第百六十四話 王都のドタバタな日常 八 冒険者ギルドの依頼を受けよう 三
「ううう……何で僕が」
「あら、似合ってますわよ。ケイロン」
「セレス! これスカートが」
着ている服はメイド服なんだが何だろう、この背徳感。
いつもはボーイッシュな服を着こなしたショートポニテのケイロンだが今回はポニテをおろしている。
どういうとだろうと思いポルテさんとテルナさんの方を見ると満足そうな顔をしていた。
「流石だ。素材が良いと映えるな。テルナが来た時なんて……ププ、ゲフぁ!!! 」
「全く失礼だね」
ポルテさんの腹に会心の一撃をかましたテルナさんだがこっちを再度見て頷いていた。
「執事服も似合ってるねぇ。やっぱり私の目に狂いはなかったよ」
「俺はてっきり背の高い嬢ちゃんの方にメイド服を着させるのかと思っていたんだが」
「何言ってんだい。大和皇国のやつらが言ってたじゃないか。『ギャップ』だよ、『ギャップ』。ほらそっちのお仲間も満更じゃない様子だしね。これなら繁盛間違いなしだ」
テルナさん。グッジョブ!!!
目線でナイス、と送ると親指を立ててこっちに合図を返してくれた。
二人共いつもとは違う服装で新鮮味がある。
「で、これは何なんですか? 」
「新しい商売のネタさ。ま、詳しい事は後だね。もうすぐ客が入ってくるから気合い入れな! 」
「「「はい!!! 」」」
こうして俺達の戦いが始まった。
★
「『ポテルーノの油揚げ』、追加だ!!! 」
「はい! 」
今、俺は厨房で薄く切ったポテルーノを油で揚げていた。
ポルテさんはポルテさんで他の料理を作っている。
しかし予想以上に『ポテルーノの油揚げ』という料理が盛況だった。
値段は輸入のせいか高めだが病みつきになる美味しさらしい。
一人食べたらその人が何回も注文し、そしてそれを見た他の客がどんどんと注文していく。
確かにこの匂い、つまみ食いしたくなる匂いだ。
だが我慢。今は仕事中。
「間に合わない……」
ひっきりなしに来る注文に応じながら鍋とまな板を行き来しながら汗を拭う。
めっちゃ熱いし、かなりの重労働だ。こんなことを店主は毎日やっているのか……。
だが弱音を吐いている場合じゃない。何とかしないと。
「やってみるか……乱れ! 」
お、出来た。
包丁を使ってポテルーノを一瞬で薄く切り刻む。
これでスピードアップだ!
何箱も積み重なったポテルーノの容器を捌き終えたが注文は止まない。
仕方なしに店主がでて事情を説明し、ポテルーノの油揚げはまた後日ということとなるのであった。
こうして厨房の戦場は終わりを告げた。
★
「いやぁ今までで一番の稼ぎだよ」
テルナさんが物凄い良い笑顔でそう言っている。
給仕担当の二人もぐったりとしていた。
「宣伝効果もばっちりだね。後は商業ギルドにでも求人出して……」
と一人思考に没頭し始めた。
それを見てポルテさんは苦笑いしながらこっちを見てくる。
「しかし予想以上だったな」
「あれだけ香ばしい良い匂いがすれば、繁盛するでしょう」
「はは、後で周りの食堂に怒られないか冷や冷やだがな」
確かにあれだけ客を独り占めしたらやっかみを受けそうだ。
俺達は掃除をし終わった席に座って今回の事を聞いてみる。
「初めて見る食材でしたが、これは一体どこから……」
そういうと笑顔でこっちに向いてポルテさんが口を開き教えてくれた。
「北方面のある国を知ってるか? 」
「スノウウェルですか」
「ああ。今回の誕生祭でそのスノウウェルから売り込みに来た商人がいてよ。これは面白いと思って買ったもんだ。そん時にこの油揚げの作り方も教えてもらってな」
「それをよく今日使おうと思いましたね」
「一回自分達で作って試食してから出してるから、これはいける! と思ってな。前もって忙しくなるのが予想できたから、こうして冒険者ギルドに依頼を出したってわけだ」
そう自慢げに言った。
熟練の料理人がそう言うんだ。一度食べて余程自信があったに違いない。
「セレスはこれ、知ってたか? 」
「いえ、全くですね。本当に興味深い」
先ほどから目を輝かせているセレスに聞いてみるとやはり知らなかったか。
知っていたら疲れが吹き飛ぶほどに目を輝かせないだろう。
興味津々といった雰囲気でセレスがポルテさんに顔を向けた。
「スノウウェルにこのような食材があるなんて聞いたことがないのですが」
「最近調理法が分かったから流通させている所らしいぞ。話に聞くと別大陸から持ってきたらしい」
「別大陸、ですか? 」
俺は驚きながら聞き返す。
するとこちらにセレスが顔を向け説明しだした。
「この大陸の最北であるスノウウェルの先に極寒の別大陸があるようです」
「そんなところがあるのか?! 」
「ええ、他にも極端に熱い大陸など幾つか見つかっているようです」
な、なるほど。
で、その他の大陸から持ってきたってとこか。
北方のスノウウェルから来たのならその極寒の大陸ってところからか?
俺が考えているとポルテさんが補足説明をしてくれる。
「他の大陸から来たこのポテルーノは幾つかの国にも渡ったみたいだが、スノウウェルが真っ先に栽培と大量生産が出来るようになったみたいだ。新しい食べ方も分かったってことで、今は各国に売り込み中ってことだとよ」
「へぇ~。それはすごいですね」
羞恥から復活したケイロンが机から顔を上げて素直に褒めた。
「この王都にはあまり産業がないのは知ってるだろ? 」
「「「え、ええ……」」」
「そこで! 俺達料理人が目新しいこのポテルーノを使って盛り上げようということだ。あっちの商人も誕生祭ということもあってかなりサービスしてくれてな。周りの食堂にいくらか無料で配ってたよ。その代わりに使えるようになったら定期的に購入してくれというお土産も落としていったがな」
楽しそうに、豪快に笑うポルテさん。
しかしケイロンはどこか不満げな顔だ。
どうしたんだろうか。
「ポテルーノの事は分かりましたがこの服は一体……」
ああ、服か。
確かに大衆食堂の服というよりかは貴族の屋敷で見かけそうな服だな。
似合ってはいるが。
「それは、大和皇国で今流行ってる接客らしいんだよ」
「「「大和皇国で? 」」」
「そうだよ。誕生祭の時丁度お嬢ちゃんみたいな龍人族のお客さんと話すことがあってね」
それがどうつながるんだ?
俺達は首を傾げて考える。
「大和皇国は比較的龍人族が多い国らしい」
「で、どうもあっちでは上流階級の使用人の服を着て接客するのが流行らしいんだよ」
「そこで! こうして実際に着てもらいアピールしたってことだ!!! 」
そ、そうなのか! 大和皇国ではこれが流行りなのか?!
「……大和皇国は貴族制度ではありますがこの国とはまた違う制度と聞いています。なので恐らく使用人の服装も違うかと」
「まぁいいんだよ。細かい事は。盛り上がれば! 」
満面の笑みを浮かべる二人に苦笑しながら次なる被害者に祈りを捧げた。
その後後片付けを行い俺達は依頼完了のサインをもらい冒険者ギルドへ戻るのであった。
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