表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
種族の輪 《サークル》 ~精霊術師は今日も巻き込まれる~  作者: 蒼田
第四章 カルボ王国の激震 上 エレク第一王子誕生祭
168/442

第百五十一話 獣王国最高戦力の一人『銀狼卿』フェン・グレカスと言う名の男

「衛兵、必要なかったな」

上限解放(オーバー・リミット)、初めて見ましたが凄いですね」


 訓練場を見下ろし惨殺(ざんさつ)現場を遠い目で見た。

 そこに(たたず)むは一人の狼獣人だ。

 上限解放(オーバー・リミット)が切れたのか体毛が引き前の状態に――戦闘前の状態に戻る。

 そして少しふらついたと思うと(ひざ)をついた。


「……反動(はんどう)ですね」

「あれだけの力を使ったんだ。倒れ込むのも無理ねぇな」

「衛兵が()()るぞ? 」

「あぁ~なるほど。衛兵は銀狼卿用だったか」


 衛兵が近寄り銀狼卿に回復魔法をかけている。

 そしてすぐに元気になったのか立ち上がりこちらを見上げた。


「姫様! 英雄殿! どうでしたかな? 」


 物凄い良い笑顔で聞いてくる狼獣人。

 余程鬱憤(うっぷん)()まっていたのだろう。顔に「すっきりした」と書かれている。


「素晴らしい戦いです」

「流石獣王国が(ほこ)る最高戦力の一人ですね。美しい戦いでした」

「ははは、そう言って(いただ)けるとこれ以上ない喜び。上限解放(オーバー・リミット)を使ったかいがありましたぞ」


 無難(ぶなん)な言葉で()めたが内心(ないしん)「このやばい老人、どうしよう」と思った。

 惨殺(ざんさつ)死体を横に笑顔で手を振る老人。

 状況を知らなければ逮捕案件(あんけん)だ。


 ふと、王様がこの状況をどう思っているのかと思いそちらの方を見る。

 何やら隣の獣王陛下と話しているが笑顔だ。

 王国の兵士がやられて笑顔とは、中々に黒いお方で。

 もしかしたら獅子身中(しししんちゅう)(むし)だったのかもしれない。


「デリク。あのおっちゃんこっちに来るぞ? 」

「え? 」


 よそ見をしているとエルベルが俺に伝える。

 目線を戻したら客席の下まで移動したフェンさんが跳躍で俺達の席まで飛んできた。


「よっと。お初お目にかかる! 吾輩(わがはい)獣王国ビストにて『銀狼卿』を名乗らせていただいているフェン・グレカスじゃ! この度は孫が世話になった。礼を言う! 」


 お礼を言うとさっきまでの迫力(はくりょく)はどこへやら。

 好々爺(こうこうや)のおじいちゃんのような雰囲気(ふんいき)を出しながら頭を下げた。

 (あわ)てて俺も自己紹介と挨拶(あいさつ)をしてやり()ごす。


「にしてもお若いですな。もっと屈強(くっきょう)(かた)を想像していたので吃驚(びっくり)ですじゃい」

「はは、お()ずかしい。おかげで訓練相手に「軽い」と言われる始末(しまつ)で」

「むしろ十二で重い一撃を放てるものがいるのならそれはそれで面白そうじゃが」


 少し瞳が(あや)しく光る。

 で、出来るだけ興味を持たれないようにしなければ……。

 あの拳の餌食(えじき)になりたくない。


「して、そなたの師はどなたになるのかな? 」

「師、というほどではありませんが……。(おも)に訓練を付けてくれたのはガルムさんですかね。狼獣人の」

「ガルム、とな? 」


 そう言うとつるつるした(あご)に手をやり考え込む。

 なにか地雷を()んだのか?!

 隣を見てリンにヘルプを頼むが何に引っかかっているのか分からないようで両手を上げている。


「ふむ。ガルムと言う名は狼獣人——特に銀色の体毛を持つ者には多い名前なので一般的な名前なのじゃが……。確か冒険者になった狼獣人の中でも突出(とっしゅつ)して強い者にそのような奴がおりましたな」


 十中八九俺達の知るガルムさんだ!

 これは知らないふりをしながら話すべきだろう。

 藪蛇(やぶへび)だ。

 ガルムの弟子! みたいな感じで戦いを(いど)まれたらかなわない。


「ま、それは置いておいて吾輩(わがはい)と一戦。どうじゃ? 」


 え……。


 その提案(ていあん)(すく)いを求めるようにリンを見るとキラキラした目でこちらを見ていた。

 クソッ! ダメだ。

 次にケイロン達の方へ向くと全員俺から遠ざかっていた。

 薄情(はくじょう)な!!! エレク王子とウォルター王子もかよ!

 最後にカルボ三世の方を向くと親指を立て「グッドラック」と口を動かす。

 あんたもかぁぁ!!!


「ぶ、武器を今日は持っていないので……」

(あず)かっておりました武器をお持ちいたしました」


 何とか回避しようとすると背後から一人に文官が精霊剣を持ってきた。

 裏切り者がぁ! 他人事だと思って!

 さっきの惨状(さんじょう)を見て俺にやれということか?! お前の顔はおぼえたぞ。


「さ、やり合いましょう」

「……はい」


 俺に拒否権は残っていなかった。

 訓練場へ連れ()られ剣と(こぶし)(まじ)えることに。


 ★


「恐らくじゃが、セグ卿は自身に強化魔法を使うのでは? 」

「ええ、そうですが……」

「全力の貴方とやりたい。準備をする時間を与えるわい」

「それならば遠慮(えんりょう)なく」


 もらえた時間を十分に使い自身に強化魔法を使う。

 ついでに剣と体に風の精霊を(まと)い、完了した。


「よろしいかな? 」


 (こぶし)を前に出し、聞いて来た。


「ええ。(むね)()りさせていただきます」


 剣を前に出して答える。


「エキシビションマッチ! 始め!!! 」


 先ほどの司会者が開始の合図(あいず)をする。

 こうして剣と(こぶし)交差(こうさ)した。


「中々の反応速度。さっきの若造(わかぞう)よりも、やりがいがある! フン!!! 」


 一瞬で距離を()められた俺はすぐさま横に飛び(こぶし)を回避する。

 しかしその状態で九十度反転し逆の(こぶし)で追撃。

 (こぶし)を剣を縦に構えて受け止めた。


「ほほ、流石に一撃二撃じゃ無理かの」


 未来視——足か?!


 そこから跳躍を使い後ろに飛び()()りを()す。

 てかあの(じい)さん。剣を(こぶし)で受け止めて無傷かよ!?

 ケリーさんを相手にしているわけじゃないのに!


「おや、避けられましたな。幾つかフェイントを入れたのですがそこまで距離をとられたら意味がなかったようで……」


 と、言いながら三十メルある距離をゼロコンマ数秒で詰めてくる。

 はやっ!

 分かっていたけれども!

 (あらかじ)め来るとわかっていた場所にタイミングを合わせて横薙(よこな)ぎの一閃(いっせん)()り出した。


「?! 」


 反撃を予想していなかったのかまともにくらい少し後退(こうたい)する。

 皮は切れたようだが血が出てない。

 やはりかなり硬いようだ。

 が、それも予想済み。連撃で追撃していく。


「中々に手強いの……」


 加速に加速をかけた追撃を(こぶし)ではたき落としていく銀狼卿。

 しかしここで連撃を止めるわけにはいかない。

 少しでも止めれば反撃されかねない。


 しかし攻撃を(さば)かれる中、それは襲ってきた。


『死』の気配。


 ぞくりと体中が(しび)れる。

 危機感知ではない死の感知。

 遅れて先読みが発動し、(こぶし)(あご)にめり込む未来が視えた。


「跳躍!!! 」

餓狼王拳(ガロウ・オウケン)!!! 」


 ヤバい、と本能(ほんのう)が叫んだ瞬間上空に逃げる。

 全身冷や汗を流しながら下を見ると、(こぶし)()き出したフェンさんがいた。

 そしてその(こぶし)の先には(えぐ)れた地面と壊れた訓練場の壁だけが残っている。


「そこまでです!!! 」


 リンのその一言と共に俺は上空から降りて着地(ちゃくち)安堵(あんど)の息をついた。

お読みいただきありがとうございます。

もしお気に召しましたら是非ブックマークへの登録や広告下にある★評価よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新しく始めた異世界転生ものになります!
ハズレ枠の転生貧乏貴族は武姫を継承し最強へ至る
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ