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種族の輪 《サークル》 ~精霊術師は今日も巻き込まれる~  作者: 蒼田
第四章 カルボ王国の激震 上 エレク第一王子誕生祭
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第百四十五話 誕生パーティー 一

 俺達は今豪華(ごうか)な馬車に乗り王城へ向かっている。

 誕生祭(たんじょうさい)が終わったためか俺達が王都に入った時よりも大通りに人が少ない。

 (するど)眼光(がんこう)の老人——本人は宰相(さいしょう)ドーマ侯爵(こうしゃく)と名乗った――は俺達の正面に座ってこちらをずっと見ている。

 正直居心地(いごこち)が悪い。

 と、言うよりも生きた心地(ここち)がしない。


 当初俺が呼ばれたので俺のみが行くものだと思ったがどうやらスミナとエルベルも御招待(ごしょうたい)のようだ。

 俺の両脇で同じく体を(ちぢ)こませている。

 いつもならばこの(きら)びやかな馬車に目を(かがや)かせ問題行動を起こすエルベルだが今回は彼女も大人しい。

 流石にこの異常状態を(さっ)したのだろう。


「そこまで緊張なさらなくても大丈夫ですよ」

「「「(そういわれても無理があるだろ……)」」」


 少し顔を(くず)し俺達の緊張を()こうとする宰相(さいしょう)閣下。

 もしこの状況で緊張しない(ごう)の者がいるのならぜひ変わってほしい。


(くわ)しい事は陛下がお話になられると思いますが悪い事ではないのでご安心を」

「……お言葉ですが閣下。良い事をした(おぼ)えもないのですが」


 少しでも場を(なご)ませるためにドーマ(こう)が口を開いたので流石に何か話さねばと思い口を開く。

 (あん)に何もしていない、と無関係無罪を主張(しゅちょう)するのだが俺の言葉を聞いて少し瞳を見開いた。


「ははは、謙遜(けんそん)を。この国の()(すえ)を左右する多大な功績(こうせき)を上げられたではないですか。我々国王陛下一同感謝しておりますとも。ハハハ」


 全体を見ながら笑い()めたたええる目の前の宰相(さいしょう)閣下。

 最初の(するど)眼光(がんこう)はどこへやら。まるで好々爺(こうこうや)のような宰相(さいしょう)閣下。


 だが俺は――俺達はそんなことをした(おぼ)えはないぞ、宰相(さいしょう)閣下!

 もしかしてあれだろうか? 誕生祭(たんじょうさい)中に冒険者ギルドの依頼と言う名の脅迫(きょうはく)を受けながら低級モンスターを()っていたあれだろうか。

 誕生祭(たんじょうさい)中に王都への氾濫(はんらん)を抑えたという点を考えると有り()る話だ。誕生祭(たんじょうさい)は各国の来賓(らいひん)が来る日。赤っ(ぱじ)(さら)さなかったという意味では確かに貢献(こうけん)した。

 だがそれだけで国王様が呼ぶか? 精々(せいぜい)文官がやってきて報酬を渡す程度だろう。


「さて、王城へ着きました。この先王城になります故、粗相(そそう)のないようお願いいたします」


 (するど)眼光(がんこう)が戻ってきて俺達を不安のどん底に(おとしい)れる。

 馬車はそのまま王城へ吸い込まれるように入っていくのであった。


 ★


 時は(さかのぼ)り王家主催(しゅさい)パーティー。

 今は誕生祭(たんじょうさい)が終わり王城ではその後の(もよう)しがされていた。

 所謂(いわゆる)誕生(たんじょう)パーティー』といった所だ。


 王家が主催(しゅさい)するだけあって様々な物が並べられている。

 来訪(らいほう)した国々の特産や文化に合わせた食べ物を始めとし文化が融合した形をとったこの立食パーティーはカルボ王国特有のものだろう。

 王子の十五を(いわ)うためにやってきた各国の来賓(らいひん)達がカルボ王国国王カルボ三世や今回の主役(しゅやく)であるエレク第一王子に挨拶(あいさつ)していく。


 そして……。


「おお、どこのご令嬢(れいじょう)だ」

(あざ)やかな赤に黒い髪がお似合いだ。しかし確かに見たことないご令嬢(れいじょう)だな」

「あちらをごらんなされ。(そら)のような青を身に()った龍人族のご令嬢(れいじょう)だ」

「おお……。美しい……。さぞドラゴニカ王国の有名なご令嬢(れいじょう)だろう」


 来賓(らいひん)達が興奮しながら彼女達——ケイロン・ドラグとセレスティナ・ドラゴニル・アクアディアに見惚(みほ)れていた。

 彼女達の両親ドラグ伯爵やアクアディア子爵は自身の派閥(はばつ)(ほう)挨拶(あいさつ)に行っており今はおらず彼女達のみである。


 (きら)びやかなパーティーを行く彼女達の表情はすぐれない。

 どこか調子が悪いのだろうか。我々の国の食事が合わなかったのだろうかと心配する各国の王侯貴族だが、本当の所は違う。

 彼女達を知っている者なら今彼女達が不機嫌であることに気付くだろう。


「ヒッ! こおりの……」

「烈火、だと?! 」

「おい馬鹿! 何を言っている。口を(つつし)め。地獄を味わいたのか!!! 」


 集まったカルボ王国側の貴族——特に十五から二十にかけての貴族やその子息子女は恐怖に()られていた。

 彼女達が一睨(ひとにら)みすると派閥(はばつ)()わず恐怖のドン底に(おとしい)れるその様子を見て不審(ふしん)がる親達だが何も言わない。

 ドラグとアクアディア、特にアクアディアを敵に回すと厄介(やっかい)であることを知っているからだ。


「あら、ケイロンさんではありませんか」


 カルボ王国側が異常なまでの恐怖に()られている中一人の、いや集団を伴った令嬢(れいじょう)近寄(ちかよ)り声をかける。

 誰かが止めようとするも彼らも他の者に止られてしまった。

 

「社交界に顔を出さないから何か病気になったのかと心配しましたわよ」

「イチイナ」


 ケイロンにイチイナと呼ばれた子女率いる集団はケイロンに嘲笑(ちょうしょう)の笑みを浮かべながらも心配したという。


「確か貴方と会うのは卒業パーティー以来(いらい)でしたね」

「ええ」

「……何をなされていたのですか? 」

「特に」

「イチイナ様がこうおっしゃってるのよ。何か言いなさいよ」

「恐らく口に(はば)まれるようなことをしていたに違いありませんわ」


 人も()れれば気分が大きくなるものである。

 イチイナの父は四大公爵家の一つ、シリル公爵家の派閥(はばつ)の者でその中でも比較的高い地位にいる。

そのことも(あい)まってか(しょ)外国から王侯貴族が来ているにも(かか)わらず派閥(はばつ)(あらそ)いを通じて人を(おとし)めようとする彼女達の言動を、ケイロンとセレスティナは怒りを抑えながら冷たい目線で見ていた。

 

 今現在この女性達の(かぶ)急降下(きゅうこうか)中である。

 誕生(たんじょう)パーティーで無粋(ぶすい)なことをしているのに加えて(しょ)外国に(はじ)をさらしているからだ。加えて(しょ)外国の面々(めんめん)は自分達の国の者でなくてよかったと安心している者もいるが。

 

「私、先日武勲(ぶくん)を上げた殿方(とのがた)と結婚する運びになりましたの」

「おめでとう」


 ケイロンも最低限の言葉で返す。

 アンデリック達といるときとは想像できないほどに冷たい表情と最低限の言葉で軽く()めるケイロン。

 (もと)よりこの言葉数の少なさや取り(つくろ)ったような表情の少なさ、そして突出(とっしゅつ)した力のせいで彼女は氷の女王と呼ばれることになったのだがそれは一先(ひとま)ず置いておこう。


 『武勲(ぶくん)』と聞いてセレスティナが少し(まゆ)(ひそ)めた。

 彼女がアンデリック達に会う前まではそのようなことは聞いたことがない。あまりパーティーに出なかったにしても最低限の情報は集めている。ならばセレスティナがアンデリックと会った(あいだ)に『武勲(ぶくん)』とやらを手に入れたことになる。


 『武勲(ぶくん)』はその名の通り何かしらの、勲章(くんしょう)(あたい)する功績(こうせき)(たた)えたものである。戦争で上げるのが普通だが今は平時(へいじ)。ならば戦争以外となる。

 何かしらの事件を解決したのか、と考えるもわからない。アンデリック達が遭遇(そうぐう)したあの大規模誘拐事(ゆうかい)件以外に事件の情報が上がっていない。

 ならばフェイクか。いやそれもないだろうと考えた。このような(おおやけ)の場でフェイクを言う程までに彼女は大胆(だいたん)ではない。彼女の事はケイロンとセレスティナはよく知っている。

 不自然、と感じて口を(はさ)もうとするも周りに(しょ)外国の王侯貴族がいることを思い出す。学生の頃ならばすぐにでも殴り倒してでも情報を吐かすのだがこの場でそれはまずい。渋々(しぶしぶ)セレスティナは拳を抑えた。


 セレスティナのそのような考えも知らずにこのイチイナ嬢はケイロンの――短い――言葉を侮蔑(ぶめつ)と取ったのか、はたまた自分に興味がない事が気に入らないのかあからさまに眉間(みけん)(しわ)()せ不機嫌になった。


「ですのでこれからは貴方よりも上になります。ごきげんよう」


 何が? と二人共思ったが口にしない。

 単なる優越感(ゆうえつかん)(ひた)りたかっただけなのか、自分の不利(ふり)(さと)ったのかわからないがそう言い残し彼女は一団(いちだん)を連れ()ってしまった。


「なんですの。いつもあの女は」

「さぁ? 」


 二人とも彼女が何をしたかったのか言いたかったのか分からず首を(かし)げていると聞き(おぼ)えのある声が聞こえてきた。

お読みいただきありがとうございます。

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新しく始めた異世界転生ものになります!
ハズレ枠の転生貧乏貴族は武姫を継承し最強へ至る
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