。

 地上で剣と剣が交差(こうさ)する。

 時空の扉(ゲート)加速(アクセル)、そして風の小精霊を(まと)ったおかげで攻勢(こうせい)に出ることが出来た。

 使い方にも慣れてきたが全て(はじ)かれ、いなされ、反撃を食らう。


「いてっ! 」

「竜牙桜花(おうか)!!! 」


 複数同時に龍牙斬を放ってくるのを斬撃(みだ)れで、ギリギリいなして避ける。

 いなしてずれた剣撃は周りに甚大(じんだい)な被害を与えて木々をへし折った。


 動体視力だけ勝っているのか未来視で剣筋(けんすじ)がギリギリで見える。

 強すぎだろ、じいちゃん。

 なんでこんなに強いんだ。


「竜牙斬・(かさ)ね! 」

「竜牙斬! 」


 俺の剣とじいちゃんの剣がぶつかり合い火花(ひばな)()らす。

 これである。

 火花(ひばな)に似た記憶の欠片は俺の中に入り頭を()き乱す。

 それは(おぼ)えているものであったり、忘れていたことであったり。


 一旦(いったん)距離を(たも)ち相手の動きの様子を見る。

 一挙一動(いっきょいちどう)も見逃さないと鋭い眼光が俺を射貫(いぬ)いていた。


 俺が勝っているものは現状動体視力だけだ。

 相手が聞く耳を持つのならすぐにでも降参を申し出たいがそうはいかないようだ。 

 俺が口を開く前に攻撃してくる。

 せめて相手の行動を阻害出来れば……。

 くそっ! こんな事ならセレスに魔法でも教えてもらうんだった!


 魔法? そうだ俺には精霊魔法が!


「なにを考えているのか分からんが、貴様の力ではわしはたおせんぞぉっ! なに?! 」


 攻撃する為か足を()み出すとじいちゃんは驚き足元(あしもと)をみて、俺をみた。

 精霊剣を媒体(ばいたい)に土の小精霊と水の小精霊の力で一歩手前に(ぬま)を作った。

 それにはまり抜け出せなくなっている。


上位精霊術師(ハイ・エレメンター)か?! 小癪(こしゃく)な! 」


 驚きと共に(わざ)の正体に気が付いたようだ。

 現状、勝てる気がしない。 

 だから……。


「ギルドの追手(おって)め! ここで焼け死ぬがいい!!! 」


 そう言うとじいちゃんの剣に炎が宿(やど)る。

 恐らくあれは魔剣の(たぐい)なのだろう。

 今まで何回も龍に似た炎を飛ばしてきたから予想できる。

 今、勝てないからそっちの力を使わせてもらうよ、じいちゃん。


「火の精霊よ! 」


 俺が呟くと火の小精霊が魔剣の炎から出てくる。

 火の精霊魔法が使いにくい理由。

 それは火元(ひもと)となるものが自然には少ないからだ。

 故に今まで使わなかったし――今まで忘れていた。


「な、何じゃ?! まさか、火の精霊までもか!? 」


 龍を形どろうとしていた火は俺の意志で変形(へんけい)し――


「じゃあな。じいちゃん。次は正面から勝って見せるから」


 (やり)の形をしてじいちゃんを焼き(つら)こうとした瞬間、空間に光が()ちて俺は気を失った。

お読みいただきありがとうございます。

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