第百五十八話 王都のドタバタな日常 四
俺達は冒険者ギルドを出たら商業区へ行き今日の昼と晩御飯を買っていた。
普通は使用人がやるのだろうがつい最近貴族になった俺達に使用人はいない。
よって自分達で買っているわけだが……
「誕生祭ほどではありませんが人がいっぱいですね」
「そうか? まぁ多くはあるが……」
リンが市場ではしゃいでいた。
少し口調が崩れるくらいには。
王女という立場上あまりこうして買い物に行くことが少なかったのかもしれない。
はしゃぐ姿を見ると普通の女の子ように見える。
「あ、こっちは良い香りが」
「ちょっと待て。今日の買い物はそっちじゃない! 」
目的の物が売っている所とは別の所へ行こうとしているリンの手を取り止めた。
つい最近攫われたばかりなのを忘れたのか匂いにつられてどこかに行きそうだ。
そんな彼女の手を引きながら誘導し、今日の食事を買っていった。
「アンも大変だな」
「ならスミナ、代わってくれるか? 」
「私はそこまで酷くありません」
食材を買い荷物を小袋に入れた俺達は商業区を通りながら帰り道を行っていた。
この調子なら昼前には帰れそうだ。
元気な顔から一転スミナの一言で少しむくれるリン。
それを苦笑いで見つめるスミナという構造は、身長が近いせいか面白い。
スミナの方が姉貴分な気もするが口調だけを聞くとリンの方が高位のように感じるのがまた面白い。
「おいおい、こんなところにいたぜ? 」
「お、本当だ。やっと見つけたぜ」
歩いていると正面から五人ほどの男性達が、乱暴な言葉を吐きながらやってきた。
どうやら楽しい時間は終わりを告げたようだ。
「冒険者か? 」
「はは、流石に分かるか」
「いやまてスミナ。一概に冒険者と決めつけるのはよくない」
「「「え??? 」」」
スミナが口を開いたが彼女の方を向きそれを否定した。
相手も驚いているようだ。
なるほど。やはりか。
「幾ら粗暴な行動をとると言ってもそれが冒険者とは限らない」
「いやちょっと待て、アン。どう見ても冒険者だろうが」
「いやいや、よく考えろ。こんな分かりやすい奴ら、いるか? 」
「腰に剣をつけたりウルフの毛皮から作った防具を着こむ典型的な冒険者だが」
「そうだ、そこなんだ! スミナ。典型的過ぎる」
リンは頷き俺から言葉を繋いだ。
「なるほど、そう言うことですか」
「どういうことだ? リン」
「つまり一連の行動を「冒険者の責任」にしようとしているのかもしれません。冒険者を装った賊、もしくはどこかの貴族の差し金かもしれません。一旦彼らを捕縛して調べ上げる必要がありそうですね」
「そういうことだ。加えて冒険者にしては犯行が大規模過ぎる」
「だいき……ああ。周りにいっぱいいるな」
俺とスミナは気配感知を使いこの五人以外に隠れている数十の冒険者もどきを感知していた。
例え俺達が原因だったとしてもこれだけの冒険者に恨まれる覚えなんてない。
ならば他の――賊のような者の犯行と見るべきだ。
「危ないところだったぜ。賊と冒険者を間違えるとは」
「カルボ王国の王都はこのように危険な場所なのですか? 」
「いや、そんな話は聞いたことないな」
「来たのは最近だがな」
「「「ハハハ」」」
「こ、この舐めやがって!!! 」
俺達が話していると正面のリーダーらしき男が口を開いた。
周囲に仲間がいることがバレて怒っているせいか顔を赤くしている。
他の奴らも睨んできているが、何人かリーダー達を止めようともしている。
「リーダー、やめましょう。なんかヤバいですって」
「あいつら普通じゃねぇ。周りに十五は隠しているのに感知してやがる」
「馬鹿野郎! 何今更怖気ついてんだ! 」
「そうだ! あいつらのせいで仕事がねぇんだ! 」
ふむ、仲間割れのようだ。
しかし仕事とな? はて、前に賊を潰した時にでも失職したのか?
あの賊の下請けか、国のがさ入れが入って犯罪がバレて廃業した商人の護衛か。
そんなところだろう。
「なに余裕ぶってんだ! やるぞ、てめぇら!!! 」
「「「お……」」」
意気込んでこちらに飛びかかろうとすると、彼らは全員前のめりに倒れてしまった。
おもっきし顔面を地面に叩きつけている。物凄い痛そう。
スミナは何が起こったのか分からないような様子だが、もちろんのこと俺は分かっている。
「……遅くなりましたか? 」
「いえいえ、お仕事ご苦労様です」
冒険者もどきが倒れた先には黒い全身タイツのような物を着こんだ女性がそこにいた。
仕事服なのだろうか、それともポリシーなのかわからないが黒タイツを往来で着ている。
引き締まった腰に大きなヒップ、タイツにより強調された大きなメロン。このことからこの人が女性だとわかる。
声は男性とも女性ともとれない声をしており判別がつかないが他の特徴から女性だろう。
この人はずっと前から俺の感知に引っかかっていた人だ。
女性とは知らなかったが。
「おい、アン。この変態は知り合いか? 」
スミナの一言で空気が凍った。
「へ、変態……。私が変態……」
「いや、だって建物であまり人目に付かないとはいえ全身黒タイツはどう見ても変態だろう」
その人はショックを受けて崩れ落ちた。
「スミナ。この人は多分獣王国の護衛だ」
「護衛? ああ、リンのか」
「そうだ。例え全身黒タイツの変態だとしてもリンを影ながら護衛している人だ。恐らくだがリンがこの国で過ごすことになった時に派遣されたんだろう」
「な、なんか悪かったな……」
未だにブツブツと「私は変態じゃない、私は変態じゃない……」と言っている。
リンはリンで複雑な顔をしている。
これでも賢い子だ。隠れて護衛がついていることくらいわかっていたと思うが、まさかの全身黒タイツの女性。
女性と言うのはリンのプライバシーに配慮してのことだろうが分かるが、逆にそれが変態性を出している。
何と不憫な全身黒タイツ。
「ま、まぁ今まで通り隠れて護衛していただいてもいいので」
そう言うとゆらりと立ち上がりこちらに顔を向け声を出す。
「あ、ありがとうございます。可能ならば他の人に言わないでいただけると助かります」
「わ、わかった」
「了解だ」
「……ありがとうございます」
「いえ、姫。これも仕事ですので。後これは仕事服ですので趣味ではありません。それは抑えておいてください! ではっ! 」
そう言いながら前にいる冒険者もどきをあらぬ方向に蹴り飛ばして運んでいく全身黒タイツ。
そして颯爽と残像を残しながら去っていく黒タイツ。
さらば、黒タイツ。永遠なれ!
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