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種族の輪 《サークル》 ~精霊術師は今日も巻き込まれる~  作者: 蒼田
第四章 カルボ王国の激震 上 エレク第一王子誕生祭
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とある小国の最後

伝令(でんれい)! 伝令(でんれい)! 現在モンスターの集団が王都へ向かっております! 」

「くそっ! 一体どこから! 」


 ここはカルボ王国から(はる)か離れたとある小国の王城。

 城内の作戦会議室は緊張に(つつ)まれながらも伝令(でんれい)を聞いていた。


 この国は国土面積も狭くカルボ王国の王都を二、三個くらいの面積しかない。

 人口も平均的より少なくこれと言った産業がない国である。

 立地(りっち)(めぐ)まれているわけでもなく、小国とはいうもののその昔先祖が勝手に『国』と(しょう)しただけで他の国からは見向きもされていない国であった。


「数は、数はどのくらいだ! 」

「各村を襲った数と同程度と思われます! 」

「「思われます」とは何だ! 詳細をいえ! 」

「……索敵(さくてき)へ行った者は帰っておりません」

「「「なっ!!! 」」」


 恐らくこの伝令(でんれい)兵は遠方(えんぽう)からモンスターだけを確認しただけなのだろう。


 彼が命からがら逃げてきた村人から聞いた話によると、村を(おお)()くさんばかりのモンスターの襲撃にあったと聞いている。

 最初は一笑(いっしょ)()したこの国の兵士だったが、これがいくつもの報告が上がってくると笑えなくなった。

 そして重い腰を上げ調査隊を編成(へんせい)し軍を動かしたが時すでに遅し。

 その軍ですら帰らぬ者になってしまった。なまじ何かしらの功績(こうせき)を持って帰らないといけないというプライドが全滅(ぜんめつ)(みちび)いたのだろう。

 いつまで待っても帰ってこない軍に苛立(いらだ)ちを見せていると、先ほどの伝令(でんれい)が飛んできた、ということである。


「ふぅ、どうすべきか」

「何を悠長(ゆうちょう)な! 敵はすぐそこまで来ているのですぞ?! 」

左様(さよう)。国を危機(きき)(おとしい)れた卿の責任、()わせていただきますぞ! 」

「黙れ! 今はそのようなことを言っている場合ではない!!! 」

「「「へ、陛下?! 」」」


 軍服を着た男性が木製の椅子に背を(あず)け打開策を考えようとすると他の者達から責任追及(せきにんついきゅう)があった。

 そしてそれを(さえぎ)る者が一人作戦会議室へ入ってきて彼を見た。

 彼は王冠(おうかん)(かぶ)った老齢な魔族だ。

 しかし魔族の特徴である角は見えない。その代わりに発達(はったつ)した八重歯(やえば)を持つその姿から魔族でも特殊な吸血鬼族である事が分かる。


 しかしどこか顔色が青い。

 日中である事を差し引いても彼の体調の悪さが際立(きわだ)っている。


「どこまで進行している? 」

「……城門のすぐ(そば)、でございます」


 伝令(でんれい)兵が震えるように、恐怖を抑えるように王へ進言した。

 それを聞くと瞳を軽く閉じて少し考える。

 考えがまとまったのか瞳を開け、言葉を()べた。


「全軍に伝令(でんれい)。これより王都攻防戦に入る。住民は全員家から出ぬよう命令を出せ! 出ればそのものを敵とみなすと伝えよ」

「こ、国民を殺すのですか!? 」

「それはあまりですぞ! 陛下! 」

「黙れ! まだわからぬか! 」


 平和ボケした家臣(かしん)達に怒鳴(どな)り、(あき)れながら説明する。

 説明しなければ動かない事を良く知っているからだ。


「モンスターの突然の出現と消失。考えられるのは二つ」

モンスター暴走(スタンピード)ではないのですか?! 」

「まだその程度と考えていたのか、この(おろ)か者! 」

「ひぃ! 」

「まぁいい。今はそれどころではない。まず真っ先に考えられるのはどこかしらの国がこの地を落としに来ているということだ」

「何と……」

「だがこの可能性は低い」

「何故です? 」

「我が国を落として利益になる国があるか? 」

「「「……」」」


 悲しいが、何もない。

 何もないが故に今まで放置されていたのだが。


「そして有力なのは邪神教団の介入(かいにゅう)だ」

「邪神教団……」

「聞くところによる暴食系の団員か、幹部クラスなら可能だろう……」

「この国に邪神教団が?! 」

「他から来たやもしれんが。しかし今は有事(ゆうじ)、発生元は後で考えればいい。相手が暴食系ならば恐らく村は『(えさ)』にされたのだろう」

「何と非道な」

「非道だからこそ『邪神教団』なのだ。わしも出る。全軍に伝えよ。邪神教団と――全面戦争だ、と」


 そう言い残し、吸血鬼族の王は会議室を出ていってしまった。


 ★


 この国は特殊である。

 ()り立ちもそうであるが、吸血鬼族が王と言うのも珍しい。

 加えてこの王は老齢で幾度(いくど)となく休眠状態を取らなければならないほどに老いていた。


 長命種全般に言えることだが彼らは人族とは違い寿命が近づくと休眠を定期的にとる。

 これは自然なことであり、特殊ではない。

 よって寿命比からみて極端(きょくたん)に活動時間が限られる彼らが王になることは少ないか、もしくは任期制となるのが普通である。長命種が治める国で任期がきたら後継者にすぐに渡すという仕組みの国は、少ない長命種国の中では主流である。


 が、この国は長らく後継者がいなかった。作れなかった。

 王が休眠を取っている(あいだ)は議会が国を動かしておりほぼ議員の独占状態である。

 王が――短いながらも――玉座に座っている(あいだ)は取り(つくろ)い、休眠に入ると国を好きなように動かす。これがまかり通っていた。


「……後継者が決まった矢先(やさき)に、これか」


 そう独り()ちながら王は石造りの王城を行く。

 騎士や使用人達が忙しく移動するも(ほと)ど見たことのない顔だ。


皮肉(ひにく)なものだな。さて、エリシャ。いるかな? 」


 一室の前に立つと軽くノックをして在室(ざいしつ)を確認する。

 すると少女のような――しかし老齢な言葉使いの――声が聞こえてきて入室が許可された。


「使用人が忙しいようじゃが、どうした? 」

(いくさ)だ」

「それは恐ろしいのぉ。(わらわ)が出向こうかのぉ? 」

「それには(およ)ばない。それにここでエリシャが命を落としてしまうと先祖(せんぞ)に顔向けできん」


「相手は、強いのかの? 」

「強い、のではなく厄介(やっかい)だ」

「なるほど。このままいくと(ぬし)は……死ぬぞ? 」

(もと)より少ない命。せめて生きた(あかし)を残そう。それが古代神殿からエリシャを引っ()りだしたわしの最後の役目(やくめ)


 そう言うと近くに()り袋と剣を彼女に差し出した。


「これは? 」

「ここより(はる)東方(とうほう)にどのような種族でも受け入れるという国があるそうだ」

「……」

「そこまでの駄賃(だちん)となる。少ないがな、ハハ」

「よいのか? (わらわ)が出れば……」

「構わない。それにまだわしの国。自分の国を護れずして何が国王か」

「いいのかの? 」

「ああ。それにいい機会なのかもしれない。お(かざ)りの国王はもう今日で終わりだ」


 そう言い不敵に笑ってみせた。


「勝てば英雄王。負ければ……欲に(おぼ)れた貴族共々(ともども)滅びるのみ。しかし……」

「しかし? 」

「タダでやられる気はない。相手に一太刀(ひとたち)くらい入れてやろう」


 そう言い王のマントを(ひるがえ)し、戦場へと向かった。


 ★


「なによ、あの化け物! 簡単に落とせると思ったのに!!! 」

「あれは予想外、予想外」

「強かった」


 廃都(はいと)となった小国の王都を闊歩(かっぽ)するエカテー。

 しかし彼女は右腕を失っていた。

 最後、吸血鬼族の王が――万全(ばんぜん)の体調でないにもかかわらず――彼女の腕を切り落としたのだ。


 ()めていた。


 そう言われても仕方ない。

 しかし途中から参戦(さんせん)したルータ達の介入(かいにゅう)により王侯貴族全員を皆殺(みなごろ)しにして事実上国を落とした。


「モンスター達も半分以上失ったじゃないの! これじゃあの女に復讐がぁ! 」


 片腕で頭を()きむしり苛立(いらだ)つエカテー。

 彼女が保有(ほゆう)するモンスターの数を考えれば過剰(かじょう)戦力なのだが復讐にとらわれた彼女はより強い力を欲した。


「でも君が偉大な召喚士(グランド・サモナー)になったのは意外だったね」

「以外、以外」

「わるいの!! 」

「違う、違うよ、誤解だよ。もちろんいい意味だよ」

「そうそう」

上位召喚士(ハイ・サモナー)くらいで収まると思っていたのだけれど、偉大な召喚士(グランド・サモナー)になるなんてね。良い誤算(ごさん)だよ」

「おかげで、移動が(らく)ちん、(らく)ちん」


 カルボ王国からどのようにしてこの辺境(へんきょう)の国まで来たのか。

 答えは案外(あんがい)簡単で、召喚できるモンスターの種類が増えた事に起因(きいん)する。


 彼女は竜種までも召喚できる偉大な召喚士(グランド・サモナー)になれたことによりワイバーンで飛んできた。それだけである。

 国を出る頃はまだ召喚できなかったが人目(ひとめ)に付かない、小さな村や国を(つぶ)していくうちに召喚できるようになった。

 そこから各地を転々としながら召喚用の(にえ)を探して回っていたということだ。


「……待ってなさい。必ずあの女を地獄に落としてやる!!! 」

「地獄と言うか、邪神様の御許(みもと)だけどね」

「邪神様、邪神様」


 狂気(きょうき)()ちた瞳をバジルの方へ向けながら今日も呪詛(じゅそ)()くエカテーであった。

お読みいただきありがとうございます。

これで四章は終了になります。少しお時間を頂いて次回投稿は一週間後の12月31日となりますのでよろしくお願いいたします。


またもしお気に召しましたら是非ブックマークへの登録や広告下にある★評価よろしくお願いします。

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