第百五十五話 王都のドタバタな日常 一
何だ? 温かい温もりが……。
そうだ、俺は昨日『精霊の宿木』をチェックアウトして子爵家邸に戻ったんだった。
それから雑務に終われながら一段落したら眠くなって。
そうそう、ベットに横になったら寝てしまったんだ。
精霊の宿木のベットと違ってかなり質の良いベットだからそのまま寝てしまった。
確かに温かいが……。
こんなに温かかったか?
どこか人肌に触れているような温かみを……。温かみを……。
人肌?!
「うわぁっ!!! 」
「……うにゅぅ、おはようなのですよぉ~。お兄ちゃん」
「お、おに……じゃなくて何でリンが俺のベットに?! 」
「それは夫婦だからですよぉ」
「夫婦と兄は両立しないからね?! それにまだ結婚してない! 」
「成人してるので時間の問題なのですよぉお」
ガバっと毛布を取ると俺にリンがくっついていた。
リンは目を擦り眠そうに答えている。
色々とおかしいから!
あれ、ちょっと待て。俺部屋に鍵をしていたよな!
「リンのポーチは不思議なポーチなのです。なんでも入ってるんです。まぁ入れた物だけですけど」
「不法侵入用の道具が入ってるって余程だよね! 」
「こらー!!! また部屋から出ているって、デぇリぃク? 何してるのさ! 」
「違う! これは誤解だ! 」
「何が誤解なのか、お聞きしても? 」
ケイロンが入ってきて追及すると、その後ろから寝間着姿のセレスがやってきた。
ケイロンはいつもと同じ服だがセレスは町に出る用の赤い方の服装だ。
曰く寝間着を兼用しているとか。
興味がない事にはとことん無頓着なところもエルベルに似ている。
屋敷を貰いリンが住み始めたことで日常が大きく変化した。
本来ならばバジルに戻っていたのだが子爵家当主と言うのが足かせになってまだ動けない。
「言い訳は無用です」
「弁明は朝食後に聞こうか」
「いや誤解……。あ、いえ。何でもないです。ハイ」
無言の圧力を受け俺は誤解を解くことを諦めた。
彼女達が去っていく中眠たそうなリンを完全に起こして俺はベットから降りる。
「ほら、リン。朝ごはんだってよ」
「了解なのですよぉ」
そう言いながらスタスタと少し名残惜しそうに部屋を出ていった。
リンは最初俺の事をアンデリック様と呼んでいたが『様』付けは勘弁してくれとお願いしらすんなりと受け入れてくれた。しかし逆に『お兄ちゃん』と呼ばれるようになってしまった。
ケイロン達を『お姉ちゃん』と呼ぶのだから当然の流れなのかもしれないが、同い年にそう呼ばれるとは思っていなかったので複雑な気分だ。
何故兄姉と呼ぶのか聞くところによるとリンには兄姉がいないことが原因のようだ。
獣王国にいないということもあってか、周りの目線を気にしなくてよくなった為か、こうして甘えることは多い。
ここ数日でよくわかった。
「疲れがとれてそうそうに疲れがたまるとは」
一人呟きながら窓を開ける。
気持ちの良い風が入ってくると同時に庭で遊んでいる精霊達を見かけた。
彼女達は先日この屋敷に不法侵入しそのまま居座った精霊達だ。
元はアクアディア子爵家別荘にいた精霊達だったが今はこの屋敷住まいである。
外で遊びたいとの事だったのでこれから外で活動する時はついてくるかもしれないがエルベルに注意。
気を付けて。貴方達を見ている存在はすぐ傍に……。
★
朝の準備を終えた俺達は一階の食堂へ。
コックがまだいないため外で買ってきた物である。
パンにベーコン、野菜と軽いものが長机の上に置かれている。
「美味そうだな! 」
「おはようさん。飯か」
「「おはようございます」」
「おはようなのですよ」
「おはよう」
朝から何故か顔が艶々しているエルベルに続いてスミナが入って来た。
そして服を着替え直したセレスとケイロンが見えてその後ろからはシャキっとしたリンが。
全員挨拶も済んだところで席に着きご飯を前にする。
「「「クリアーテ様の恵みに感謝して」」」
「森の恵みに感謝を」
祈りの言葉を口にして食事をとった。
朝食後、それぞれ口元をナプキンで拭いて本題へ。
「これからなんだが」
「まずは使用人ですね」
「そうだね。僕の家から何人か募集してみるよ」
「そうですね、私も家の人に聞いてみます」
「助かる。ありがとう」
お礼を言うと少し照れているのか二人は頬を掻く。
しかし本当にありがたい。
変に大っぴらに募集をかけて変な人を入れるよりかはこの二家から使用人を回してもらう方が安心だ。
俺達は一応冒険者の方を優先することになっている。
よってこの屋敷も開けることが多いと思うからなおさらだ。
「コックはどうする? 」
「はいはーい!!! オレ考えたぞ! 」
「却下だ! 」
「何で聞く前に却下するんだよ、デリク」
「どうせ「精霊様にやってもらおう」とか言い出しそうだからだ」
「違う! そうじゃない。銀狼のフェルーナさん達を呼んで作ってもらったらどうだ? 」
「だ、駄乳エルフがまともな意見を言うだと?! 」
「そこ、驚くことか?! ちびっこドワーフ! 」
「いや、まさかまともな意見が出るとは思ってなかったからな……。ま、疑われたくないのなら日々の言動を直せや」
「んだとぉー! 」
喧嘩腰になっているが、まともな意見だ。
スミナじゃないがエルベルにしては珍しい。
フェルーナさん、と言うよりかは銀狼にこっちに移ってもらうのはありだ。
だがこっちに来てもらえるか……。
どうも趣味でやってるっぽいし、なんやかんやでフェルーナさんはガルムさんに甘いしな。
一応案に入れておこう。
「国営の銀行に行ってカードを受け取らないと」
「……思い出したくない! 受け取りたくない! 」
「そうは言うけどさ。給金の支払いや納税もやらないといけないんだから確認しないと」
「あんな……持っているだけで命を狙われそうな金額。見たくもなければ受け取りたくない! 」
「そんな時は、獣王国側の銀行を……」
「意味は同じだろ、それ」
「バレちゃいましたか」
報酬としてもらったお金は国営銀行とやらへ入っているらしい。
少々複雑なことにカルボ王国から受け取った金額はカルボ王国の国営銀行に獣王国から受け取った金銭は獣王国国営銀行のカルボ支店に入っている。
よって今預けている場所は商業ギルド、カルボ王国国営銀行、獣王国ビストの国営銀行の三か所になる。
カルボ王国には友好国、同盟国の国営銀行がそれぞれ置かれているらしく引き出しが可能だ。
商業ギルドではなくカルボ王国にある国営銀行支店に入金しているのかと言うとどうやら爵位を重複所持している貴族が一定数いることに起因しているようだ。
年金はそれぞれ各国から払われるので当たり前と言えば当たり前なのだが、領地を持っていない俺からすれば恐怖以外何者でもない。
「大体の話は済みましたね」
「後は実際にやって時間待ち? 」
「あ、リンから一つあるのです」
「なんだ? 」
「リンも冒険者をやるのです! 」
そう言いリンは席を立ち、胸を張って、宣言した。
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