第百七十六話 試練の魔導書 アンデリック・セグ
アンデリックが目を開けるとそこは森であった。
「ここは、村にあった森」
確か俺は光に包まれてそれから……。
思い出せない。
必死に思い出そうとするも思い出せず思わず首を横に振る。
「しかしどうしたものか」
全く何が起こっているのか分からない。
結局の所……セレスのせいだな!
うん、そうだ。
最初に安全性を確保するとか国の研究者に連絡するとかした方が良かったんじゃないか?
まぁ今考えていても仕方ない。
「村の方へ行くべきか、だろうな」
そう思い少し足を進めた。
すると更に違和感に気が付く。
腰あたりが重いのだ。
腰の方を見るとそこにはいつも使っている精霊剣があった。
王城に入る時に預けたはずなんだけど……。
どうしてここに?
「考えていても仕方ない。進もう」
そう言えば咄嗟にエカを蹴り飛ばしたけど大丈夫だろうか。
魔法みたいなのが発動しそうだったから巻き込まないように結構強めに蹴ったけど。
あれ……。これもしかして王都に帰ってもまずいやつ?
そう思うと冷や汗が流れてきた。
僅かに移動したら進んだ先から声が聞こえてきた。
この声は、じいちゃんだ!
それにもう一人子供の声がする。
誰だろう?
その方へ向かうとそこにいたのは――
小さな頃の俺だった。
「ど、どういうことだ?! 俺?! 」
「アンデリックよ、よいか。モンスター討伐は……む? 」
じいちゃんがこっちに気が付いたのかその瞳を向けてきたので、俺は反射的に隠れてしまった。
確かに俺だ。姿形もそうだけどじいちゃんが俺の名前を呼んでいるから尚、だ。
出るべきか? いや出ずにやり過ごすべきか。
当時のじいちゃんを思い出して「あれ? 」と思う。
そう言えば小さな頃のじいちゃんの記憶があまりない。
どういうことだ?
これに似た事が確か……そう、デビルグリズリーの時だ。
でも、なんで。
「斬撃! 」
「うおっ! 」
危機感知が反応して咄嗟に身を屈めた。
木の後ろにいたので見つからないと思っていたが、そうえ言えばじいちゃんは元冒険者だ。
気配感知を持っていてもおかしくない。
そしてかがめた体勢から見上げて言葉を失う。
三本くらいの木が単なる斬撃で一斉に切られていた。
「お主、何者じゃ? 」
「怪しいものじゃないぞ! 」
「ふん! 怪しいものほどそう言うものじゃ」
そう言ったと思うと一瞬にして姿を消して俺に横薙ぎで剣撃を与えようとしていた。
まず! これは本当に、死ぬ……。
そう思った瞬間空間が光に満ちて体に入り込む。
「加速!」
危機一髪で剣を避けすぐに精霊剣を手にして構える。
しかしじいちゃんはどこか様子がおかしい。
剣をおろして目を瞑っていた。
「精霊術師か。わしを呼び戻そうと躍起になりよって」
「一体何の話……」
「じゃが忘れてないじゃろうな。わしも精霊術師ということを! 加速」
「え? 」
見えない。
動きが全く見えなかった。
死の気配がする。
「ちょ、跳躍! 」
大ジャンプをして上空に逃げる。
だがじいちゃんも飛んできた。
「甘い! この程度でこのわしから逃げれると思うなよ」
「か、風の精霊よ! 」
体の内外に風を纏わせて空中を移動し剣撃を避けた。
本当にじいちゃんか?!
てか強すぎだろ!
銀狼卿よりもめちゃくちゃだぞ!
「天駆、飛斬連撃! 」
「や、やべ! 盾よ! 」
死の気配が正面からしたのでその方向に風の盾を幾重にもはり俺はその場にとどまらず逃げまとう。
が、風の盾が破れた瞬間何か頭に違和感が。
こんな時に!
「ちょこまかと! 孫との時間をそこまでして奪いたいか! 火龍桜花! 」
じいちゃんが剣を上段から振りかざすと複数の火龍のようなものが襲い掛かる。
こ、これは死んだかも……。
『クグレ! 』
内側から声がしたと思うと光の扉のような物が出来て、声に従いそのまま潜った。
「うおっ! 」
潜った先はじいちゃんの後ろだったようで、背後を取られたと思ったのか反転し横に切りつけてきた。
それを風の小精霊の力で後ろに避ける。
「……お主、何者じゃ? 」
「と、通りすがりの冒険者デス」
「嘘をつけ。わし以外に時空の扉を使えるものがいるなど聞いたことないわ」
時空の扉って?
「まあいい。ここでお主を亡き者にすればいいこと。わしと孫の時間を潰した罪、重いぞ! 」
そう言うとまたもや消えた。
★
どのくらい時間が経っただろうか。
地上で剣と剣が交差する。
時空の扉と加速、そして風の小精霊を纏ったおかげで攻勢に出ることが出来た。
使い方にも慣れてきたが全て弾かれ、いなされ、反撃を食らう。
「いてっ! 」
「竜牙桜花!!! 」
複数同時に龍牙斬を放ってくるのを斬撃乱れで、ギリギリいなして避ける。
いなしてずれた剣撃は周りに甚大な被害を与えて木々をへし折った。
動体視力だけ勝っているのか未来視で剣筋がギリギリで見える。
強すぎだろ、じいちゃん。
なんでこんなに強いんだ。
「竜牙斬・重ね! 」
「竜牙斬! 」
俺の剣とじいちゃんの剣がぶつかり合い火花を散らす。
これである。
火花に似た記憶の欠片は俺の中に入り頭を掻き乱す。
それは覚えているものであったり、忘れていたことであったり。
一旦距離を保ち相手の動きの様子を見る。
一挙一動も見逃さないと鋭い眼光が俺を射貫いていた。
俺が勝っているものは現状動体視力だけだ。
相手が聞く耳を持つのならすぐにでも降参を申し出たいがそうはいかないようだ。
俺が口を開く前に攻撃してくる。
せめて相手の行動を阻害出来れば……。
くそっ! こんな事ならセレスに魔法でも教えてもらうんだった!
魔法? そうだ俺には精霊魔法が!
「なにを考えているのか分からんが、貴様の力ではわしはたおせんぞぉっ! なに?! 」
攻撃する為か足を踏み出すとじいちゃんは驚き足元をみて、俺をみた。
精霊剣を媒体に土の小精霊と水の小精霊の力で一歩手前に沼を作った。
それにはまり抜け出せなくなっている。
「上位精霊術師か?! 小癪な! 」
驚きと共に技の正体に気が付いたようだ。
現状、勝てる気がしない。
だから……。
「ギルドの追手め! ここで焼け死ぬがいい!!! 」
そう言うとじいちゃんの剣に炎が宿る。
恐らくあれは魔剣の類なのだろう。
今まで何回も龍に似た炎を飛ばしてきたから予想できる。
今、勝てないからそっちの力を使わせてもらうよ、じいちゃん。
「火の精霊よ! 」
俺が呟くと火の小精霊が魔剣の炎から出てくる。
火の精霊魔法が使いにくい理由。
それは火元となるものが自然には少ないからだ。
故に今まで使わなかったし――今まで忘れていた。
「な、何じゃ?! まさか、火の精霊までもか!? 」
龍を形どろうとしていた火は俺の意志で変形し――
「じゃあな。じいちゃん。次は正面から勝って見せるから」
槍の形をしてじいちゃんを焼き貫こうとした瞬間、空間に光が満ちて俺は気を失った。
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