第百五十六話 王都のドタバタな日常 二
「え? 冒険者? 」
「はいなのです。思えばこの高まる気持ちを抑えることが出来なくなり始め……」
「お、おい皆。変な目でこっちを見るな! 」
「暴走して襲い襲われないようにしないといけないので発散する場所が欲しいのです」
「だから、変な目でみるな。俺は何もしてない! する予定もない! 」
「この破壊衝動を」
「「「なんだ……」」」
「今までおもっきし勘違いしてたよな! 」
リンが冒険者になりたいと言い出して勘違いを受けた。
リンもリンだ。誤解を招くような言い方をして。わざとじゃないよな? わざとじゃ。
でも破壊衝動と言うのは何だ? 暴れたくなるのか?
「破壊衝動は言い過ぎたのです。しかし戦うことを生きがいにしている獣人族としては、何か戦闘以上の目的か生きがいを持つまで、モンスター討伐は一般的なストレス発散法になるので冒険者をして戦いたいのです」
「……今どうして獣王国が強いのか分かった気がする」
「僕もだよ」
「私もです」
「是非是非お兄ちゃんには獣王国に来て武闘会に出て欲しいです」
「絶対に嫌だ! 」
「因みに前回大会の優勝は銀狼卿、準優勝は鳳凰卿、三位は私なのです」
「まさかの上位ランカー?! 」
「最近の若者は根性が足りないのです」
「リンは十二だったよな?! 」
「王になると武闘会に出れなくなるのでこれはいい機会なのです。未来永劫、武闘会に出れるのですよ」
「まさかの婚約理由! 」
はぁはぁはぁ……。予想以上にツッコミが疲れる。
ボケてるんだよな? 本音じゃないだろうな。
そう思いちらっとリンを見た。
うん。とてもいい、すっきりとした笑顔だ。
「そう言うわけで冒険者になりたいのです」
「……俺は良いが皆はどうだ? 」
「僕は良いと思うよ。前衛の強化だね」
「獣王国の武闘会上位ランカー、ならば不足なしですね」
「ワタシも構わねぇ。この家で暴れられるよりかは全然いい」
「暴れるのはいけないのか? 」
「「「エルベルは暴れるな!!! 」」」
「わ、わかったよ。オレもいいぜ」
「ありがとうなのです」
ニコリと笑い、ペコリとお辞儀をして礼を言うと椅子に座った。
「じゃ、それぞれやる事をやろうか」
「「「はい (うん) !!! 」」」
★
俺とスミナ、そしてリンは国営銀行へ来ていた。
ケイロンとセレスは自分の家から人材を引き出しに行くのと同時に家財を取りに行った。
エルベルは、厄介事を起こしそうなので家に放置だ。
ひーちゃん達が被害にあっているかもしれないがそれも織り込み済みで来ているのだ。
消滅したら骨くらいは拾ってやるから安心しろ。
あ、骨なかったか。
「ご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「口座を作りに。あ、これ貴族章です」
そう言い受付に貴族章を提出し、口座を作る手続きに入った。
言われるがままに書類に記載をして説明を聞き、カードを渡される。
金色プレートに国の紋様が入ったものだった。
他の国も色は同じようだが紋様が違うみたいで注意が必要だ。
どうも先んじて国が貴族章に仮入金みたいな感じで金額を登録していたらしくそれがすぐに口座に移された。
幾らか金貨と銀貨を引き下ろして体を反転させる。
「ご利用ありがとうございました」
と、言う受付嬢の言葉を背にして獣王国側のカードも作り次の目的地へ足を向けた。
「……って、王城じゃねぇか!!! 」
「王都ですから」
「いやいや、他の場所に作らなかったの?! 」
「基本的に貴族しか使用しませんし、預けるのならば王城の方が堅牢で安心だと思うのですが」
「確かにそうだけどもっ! 」
理屈は分かるが……。
これ各領地だとどうなるんだ? 領都に一つあるだけなのだろうか?
尚、現在のリンは淑女モードだ。
外と内では性格が変わったように変化するのは本当なようだ。
「アンはどこか遠いところへ行ってしまったな」
「なに遠い目をしてるんだ? スミナ」
「いや、普通に王城に入って手続きをするような姿。会った時には想像しなかったと思ってな」
「俺が書類を書いている時に出された茶菓子を美味しそうに食べてた人が何を言う! 」
「いや、出されたからさ」
「美味しかったですね」
「俺も食べて見たかった!!! 」
少し涙しながら俺達は中央通りを通り過ぎ、冒険者ギルドへ入っていった。
★
「これで手続き終了になります」
「ありがとうございます」
木で出来た冒険者ギルドのギルドカードを手にしてお礼を言う。
受付は戻ってきたアルビナだ。
何故休んでいたか聞いてみるとどうやらケイロンとセレス同様誕生パーティーに出ていた為に休んでいたようだ。
「誕生パーティーでケイロン達どうだった? 」
「……まだ地獄を見たくないので黙秘します」
「何か、はあったんだな」
「な?! 誘導尋問! 」
「ははは……」
俺の言葉にアルビナがわざとらしくワナワナと震えておびえた様子を見せる。
しかしまだ言うべきことがあったのを思い出したようだ。
受付嬢モードに再突入してリンの方を向き、聞く。
「冒険者ギルドでは初心者講習があるのですがリン殿下は如何いたしましょうか」
「受けさせていただきます」
「かしこまりました。では初心者講習はこちらで受けることになります」
「ありがとうございます」
そう言いリンを二階の部屋へ誘導していった。
彼女達が二階へ上がると同時に上から降りてきたケリーさんがスーツ姿で俺達を見つけて声をかけてくる。
「おう、やっと来たな」
野性味あふれる顔で言い放った。
逃げたい! 今すぐ逃げたい!
また厄介事を押し付ける気だ、この人!
「何逃げようとしてるんだ? いいからこっち来いよ」
「嫌です! どうせ俺達に面倒な仕事押し付けるんだ! 」
「おいおい、人聞きの悪い。いい狩りが出来たじゃねぇか」
肩を掴み逃がさんとばかりに言ってくる。
くっ! ケリーさんから逃げれないのか!
あ、ちょっ。スミナ! 何一人で逃げようとしてるんだ!
裏切り者! せめて俺も連れて行け! もしくはケリーさんの指を狙って攻撃して拘束をほどいてくれ。
あ、小さな体を使って扉の前まで行きやがった。
後で説教だ!!!
「逃げるなよ。せっかくの機会だから約束を果たそうと思っただけだ」
それを聞き必死に動かす足を止めた。
スミナはスミナでギルドの扉まで行っていた足を止めこちらに振り向いている。
しかしかなり警戒しているようだ。
足はいつでも逃げれるように少し浮いているように見える。
「『重ね』と『乱れ』を教えるって約束を果たそうってな」
……。ありましたね、そんな約束。
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