第百五十九話 王都のドタバタな日常 五
黒タイツが路上を掃除してくれたおかげで俺達は快適に屋敷へ戻ることが出来た。
貴族街を行き、門を潜り進むと大声が聞こえてくる。
『来たわ! 総員、気配を消すのよ! 』
『ひーちゃん隊長! ふーちゃん伝令兵より入電! 変態エルフを見失いました! 』
『なんだって?! ふーちゃん伝令兵は何をしているの! 』
『ひーちゃん隊長。ここは撤退を、撤退をするであります』
『みーちゃん衛兵、ここは戦場よ! 撤退はあり得ないわ! 』
『ふーちゃん伝令兵がやられた以上、これ以上の戦いは無益でございます! どうか、どうかご再考を! 』
『ええい! くどい! なら私一人でも作戦を決行するわ! 』
『『ひーちゃん隊長!!! 』』
何か聞こえるが……。まぁいいか、放っておこう。
触れると俺にまで危害が加わりかねない。
『精霊の加護』を持っていないスミナとリンにさっきのやり取りは聞こえていないはずだ。
ここで反応したら単なる変人だ。
放置、放置。
そう思いながらも長い道を二人を連れて歩き扉のノブを開けた。
『『『お帰りなさいませ、ご主人様。ご飯にする? お風呂にする? それとも、わ・た・し? 』』』
「裁きの拳!!! 」
ふざけたことをほざく元素四精霊に拳をかました。
あ、『乱れ』が使えた。
★
「精霊、ですか」
「ああ。俺とエルベルは精霊の加護を貰っててな。とりわけ俺のは特殊らしく、精霊に触ったり逆に精霊が触れたりするんだ」
今、広間でリンに屋敷の扉を開いた時に取った俺の異常行動について話している。
あれだけ見ると急に攻撃を繰り出した、単なる変人だ。
きちんと説明せねば。
「触れる……。にわかに信じがたいですね」
「しかし逆に触られるというのは証明されています。よって間接的ではありますがアンデリックが精霊に触れることにも証明できるかと」
「ま、普通は信じられないよな」
長机に着いた俺達は顔を合わせて説明する。
今のメンバーは俺とスミナ、リンにセレスだ。
セレスは俺が精霊に触られて髪の毛が不自然に動いたりする場面をよく見かけている。
それに加えて学識の高いセレスが言うことで説得力が増す。
正直俺一人が説明してもわかってもらえるか怪しい。
セレスは実家から連れてきたメイド、ルータリアさんに入れてもらった紅茶を優雅に口につけている。
そしてそのルータリアさんはこの部屋の隅で大人しくしているが俺は知っている。
この人はかなりサドっ気がある事を。
なので要注意だ。
「そう言えばセレスが連れてきたのはルータリアさんだけなのか? 」
顎に手をやりながらうなっているリンを置いて俺はセレスに聞いてみた。
俺の言葉を受け白いティーカップを置き、俺方を向く。
「いえ、他にも文官武官に加え執事やメイドも呼んでおります」
「……それ、ケイロンと被んねぇか? 」
「ご安心を。事前に呼ぶ人数を打ち合わせておりますので」
流石セレスとケイロン、話が早いだけでなく気配りまでも。
これなら任せても安心だな。
それを聞き俺は少し口元を緩めた。
「ただいまー!!! 」
「お、これはケイロンだな」
「噂をすれば何とやら」
話していると扉が開く音がしてケイロンの大きな、元気な声が聞こえてきた。
するとセレスがルータリアさんに目線で何やら指示を。
ルータリアさんは扉から出ていき、その後扉を開けケイロンを中に入れた。
「セレスの方が早かったみたいだね」
「いえ、ほんの少しの差でしょう」
そう会話をしながらケイロンが着席。
するとルータリアさんがケイロンの分も紅茶を入れて、下がった。
ル、ルータリアさんがまともに仕事をしているだと?!
何ということだ……。
明日は大雨だろうか。
「ご主人様。何か、不誠実なことを考えておりませんか? 」
ゲブファ!!!
「ちょ、デリク大丈夫?! 」
「なんでいきなり吐血を! 」
「ん? 何か文字が書かれているぞ? 」
「あ、本当だ」
「ええ~っと……。「犯人はルータリア」」
それを見て全員が彼女の方を見た。
「はて、私は何もしておりませんが」
「何をぬけぬけと!!! 」
しらを切ろとするルータリアさんに異議を唱えるべき勢いよく立ち上がった。
「デリク大丈夫だったんだね」
「でもなんで吐血を? 」
「それはルータリアさんがいきなり『ご主人様』なんていうからだ」
「「「??? 」」」
あ、これ本気でわかってない雰囲気だ。
皆がエルベルの奇行を見ている時の目だ。
痛い! 痛い! 皆の目線が痛い!
もしかして俺も同レベルなのか?
「ご主人様は酷い事をおっしゃいます」
ルータリアさん「およよよよ」と言いながら取り出したハンカチで涙を拭う。
が、知っている。これはウソ泣きだ。
「デリク酷い! 」
「我が家のルータリアを泣かすなんて」
「女性には、優しくしろよ。アン」
「いやちょっと待て、どう見てもウソ泣きだろ!? 」
「酷いです、クスン」
全員から冷たい目線を浴びながらもこの茶番を乗り切り話を使用人に戻すのであった。
「この屋敷を本拠地にするかはまだわからない。だから一先ず最小の人数で行こうかと思うんだ」
「文官は両家から一人ずつ、武官は二人ずつとしました」
「本当はもう少し雇って移動の時の護衛組と居残り組に分けないといけないんだけど、特に領地を回るわけでもないし居残り組だけでいいかなってね」
「まずワタクシの家からの使用人は庭師とルータリアとメイド一名そして執事にレストを」
「僕の家からはメイド一名」
「後は庭師にコックですね? 」
「フェルーナさんを呼ぶまでの間、食事はどうする? 」
「来てくれるかは分からないけどね」
「それはルゥが」
それを聞きセレス以外の皆がルータリアさんの方を見た。
「え、ルータリアさんはメイドでは? 」
「食事を作るのもメイドの嗜みです」
「食事を作るのはコックでは? 」
「ルゥは自分の食事を作るのに料理を覚えたのです」
「……お嬢様」
俺達が質問しているとセレスが一言告げて真実をばらした。
ルータリアさんは大食漢なのを知られたくなかったのか、抗議の目線をセレスに送っている。
一緒にここで住んでたらいつかはバレたと思うが、言わない方がい良いだろう。
「そのくらいじゃないか? でも助かった、ありがとう」
ペコリと頭を下げて礼を言う。
「そう言えば二人は実家の別荘が近いけどこっちに住んでよかったのか? 」
「ああ、そうだね。両親に許可を取ってるから大丈夫だよ。なんか血の涙を流してたけど」
「ワタクシも同じですわ。それに冒険者をやる上、こちらに住むほうが都合が良いと思いましたので許可を取ってきました」
「なるほど。じゃぁこれからもよろしく」
「「「うん (はい)!!! 」」」
それぞれ話し合いを終え、食事をとり、三階へ上がる。
自分の部屋に入るとそこには精霊達が待ち受けていた。
『『『『私達の部屋を所望するわ!!! 』』』
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